光の射す方へ

弐式

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5.再会

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 ……にしても、離れる前よりも、光が強くなっているような気がするのは、気のせいではない、と思う。

 バルドルが入ってきたことで、闇に閉ざされていたその部屋の状況がかなりわかるようになった。それは、かなりのスペースがある広間だった。その中に、数百は下らないファントムたちが蠢いていた。

 光に照らし出されたファントムの姿は、鉛筆で雑に塗りつぶされた人型のように見えた。

 ファントムたちは光を恐れるのか、悲鳴のような声を上げた。ファントムが声を出せることを、アカリは初めて知った。

 しかし、ファントムにとって光は恐怖の対象ではあっても、致命傷を与える刃ではないらしい。悲鳴が収まった後、今度は憎悪を思わせる低く唸るような声を発した。

 その声とともにファントムたちはバルドルにめがけて次々に突進していった。

「!!」

 次の瞬間、目の前で起こった光景に、アカリは息を呑んだ。

 バルドルの口から、青白い光が漏れた。そして、白い光線がバルドルの口から放たれ、それに当たったファントムたちは真っ二つに切り裂かれ、黒い煙が霧散していくように消滅していく。

 同時に、アカリは自分の置かれている状態も知ることができた。

 檻の鉄棒の隙間に頭を突っ込んで位置関係を確かめると、アカリの入っている檻は、広間の床から5メートルほどだろうか高く吊るされているのがわかった。

 アカリが閉じ込められている檻のサイズは、高さ約2メートル、直径1.5メートルくらいだろうか。外を見ると、破壊された瓦礫が床に落ちて言っているので、檻の中だけが、重力の束縛から解き放たれた空間になっているようだった。

 バルドルが咆哮を上げると、そのたびに檻が揺れる。アカリは鉄棒を掴んで振り回されないようにこらえた。最初は微かに。そのうち、大きく振れるようになっていって、アカリは鉄棒にしがみつくのが精いっぱいになって、戦況を確認することができなくなってしまう。
 
 だがそれも長い時間ではなかった。辺りは完全に沈黙し、あれほど、沢山いたはずのファントムの姿は見えなくなっていた。

 全てバルドルによって殺戮されたのか、逃げてしまったのかは分からない。

 アカリは鉄棒の一本に両手でしがみついていたが、揺れが収まったので手を離した。

 ほっとしたのも束の間、今度は縦方向に檻が動いた。勢いよく落下していったのだ。鉄棒に手を伸ばす間も、悲鳴を上げる余裕もなく、檻が地面に到達した。

 幸いというべきか浮いていたアカリに何のダメージもなかったが、一瞬真上に引き上げられるような感覚を感じた。

 アカリを守っていた無重力の状態がなくなって、ドシンとお尻から床に落ちた。おまけに、そのまま檻が真横に倒れて肩をうちつけた。

「あ……イタタ……」

 アカリがお尻と右の肩をさすりながら立ち上がると、バルドルの口からさらに光線が放たれた。その光線は、アカリが閉じ込められていた檻の鉄棒をいとも簡単に切り裂いて、蓋の部分がポロリと倒れた。

 見た目のわりにずいぶんと軽い音だった。

 バルドルによって開かれた出口から、アカリは檻の外に出る。ぶつけたお尻が痛くて、びっこをひくようなひょこひょこした歩き方になってしまう。

 アカリは腰に手を当てて、「もう。助けるのなら、も、ちょっと優しく助けてよね」と、少し頬を膨らませてみせながら言った。

 バルドルが申し訳なさそうに、きゅぅ、と鼻を鳴らす。アカリは、うなだれたバルドルの首に抱き付き、「ごめんね。ありがとう。助けに来てくれて」とバルドルのくちばしの上にキスをした。

 バルドルから離れ、自分がさっきまで入れられていた檻に目をやった。バルドルが切り裂いた鉄棒のエッジがきらっと光っている。

 それから、バルドルが入ってきた方向に目を向ける。これもバルドルが破壊したのだろう。広間の壁に大きな穴があいている。

 広間は石造りの壁になっていて、これを破壊するのに相当の力必要だったのだろう、と思う。

 アカリは、穴のところまで歩いて行き、石造りの壁に軽く触れた。触れた時に感じた冷たく硬い感触は、これがハリボテなどではなく、本物だということを示している。

「……これを破壊できる力なんて……」

 アカリはぽつりと呟いてバルドルを見つめた。少なくとも、アカリはこれまでバルドルが“戦う”ところを見たことなどなかった。これほどの破壊力を持ち、あれほどの数のファントムをものともしない戦力を有しているとは、考えたことさえなかった。

 バルドルはいったい何者なのか……。

 私はバルドルについて知らないことが多すぎる……。

 そんなことを考えたアカリは、そのことを何故、一緒に旅をしていた時に考えさえしなかったのかと疑問に感じるとともに驚愕もしていた。

 しかし、よくよく考えれば、常に死と隣り合わせの世界で、そんなことに考えが及ぶだけの余裕がなかったというだけのことだろう。

 ということは、今はまだ心に余裕があるということなのだろう。
 
 アカリはそう自分を納得させる。

 初めて会ったあの時からアカリはずっとまもられ続けていたのだから。
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