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【1章】晶乃と彩智
15.まずはシャッターを切ってみる
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「実際問題・・・・・・写真って、どうやって撮ればいいんだろう」
藤沢写真機店を出て、来た道を逆に駅に向かって歩いていく。晶乃がふと口にした疑問にあわせて、
「写真なんてのはね」
と彩智が答える。彩智は晶乃の少し前を後ろ向きで歩いている。いくら空き店舗の目立つ駅前商店街とはいえ、休日で人通りが少なからずあり、晶乃は冷や冷やする。そんなことはお構いなしに彩智は言葉を続けた。
「モードダイヤルをAUTOにあわせて、撮りたいものを中心にして、シャッターを半押しでピントをあわせたらシャッターを全押しすればいいんだよ」
「それ……全部機械任せって事?」
「そうだよ」
晶乃はモードダイヤルをAUTOの所に合わせてから、レンズを彩智の方に向けた。彩智は足を止めて、ちょっと気取ったようなポーズをとった。「可愛く撮ってね」と人差し指と中指をぴんと立てた右手を、自身の右頬に当ててウインクする。
ファインダーを覗き込むと、彩智の顔がぼやけて写っている。彩智の胸から上が収まっているのがかろうじてわかる程度だ。
「シャッターを半押し……」
シャッターボタンにちょっとだけ力を入れる。シュッとレンズが動く音がした。ファインダーの中の彩智の顔がはっきりしたものになる。シャッターボタンにさっきより強く力を込める。シャッターを切った気持ちのいい電子音が聞こえた。撮った写真は後で確認するとして、今度は……。
「・・・・・・あれ? 彩智の顔をアップで撮りたいんだけれどどうすればいいの?」
スマホみたいにタッチパネルで拡大縮小をするものだと思ってた晶乃は、Nikon D70の小さな液晶のどこにもそんな棒ゲージが見あたらないので戸惑う。
「レンズのズームリングを回すんだよ」
彩智が自分のオリンパス E-M5を持ち上げてレンズの胴部を回してみせる。その真似をして同じようにD70のレンズを回してみる晶乃だったが、ぼやけた見え方に変わるもののファインダーの中の彩智の顔は大きくも小さくもならない。
「そっちはフォーカスリング。そう、そっちそっち」
晶乃はファインダーを覗き込みながらズームリングを回すと、今度はファインダーの中の彩智がずずっと近づいてきた。いや、自分はその場にとどまっているはずなのに、自分からだんだん近づいていっているような感じ。
ファインダーいっぱいに広がった彩智の顔を狙ってシャッターを切る。覗き込んだファインダーの中に色んな数字や何かのアイコンが出ているが、意味が分からないので無視する。
何回かシャッターを切った後、ファインダーから目を離して背面の液晶に撮影したばかりの画像を再生した。
「悪くないね」
と言った彩智に、晶乃は小さく頷いて同意する。背景の商店街の道のりがボケてくっきりと浮き出した彩智の顔は、我ながら悪くないと思う。
でも、何かしっくりこないと晶乃は思った。
「何か……違う気がするなぁ」
晶乃が呟くと、
「一般的にだけれど……」
と彩智が答える。
「ハイポジションのハイアングルから撮影された人物写真は見る人に威圧感を与え、ローポジションのローアングルから撮影した写真は見る人に雄大な印象を与えるというね」
アングルとは角度のことでハイアングルは上からの角度、ローアングルは下からの角度のことを言う。また、ポジションとはカメラを構える高さで、一般にアイレベル(目線くらいの高さ)よりも高い位置をハイポジション、低い位置をローポジションと言う。
「この組み合わせを自在に使いこなすことが出来るようになれば、写真の幅がぐっと広がるよ」
「なるほど」
晶乃と彩智の身長差は30㎝以上。立った状態でカメラを構えると、自然と上から見下ろす形になる。それが違和感に繋がったのかもしれない。
晶乃は今度はレンズを水平に構えて、膝を曲げて腰を落とす。
「……あれ? 何だか構えが様になっているね。初めての人が高さを下げようとしたら中腰になって体勢が不安定になってしまいそうなのに」
「そう? バスケをやっていた時の体勢を応用してみたつもりなんだけれど」
「うん。初めてデジタル一眼レフを持ったようには見えないよ」
「おだてても、何も出ないよ」
晶乃はシャッターボタンに指をかけ、彩智は自分の後頭部のポニーテールを押さえてポーズをとる。
「あらあら、ご姉妹で写真を撮っているのね。仲が良くていいわねぇ」
通りすがりの上品そうな老婦人が、そんな声をかけてきたので、晶乃はシャッターを押し込もうとした指を止めてしまう。
「姉妹じゃぁ……」
「社会人のお姉ちゃんと、小学生の妹さんね。いつまでも仲良くね」
言いかけた晶乃は完全にスルーされた。おほほほほ、と品の良さそうな笑いを残して老婦人は、あっという間に去っていった。とっさのことで呆気にとられてしまった晶乃は、訂正することも出来ず、我に返った時には、すでに遅しだった。
前を見ると、彩智もどうやら同じだったらしい。
「小学生……って」
「社会人……って。この間まで中学生だったのに」
2人の言葉が重なり、ついでに溜め息も重なる。
「そんなに幼く見えるかなぁ」
「そんなに老けて見えたかなぁ……」
