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【1章】晶乃と彩智
35.海での出会い
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海岸の西の方に歩くと砂地がなくなり、岩がごつごつした場所になった。岩場を歩きながら、晶乃が岩に腰かけたところを撮影したりする。海岸に来てから約1時間。時間は2時になる手前くらい。
晶乃は、彩智の手の中のカメラを見ながら尋ねる。
「フィルムはあと何枚残ってる?」
「あと2枚」
それを“たった”とみるか“まだ”とみるかはさておき、少々飽きてきた晶乃は、「チャチャっと撮っちゃおうよ」と言ってシャッターを切るように促す。
「でも、何かありそうな気がするんだよね」
「何かって?」
「何か、だよ」
そろって目を向けた先の白っぽいゴツゴツした剥き出しの岩の向こうに広がる大海原は、穏やかで――時々、荒っぽい波が押し寄せて、細かな飛沫が降りかかってくる。
「波でも撮ったら?」
「さっきも言ったじゃない。カメラに海水は天敵なの。40㎜の単焦点じゃ、結構近付かないといけないし、まかり間違って波を被ったら大変だもの」
「それじゃ……」
ザバーン! と再び大きな波が当たる音がした瞬間、びらんっと晶乃のスカートがめくりあげられた。
「きゃぁっ!」
悲鳴を上げてスカートを押さえつけるが、何故かぐいぐいとスカートが引っ張られる。
「彩智! 何を仕込んだのよっ!」
「私は無実だ!」
スカートを引っ張られている先をよくよく見ると、半透明な細いテグスのような糸が繋がっている。
「おい、やばい」
という声が聞こえた。糸の先を目で追う。小学校高学年と思しき少年が3人。彼ら3人の内1人が釣り竿を立てて引っ張っているように見える。
「おい、早く緩めろ」
「馬鹿、何を巻いてんだ」
少年たちの慌てたような声にあわせて、
「うわわっ」
さらに強い力で引っ張られて晶乃は少年たちの方に近づくことになった。
数分後――。
「服だったから良かったようなものの、針が眼の中に入ったりしたら大変なんだからね。自分が手に持っている物が、他人を傷つける物になるかもしれないってことは、常に考えなさい」
スカートに引っかかっていた釣り針を外し、子供たちに懇々と説教をする晶乃。
話を聞くと、2人は6年生で、1人は4年生。3人は兄弟で6年生は双子だという。確かに、ぱっと見では見分けがつかないくらいよく似ていた。
明らかに体格が小さい4年生の子供が釣り針を大きく飛ばそうと振りかぶった拍子に真後ろを歩いていた晶乃に引っかかったのだという。
「でも、今日一番の大物だったよな」
「いい物も見えたしな」
6年生2人が顔を見合わせて言い合う。
「反省していないね。君ら……」
呆れた晶乃の耳に、カメラのシャッターが切られる音が届いた。
「彩智……アンタまで」
ファインダー越しに晶乃が説教をするところを見ていた彩智が、カメラから顔を離して苦笑いの表情を見せ、説教に加わる。
「まぁまぁ、少年たち。晶乃だったから説教ですんでいるけれど、私だったら問答無用で海に放り込んでいるからね」
再び顔を見合わせた6年生2人。
「当たりの方で良かったな」
「外れを引いた上に海に放り込まれてたら……」
「アンだとぉ」
彩智が眼を剥いて本当に海に放りこみかねない勢いで手を伸ばそうとしたので、「まぁまぁ」と晶乃が宥め役に回る。
「あの……。お姉さん、ごめんなさい」
4年生の少年が恐る恐るといった感じで声をかけてきた。
「気にしなくていいよ。次から、気を付けてね」
さすがにこれ以上説教をする気も起きず、晶乃は少年の頭をなでる。「はい、気を付けます」と勢い良い返事を、「可愛いなぁ」と思いつつ聞いていた。
「ところで、今日の釣果はどうだったの?」
と晶乃は少年の頭から手を離して尋ねた。
「午前中はそこそこだったけれど、午後になったら全然」
6年生の少年の1人がクーラーボックスを開いて、釣れた魚を見せてくれた。
「この縞々のはイシダイで、こっちの背ビレが痛そうなのがクロダイかな」
クーラーボックスを覗き込みながら尋ねる。釣りをしない晶乃に何とかわかるのがこの2種類だった。
「当たり。他には――」
釣りの話で火が入ったのか少年が色々と今何が釣れるかとか、釣るのがいかに大変だったかとか、話して聞かせてくれた。
少年たちとクーラーボックスを覗きこみ、うんうんと相槌をうつ晶乃の肩越しに、シャッターが切られる音がした。
「もうちょっと釣ってから帰るつもりだったんだけれど。全然当たりが来なくなったし、そろそろ引き上げようかと思っているところだったんだ」
「でもこれだけあったら夕飯のおかずには困らないね」
そんなことを言っている間に、もう一人の6年生の少年が、4年生の少年の釣り竿を片付けて、帰る準備を整えていた。
「ごめんね。足止めさせちゃって」
「ううん。こっちこそごめんなさい」
そんなやり取りをしてから晶乃は立ち上がる。
「そろそろ、私たちも引き上げようか」
と彩智が声をかけてきた。
「全部撮れたの」
「うん。今、フィルムを巻き上げたところ」
彩智は、フィルムを取り出すために、カメラの裏蓋をかぱっと開いた。
「じゃ、早速、四季さんの所に――」
言いかけた晶乃の声に被さって、びゅうっと強い風が海に向けて吹き抜けた。からんと何かが転がる音が聞こえる。そして、ばしゃんと何かが水に落ちる音も。
