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【1章】晶乃と彩智
30.憧れの先輩
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「凄いです! 水谷先輩!」
千里が声を張り上げて、「失礼なことを言って、申し訳ありませんでした」と深々と頭を下げる。
「次は、私と1対1の相手をしてください」
「先輩みたいなプレイが出来るようになりたいです」
1年生の素直な尊敬の声に、不穏な空気を感じでいた彩智もほっと胸をなでおろす。
「ワンプレイで、1年生を虜にしてしまったみたいですね」
不意に後ろから聞こえた声に彩智が振り返ると、そこにいるのは緑色のジャージに、かなり短めのショートカットの女生徒。バスケットボール部のキャプテンだった。
「さっきのって凄いシュートなの?」
「ああいうディフェンダーに体を直角の位置に置いて、片手でホールドしたボールを自分の頭越しに撃つシュートをフックシュートなんて呼んだりします。水谷先輩はボールのコントロールが本当に上手いんです。中学の県予選の時はあのフックシュートで、インサイドからガンガンとシュートを決める点取り屋だったんですよ」
「……そうなんだ」
彩智は自分の足元に目をやる。中学でやっていたことを高校で続けなかったことが互いの共通点だと思っていたけれど、随分と違うものだ。
「先輩自身は、本人が言っている通り、基礎を徹底的にこなして身につけた、どっちかと言えば地味なプレイヤーなんですが、不思議と華があるんですよ」
「うん。それは何となくわかる」
素人の彩智でさえ、シャッターを切るのを忘れて――速すぎて切れなかったというのもあったが――その動きから目を離せなかった。同年代の女子の動きを格好いいと思ったことは初めてなのかもしれない。
「今の1年生の姿は、去年の私に重なるなぁ。私も、水谷先輩に相手をしてもらうのが楽しくて仕方なかった。……ウチのバスケ部の選手は、皆、水谷先輩にコテンパンにやられて上手くなったんですよ」
「何だか、普段の晶乃からは想像できないなぁ」
「私には、バスケをやめた水谷先輩の方が想像できないです」
「高校でも一緒にバスケをやりたかった? え……と」
「そう言えば、まだ名乗っていませんでしたね。私、部長の三橋ミノリです。……そうですね。また一緒にやって今度こそ全国を、と思うところもありますし、逆に今度は先輩と別のチームで戦ってみたかったと思うところもあります」
「晶乃はミノリさんの目標だったんですね」
「……私はポイントガードで、水谷先輩はショートガードで。私がパスを出して水谷先輩がシュートを決める。そうやって勝ってきたんです。それなのに、去年の全中で私はファールを4つ取られて交代して……その後、逆転されました。先輩の最後の試合で、私は恩を返すどころか足を引っ張ってしまいました。その気持ちのやり場が、先輩がバスケをやめてしまったら、どこに持っていけばいいのか分からない……っていうのが本音ですね」
ミノリは小さく肩をすくめる。その時、ピィ~! と杉内が笛を鳴らした。休憩の合図であるらしく、2、3年は練習に使っていたボールをボール入れに放り込んで体育館の壁の方に移動していった。思い思いにタオルで汗を拭いたり、ペットボトルのスポーツドリンクを飲んだりしている。
晶乃はというと、彩智がミノリと話し込んでいる間に、1年生たちと1対1を始めていた。休憩になっても終わる気配はない。というよりも、1年生がやめさせてくれる雰囲気がない。それを見たミノリが、
「ほら1年! 休憩はちゃんと取りなさい! ……ってか、先輩をちゃんと休ませなさい!」
多分、ミノリにも1年生の気持ちはよく分かるのだろう。苦笑しながらの言葉なので、あまり迫力はなかった。
「……晶乃は、あなたがキャプテンが板についてるって喜んでいたよ。頑張っているところを見れて、嬉しいんじゃないかな。もしも、来年、雀ヶ丘高校に進学するようだったら、今までとは違う形になるだろうけれど、晶乃ともまた仲良くしてやってよ」
彩智が、ちょっと先輩ぶったことを言ってみると、「私の頭で雀ヶ丘はちょっと厳しいかもしれませんが」と苦い笑いを浮かべたミノリが返して来る。
「それと……私、2年生なので、来年はまだ……」
