切り取られた世界の中で、広がる世界 ~初心者カメラ女子高生のエンジョイフォト~

弐式

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【1章】晶乃と彩智

14.写真は格好良く撮りたいね

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 受け取った時に感じたちょっとした重量感は、立ったままでカメラを構えるとさらに増した。手首とか二の腕とか、ごく一部に荷重がかかっている感じ。

 晶乃が顔をしかめたことで察したのか、あるいはよっぽど構えた姿がみっともなかったのか、「カメラの構え方から教えなきゃね。せっかくだから彩智が教えてあげなよ」と四季が言い、「いいよ」と彩智が応じて、「ところでレンズは何?」と言いながら、晶乃の手の中のデジタル一眼レフを横から覗き込んだ。

「レンズは28㎜から80㎜の標準ズームで簡易マクロつき。サードパーティ製のレンズかぁ。AFは利くみたいだけれど、せめて純正のデジタル用にしてよ。標準ズームでいいからF2.8の通しくらいの明るいレンズがいいな」

「さらりと図々しいことを言うね。まぁ、初めて使うのだからその位で十分。ちゃんと手入れはしているレンズだからそこは安心して。それより、まずは手ブレ写真を量産しないように、撮影する時の姿勢を覚えて」

 四季に促され、彩智がコホンと小さくわざとらしい咳払いをした。

「とりあえず……シャッターを押す右手はカメラの右をしっかり握る。左手は本体の下とレンズの下を支える。シャッターを押す時に上から下に力が掛かるから左手で下から支える感じ。肘は開かないように、脇をしっかりと締めて。今は強力な手振れ補正が付いている機種が多いけれど、カメラのブレは無いに越したことはないから」

 彩智のアドバイスを聞きながら、手の中のデジタル一眼レフを構え直す。ぎゅっと脇に肘を付ける感じで構えると窮屈に感じるものの、手首にかかっていた負担がかなり軽減された気がする。

「うん、いいね。なかなか様になっているよ。それが基本の構え方だから。立って撮る時も、しゃがんで撮る時も脇を締めることを忘れないで」

 ニコニコしながら四季がカウンターの上の30センチ四方位の四角い鏡を晶乃の方に向ける。鏡の中の姿が、何だかカメラマンっぽく見える。

 思わず顔がにやけた晶乃に、四季からのアドバイスが続けられた。

「縦に構えるときはシャッター……つまり、右手を上にするのも、下にするのもアリなんだけれど、その時も、左手の肘は脇の下に付けて、とにかくカメラがブレないように気を付けて」

 言われたように縦に構える。まずは右手が下になるように構え、それから右手が上になるように構えてみる。

「私は右手を上に構える方がやり易く感じたけれど、右肘が開いちゃうのは嫌かな」

 晶乃が言うと、

「右手を上にすると肘があがっちゃって周りに人がいたら当たっちゃうかもしれないし、イベントで大勢人が集まっているところでそれをやったら後ろの人の視界を遮っちゃうしね。そこは周囲の状況を見ながらケースバイケースで使い分けが必要だね」

 四季がそう返したが、そこは晶乃の言いたい所ではなかった。四季に言われて初めてようやくそこに考え至った。初めてカメラを持ち出す晶乃にとっては、写真を撮るときに周囲の状況を考えながら撮影するというのは、あまりにハードルが高く感じられる。

「そうじゃなくて服装が……今日は長袖の上着を羽織っているから良いんですけれど……」

「あ―。何となくわかる。ノースリーブの服とか着ている時は確かに嫌かも」

 と彩智が応じる。

「意外に写真を撮りに行くときは服装にも気を付けないといけないかもね。動きやすい、撮影の邪魔にならない服装の方が無難だよね。まぁ、今のあなた達みたいな恰好なら大丈夫でしょうけれど」

 四季の台詞には何となく実感がこもっているような気が、晶乃にはした。きっと彼女自身も、これまでに色々と失敗してきたのだろう。しかし、経験値が少ない晶乃には具体的に想像することが出来なかったので、疑問をそのまま口にした。

「撮影の邪魔になる恰好ってどんなのかな?」

「ゴスロリとか? 晶乃だったら意外に似合う――」

「着るか! 似合ってたまるか!」

 彩智の返事は冗談とも本気ともつかないもので、晶乃はおかしな格好をさせられてはかなわないと悲鳴じみた声を上げる。

「ほらほら、いつまでもこんなところで駄弁だべってても仕方ないから、さっそく写真を撮りに行ってらっしゃい。それから写真を撮るときに大事なのは第一にマナーだからね。他人の邪魔や迷惑になることはしないこと。入っちゃいけないところには入らないこと。危ないことはしない事。ファインダーの中の世界はあなたたちだけのものだけれど、ここは色んな人たちが生活している場所だってことを忘れちゃいけないよ」

 四季に釘を刺された晶乃は、小さく頷き、「気をつけます」と答える。

「じゃ、行こうか」

 と扉を開いた彩智の後を追って藤沢写真機店から出ようとした晶乃はふと振り返る。目があった四季が小さく手を振ったので、晶乃はもう一度、小さく頭を下げて、扉を閉めた。
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