はっと、晶乃が音のした方に顔を向ける。さっきまで、つい数歩先にいたはずの4年生の少年の姿が見えなくなり、竿入れに入った釣り竿が岩の端っこで転がっている。その先は海だ。
晶乃は、彩智の手の中のカメラを見ながら尋ねる。
「フィルムはあと何枚残ってる?」
「あと2枚」
それを“たった”とみるか“まだ”とみるかはさておき、少々飽きてきた晶乃は、「チャチャっと撮っちゃおうよ」と言ってシャッターを切るように促す。
「でも、何かありそうな気がするんだよね」
「何かって?」
「何か、だよ」
そろって目を向けた先の白っぽいゴツゴツした剥き出しの岩の向こうに広がる大海原は、穏やかで――時々、荒っぽい波が押し寄せて、細かな飛沫が降りかかってくる。
「波でも撮ったら?」
「さっきも言ったじゃない。カメラに海水は天敵なの。40㎜の単焦点じゃ、結構近付かないといけないし、まかり間違って波を被ったら大変だもの」
「それじゃ……」
ザバーン! と再び大きな波が当たる音がした瞬間、びらんっと晶乃のスカートがめくりあげられた。
「きゃぁっ!」
悲鳴を上げてスカートを押さえつけるが、何故かぐいぐいとスカートが引っ張られる。
「彩智! 何を仕込んだのよっ!」
「私は無実だ!」
スカートを引っ張られている先をよくよく見ると、半透明な細いテグスのような糸が繋がっている。
「おい、やばい」
という声が聞こえた。糸の先を目で追う。小学校高学年と思しき少年が3人。彼ら3人の内1人が釣り竿を立てて引っ張っているように見える。
「おい、早く緩めろ」
「馬鹿、何を巻いてんだ」
少年たちの慌てたような声にあわせて、
「うわわっ」
さらに強い力で引っ張られて晶乃は少年たちの方に近づくことになった。
数分後――。
「服だったから良かったようなものの、針が眼の中に入ったりしたら大変なんだからね。自分が手に持っている物が、他人を傷つける物になるかもしれないってことは、常に考えなさい」
スカートに引っかかっていた釣り針を外し、子供たちに懇々と説教をする晶乃。
話を聞くと、2人は6年生で、1人は4年生。3人は兄弟で6年生は双子だという。確かに、ぱっと見では見分けがつかないくらいよく似ていた。
明らかに体格が小さい4年生の子供が釣り針を大きく飛ばそうと振りかぶった拍子に真後ろを歩いていた晶乃に引っかかったのだという。
「でも、今日一番の大物だったよな」
「いい物も見えたしな」
6年生2人が顔を見合わせて言い合う。
「反省していないね。君ら……」
呆れた晶乃の耳に、カメラのシャッターが切られる音が届いた。
「彩智……アンタまで」
ファインダー越しに晶乃が説教をするところを見ていた彩智が、カメラから顔を離して苦笑いの表情を見せ、説教に加わる。
「まぁまぁ、少年たち。晶乃だったから説教ですんでいるけれど、私だったら問答無用で海に放り込んでいるからね」
再び顔を見合わせた6年生2人。
「当たりの方で良かったな」
「外れを引いた上に海に放り込まれてたら……」
「アンだとぉ」
彩智が眼を剥いて本当に海に放りこみかねない勢いで手を伸ばそうとしたので、「まぁまぁ」と晶乃が宥め役に回る。
「あの……。お姉さん、ごめんなさい」
4年生の少年が恐る恐るといった感じで声をかけてきた。
「気にしなくていいよ。次から、気を付けてね」
さすがにこれ以上説教をする気も起きず、晶乃は少年の頭をなでる。「はい、気を付けます」と勢い良い返事を、「可愛いなぁ」と思いつつ聞いていた。
「ところで、今日の釣果はどうだったの?」
と晶乃は少年の頭から手を離して尋ねた。
「午前中はそこそこだったけれど、午後になったら全然」
6年生の少年の1人がクーラーボックスを開いて、釣れた魚を見せてくれた。
「この縞々のはイシダイで、こっちの背ビレが痛そうなのがクロダイかな」
クーラーボックスを覗き込みながら尋ねる。釣りをしない晶乃に何とかわかるのがこの2種類だった。
「当たり。他には――」
釣りの話で火が入ったのか少年が色々と今何が釣れるかとか、釣るのがいかに大変だったかとか、話して聞かせてくれた。
少年たちとクーラーボックスを覗きこみ、うんうんと相槌をうつ晶乃の肩越しに、シャッターが切られる音がした。
「もうちょっと釣ってから帰るつもりだったんだけれど。全然当たりが来なくなったし、そろそろ引き上げようかと思っているところだったんだ」
「でもこれだけあったら夕飯のおかずには困らないね」
そんなことを言っている間に、もう一人の6年生の少年が、4年生の少年の釣り竿を片付けて、帰る準備を整えていた。
「ごめんね。足止めさせちゃって」
「ううん。こっちこそごめんなさい」
そんなやり取りをしてから晶乃は立ち上がる。
「そろそろ、私たちも引き上げようか」
と彩智が声をかけてきた。
「全部撮れたの」
「うん。今、フィルムを巻き上げたところ」
彩智は、フィルムを取り出すために、カメラの裏蓋をかぱっと開いた。
「じゃ、早速、四季さんの所に――」
言いかけた晶乃の声に被さって、びゅうっと強い風が海に向けて吹き抜けた。からんと何かが転がる音が聞こえる。そして、ばしゃんと何かが水に落ちる音も。
はっと、晶乃が音のした方に顔を向ける。さっきまで、つい数歩先にいたはずの4年生の少年の姿が見えなくなり、竿入れに入った釣り竿が岩の端っこで転がっている。その先は海だ。
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