少し恐縮したように言ったので、緑色のジャージが2年生の物だということを、彩智はようやく知った。
千里が声を張り上げて、「失礼なことを言って、申し訳ありませんでした」と深々と頭を下げる。
「次は、私と1対1の相手をしてください」
「先輩みたいなプレイが出来るようになりたいです」
1年生の素直な尊敬の声に、不穏な空気を感じでいた彩智もほっと胸をなでおろす。
「ワンプレイで、1年生を虜にしてしまったみたいですね」
不意に後ろから聞こえた声に彩智が振り返ると、そこにいるのは緑色のジャージに、かなり短めのショートカットの女生徒。バスケットボール部のキャプテンだった。
「さっきのって凄いシュートなの?」
「ああいうディフェンダーに体を直角の位置に置いて、片手でホールドしたボールを自分の頭越しに撃つシュートをフックシュートなんて呼んだりします。水谷先輩はボールのコントロールが本当に上手いんです。中学の県予選の時はあのフックシュートで、インサイドからガンガンとシュートを決める点取り屋だったんですよ」
「……そうなんだ」
彩智は自分の足元に目をやる。中学でやっていたことを高校で続けなかったことが互いの共通点だと思っていたけれど、随分と違うものだ。
「先輩自身は、本人が言っている通り、基礎を徹底的にこなして身につけた、どっちかと言えば地味なプレイヤーなんですが、不思議と華があるんですよ」
「うん。それは何となくわかる」
素人の彩智でさえ、シャッターを切るのを忘れて――速すぎて切れなかったというのもあったが――その動きから目を離せなかった。同年代の女子の動きを格好いいと思ったことは初めてなのかもしれない。
「今の1年生の姿は、去年の私に重なるなぁ。私も、水谷先輩に相手をしてもらうのが楽しくて仕方なかった。……ウチのバスケ部の選手は、皆、水谷先輩にコテンパンにやられて上手くなったんですよ」
「何だか、普段の晶乃からは想像できないなぁ」
「私には、バスケをやめた水谷先輩の方が想像できないです」
「高校でも一緒にバスケをやりたかった? え……と」
「そう言えば、まだ名乗っていませんでしたね。私、部長の三橋ミノリです。……そうですね。また一緒にやって今度こそ全国を、と思うところもありますし、逆に今度は先輩と別のチームで戦ってみたかったと思うところもあります」
「晶乃はミノリさんの目標だったんですね」
「……私はポイントガードで、水谷先輩はショートガードで。私がパスを出して水谷先輩がシュートを決める。そうやって勝ってきたんです。それなのに、去年の全中で私はファールを4つ取られて交代して……その後、逆転されました。先輩の最後の試合で、私は恩を返すどころか足を引っ張ってしまいました。その気持ちのやり場が、先輩がバスケをやめてしまったら、どこに持っていけばいいのか分からない……っていうのが本音ですね」
ミノリは小さく肩をすくめる。その時、ピィ~! と杉内が笛を鳴らした。休憩の合図であるらしく、2、3年は練習に使っていたボールをボール入れに放り込んで体育館の壁の方に移動していった。思い思いにタオルで汗を拭いたり、ペットボトルのスポーツドリンクを飲んだりしている。
晶乃はというと、彩智がミノリと話し込んでいる間に、1年生たちと1対1を始めていた。休憩になっても終わる気配はない。というよりも、1年生がやめさせてくれる雰囲気がない。それを見たミノリが、
「ほら1年! 休憩はちゃんと取りなさい! ……ってか、先輩をちゃんと休ませなさい!」
多分、ミノリにも1年生の気持ちはよく分かるのだろう。苦笑しながらの言葉なので、あまり迫力はなかった。
「……晶乃は、あなたがキャプテンが板についてるって喜んでいたよ。頑張っているところを見れて、嬉しいんじゃないかな。もしも、来年、雀ヶ丘高校に進学するようだったら、今までとは違う形になるだろうけれど、晶乃ともまた仲良くしてやってよ」
彩智が、ちょっと先輩ぶったことを言ってみると、「私の頭で雀ヶ丘はちょっと厳しいかもしれませんが」と苦い笑いを浮かべたミノリが返して来る。
「それと……私、2年生なので、来年はまだ……」
少し恐縮したように言ったので、緑色のジャージが2年生の物だということを、彩智はようやく知った。
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