全くベクトルの違う悩みを抱えてしまった高校1年の女子学生2人。どちらかともなく「場所……変えようか」と言い出し、「じゃ、近くの公園に行こうよ」と意見はまとまった。
藤沢写真機店を出て、来た道を逆に駅に向かって歩いていく。晶乃がふと口にした疑問にあわせて、
「写真なんてのはね」
と彩智が答える。彩智は晶乃の少し前を後ろ向きで歩いている。いくら空き店舗の目立つ駅前商店街とはいえ、休日で人通りが少なからずあり、晶乃は冷や冷やする。そんなことはお構いなしに彩智は言葉を続けた。
「モードダイヤルをAUTOにあわせて、撮りたいものを中心にして、シャッターを半押しでピントをあわせたらシャッターを全押しすればいいんだよ」
「それ……全部機械任せって事?」
「そうだよ」
晶乃はモードダイヤルをAUTOの所に合わせてから、レンズを彩智の方に向けた。彩智は足を止めて、ちょっと気取ったようなポーズをとった。「可愛く撮ってね」と人差し指と中指をぴんと立てた右手を、自身の右頬に当ててウインクする。
ファインダーを覗き込むと、彩智の顔がぼやけて写っている。彩智の胸から上が収まっているのがかろうじてわかる程度だ。
「シャッターを半押し……」
シャッターボタンにちょっとだけ力を入れる。シュッとレンズが動く音がした。ファインダーの中の彩智の顔がはっきりしたものになる。シャッターボタンにさっきより強く力を込める。シャッターを切った気持ちのいい電子音が聞こえた。撮った写真は後で確認するとして、今度は……。
「・・・・・・あれ? 彩智の顔をアップで撮りたいんだけれどどうすればいいの?」
スマホみたいにタッチパネルで拡大縮小をするものだと思ってた晶乃は、Nikon D70の小さな液晶のどこにもそんな棒ゲージが見あたらないので戸惑う。
「レンズのズームリングを回すんだよ」
彩智が自分のオリンパス E-M5を持ち上げてレンズの胴部を回してみせる。その真似をして同じようにD70のレンズを回してみる晶乃だったが、ぼやけた見え方に変わるもののファインダーの中の彩智の顔は大きくも小さくもならない。
「そっちはフォーカスリング。そう、そっちそっち」
晶乃はファインダーを覗き込みながらズームリングを回すと、今度はファインダーの中の彩智がずずっと近づいてきた。いや、自分はその場にとどまっているはずなのに、自分からだんだん近づいていっているような感じ。
ファインダーいっぱいに広がった彩智の顔を狙ってシャッターを切る。覗き込んだファインダーの中に色んな数字や何かのアイコンが出ているが、意味が分からないので無視する。
何回かシャッターを切った後、ファインダーから目を離して背面の液晶に撮影したばかりの画像を再生した。
「悪くないね」
と言った彩智に、晶乃は小さく頷いて同意する。背景の商店街の道のりがボケてくっきりと浮き出した彩智の顔は、我ながら悪くないと思う。
でも、何かしっくりこないと晶乃は思った。
「何か……違う気がするなぁ」
晶乃が呟くと、
「一般的にだけれど……」
と彩智が答える。
「ハイポジションのハイアングルから撮影された人物写真は見る人に威圧感を与え、ローポジションのローアングルから撮影した写真は見る人に雄大な印象を与えるというね」
アングルとは角度のことでハイアングルは上からの角度、ローアングルは下からの角度のことを言う。また、ポジションとはカメラを構える高さで、一般にアイレベル(目線くらいの高さ)よりも高い位置をハイポジション、低い位置をローポジションと言う。
「この組み合わせを自在に使いこなすことが出来るようになれば、写真の幅がぐっと広がるよ」
「なるほど」
晶乃と彩智の身長差は30㎝以上。立った状態でカメラを構えると、自然と上から見下ろす形になる。それが違和感に繋がったのかもしれない。
晶乃は今度はレンズを水平に構えて、膝を曲げて腰を落とす。
「……あれ? 何だか構えが様になっているね。初めての人が高さを下げようとしたら中腰になって体勢が不安定になってしまいそうなのに」
「そう? バスケをやっていた時の体勢を応用してみたつもりなんだけれど」
「うん。初めてデジタル一眼レフを持ったようには見えないよ」
「おだてても、何も出ないよ」
晶乃はシャッターボタンに指をかけ、彩智は自分の後頭部のポニーテールを押さえてポーズをとる。
「あらあら、ご姉妹で写真を撮っているのね。仲が良くていいわねぇ」
通りすがりの上品そうな老婦人が、そんな声をかけてきたので、晶乃はシャッターを押し込もうとした指を止めてしまう。
「姉妹じゃぁ……」
「社会人のお姉ちゃんと、小学生の妹さんね。いつまでも仲良くね」
言いかけた晶乃は完全にスルーされた。おほほほほ、と品の良さそうな笑いを残して老婦人は、あっという間に去っていった。とっさのことで呆気にとられてしまった晶乃は、訂正することも出来ず、我に返った時には、すでに遅しだった。
前を見ると、彩智もどうやら同じだったらしい。
「小学生……って」
「社会人……って。この間まで中学生だったのに」
2人の言葉が重なり、ついでに溜め息も重なる。
「そんなに幼く見えるかなぁ」
「そんなに老けて見えたかなぁ……」
全くベクトルの違う悩みを抱えてしまった高校1年の女子学生2人。どちらかともなく「場所……変えようか」と言い出し、「じゃ、近くの公園に行こうよ」と意見はまとまった。
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