切り取られた世界の中で、広がる世界 ~初心者カメラ女子高生のエンジョイフォト~

弐式

文字の大きさ
16 / 44
【1章】晶乃と彩智

16.初めてデジタル一眼レフを持った日も終わり

しおりを挟む
 青い空が広がっている。しかし日は西の方にかなり傾き、太陽の光はオレンジ色がかなり含まれている。ベンチに腰掛け、その空に向けてレンズを向けた晶乃は、ほぉっと息を吐く。横には彩智が座り、両手にカメラを持って、小さな欠伸をしていた。

 遊具は一つもないがそれなりに広い公園には小さな子供を連れた母親の姿が目立つ。ここに来た時には、こういうところは気を付けないと……と、晶乃は少し警戒していた。もしも、「うちの子を勝手に撮って」などと言いがかりをつけられたら面倒なことになりそうだ。などと思う晶乃は、少々毒されすぎだろうか。

 結果的には警戒するようなことは何もなく、結構な時間、誰にも邪魔されることなくシャッターを切ることを楽しむことが出来た。

 まずは、カメラに慣れるために花壇の花を撮影した。赤い花と白い花と淡い水色の花がある。晶乃はあまり園芸には興味がないので何の花なのかは知らない。全部機械任せのAUTOモードで撮影してみる。まずは全体を撮るためにズームレンズを回す。花壇全体が写真に納まった。

 次に、その中の一つの白い花弁に狙いを定める。ズームレンズを先程とは逆に回すと白い花びらが近づいてきた。そしてその花にピントを合わせてシャッターを切る。

「実はこのレンズには簡易マクロがついているのだよ」

 と何故か胸を張った彩智が言った。

「マクロ?」

「そう、マクロレンズっていうのは被写体を大きく撮ることが出来るレンズなの。このレンズの焦点距離は28㎜から80㎜でテレ端の80㎜の時に、側面についている切り替えのスイッチでノーマルとマクロとを切り替えられるのよ」

 さっそく試してみる。

 確かに、さっき望遠で撮影した時よりも、気持ち寄ってきているようにも思える。先程、彩智は四季に対して大したことのないレンズのように言っていたが、これ一本で色んな撮り方が楽しめて面白い。

 それから、樹木の下で彩智をモデルに写真を撮ったり、逆に晶乃がモデルになったりと、代わる代わるに撮り手を務めながら写真を撮った。

 晶乃にとっては撮影も初体験だが、こんなに撮られたのは初めてだった。中学の頃のバスケの試合の時や新聞に全員写真が掲載されたときなどでそれなりに撮られているのを意識していたから、写真に撮られること自体には多少慣れていると思うが、こんなふうに正面から、レンズと向き合って、ポーズを決めたりしながら撮影されるのは、あまり経験がない。

 撮られているうちに楽しくなってきて、自分で手の位置や足の運びなどを工夫したり、くるりと回って動きを付けたりした。

 実を言うと、彩智が撮った自分の写真を、晶乃はまだ見ていなかった。気分が高揚した状態で、普段ならしないであろうポーズまで付けて撮影されたので、冷静になったら見せてもらうのが気恥ずかしく感じて仕方ない。

「ちょっと意外だった」

 と、撮影の後、ベンチに並んで座っていると彩智に言われた。

「晶乃って、もっとクールな人だと思ってた」

 クールっぽいというのは中学の頃にもよく言われた。確かに、それなりに物事に動じないタイプではあると自分でも思う。しかし、どっちかと言えば鈍いのであって、胆が座っているというわけではないのだろうとも思っている。

「それは、クールって言葉の意味を履き違えているよ」

 晶乃は笑いながら自分が撮影した写真を背面の液晶に映し出してみる。晶乃が撮った彩智の写真はアップが多かった。今日覚えた人の撮り方は、せいぜい正面からアイレベルで撮るということだけだ。どれも変わり映えのしないものに見えて、ちょっと……かなり残念に思う。

 そう言えば、彩智の方は晶乃を中心に場所を変えたりしゃがんで下から撮ったりして、工夫しながら撮っていた。自分も、もっと工夫して撮ってみれば良かったと晶乃がカメラを持って初めての後悔を覚えた。

「ね。何か食べに行かない?」

 晶乃が撮った画像を再生しながら考え込んでいると、彩智がそんなことを言い出した。お腹が空いて頭を抱えていると思われたのかもしれない。スマホで時間を確かめると列車の時間ギリギリになりそうだけれどちょっとパフェでも食べるくらいの時間はありそうだった。

「いいね」

 ……次は、もっといろいろと試してみたいな。次の約束はまだしていないけれど。

 晶乃は電源をOFFにして立ち上がると、一日が終わるのを名残惜しく感じながら掌でお尻を払う。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...