ダンシング・オメガバース

のは(山端のは)

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文筆業とか言ってみたり

7 ダンス大会当日

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 ダンス大会で『鳩ぽっぽ』を使わせてほしい。
 彼らの要求は予想通りだった。

 ミラロゥが指定したカフェは、僕の普段の行動範囲から大きく外れた場所にあった。メニューに甘いものがほとんどないし、こんなときでもないとまず来ることのない店だ。

 今日の話し合いが終わったあと、僕が偶然ふらっと立ち寄って、再会なんてことにならないようにってことだろうな。
 僕がやらかしそうなこと、先回りして全部片づけちゃうなんてさすがスパダリ。

 待ち合わせの時間ピッタリに、彼らはやって来た。おおむね僕の予想通り、活力に満ちたザ・体育会系で、男性が二人に女性が一人。
 けど、ひとまず話は聞いてくれそうだ。
「僕の歌声をそのまま使うのは止めてください! ほかの人が歌ったものをダンス用にアレンジするならいいです」
 ミラロゥもいるので、僕は強気に攻めてみた。

 ダメもとだったけど、彼らにとっては願ってもないことだったらしい。
 そりゃそうだ。僕はリズム感もないし、あの歌声がダンスに向いているとは思えない。
 交渉はあっさり成立した。
 僕の歌声を大会では使用しないと、契約書まで書いてくれた。

「なんか、ミラロゥに来てもらうほどじゃなかったかもね」
 カフェをあとにして、見慣れない町並みを眺めながらのんびりというと、ミラロゥはため息をついた。
「何を言ってるんだ君は」

 あ、そうか。アルファであるミラロゥが同席してくれたから、簡単に話がまとまったんだ。気づいて恥じ入る僕を抱き寄せ、ミラロゥはもっと恥ずかしくなるようなことを言った。
「攫われでもしたらどうする。ほら、ちゃんと手を繋いでいて」
 本気で言ってるんだよな、これ。
 わかってしまうから、恥ずかしいより嬉しいが勝って、どうにも顔が緩んでしまった。


   ◇
 ダンス大会当日、僕とミラロゥには特別に関係者席が用意された。
 街はどこもかしこもお祭り騒ぎで、特にアリーナの周りはすごい熱気だった。
「いいのかなあ」
 決勝戦を生で見たいという人々は大勢いる。ダンスの良し悪しもよくわからない僕とは熱量が違う。それなのに、席を一つとってしまっていいんだろうか。

 なんとなく振り返ると、視線の先に海が見えた。
 海沿いの公園には今年もたくさんの人が詰めかけていることだろう。
 以前一緒にあちこちの会場を回った少年のことをふと思った。
 十八歳になったらダンス大会に出場して、決勝戦の招待券を贈ってくれる……なんて言っていたけれど。
 その前に妙な経緯で招待されてしまったものだ。

 いよいよ会場の中へというタイミングで、どこからか怒鳴り声が聞こえてきた。
「なぜ私が入場できないんだ! 私は『トゥルトートゥ』ブームの火付け役だぞ! 多くの人に親しまれるようこちらの言葉に書き替えて、子供たちに教えたんだ!」

「はぁ!?」
 威嚇しながら声の主を探せば、あのチャラけたエセ民族学者がすぐに見つかった。
 彼の方も僕に気付き、サングラスを頭上にあげてずんずん近づいてくる。
「これはフォノムラ先生! 先生からもなにか言ってやってください!」
 なんだ先生って。いったいなんの先生なんだよ。
 僕はささっとミラロゥの背後に避難した。そして安全圏からののしってやった。

「なにが火付け役だ! ただの人権侵害だろ。まず僕の許可を取れ!」
「なにを生意気な」
 顔をゆがめたエセ民族学者だったが、今さらミラロゥの存在に気付いたように、顔と声を繕った。

「いやなにか思い違いがあるようですな。異世界の知識は貴重なものです。広く公表してしかるべきなのですよ」
「おっしゃりたいことは理解できます」
 ミラロゥがそんなふうに答えるので、僕はギョッとして見上げた。

「確かに彼の持つ異世界の知識は貴重なものです。ですが、それをいつ誰にどうやって公表するかは本人が決めることです」
 そう、それだよ! 
 一瞬びっくりしちゃったけど、ド正論で相手を論破するミラロゥ、カッコイイ。今日はスーツでビシッと決めているから、エリートオーラがあふれ出ていてヤバい。惚れ直しちゃう。

 でも相手はまだ諦めていないらしい。
「それでは、世界にとっての損失に――」
 僕はミラロゥの背後から飛び出し、得意の弁舌を遮ってやった。
「その貴重な知識とやらを売名のために使っておいてなに言ってるんだよ。僕の知識も経験も、僕のものだ!」

 今ミラロゥが言ってくれたのと同じことだけど、僕からも言ってやりたかったのだ。ちょっとスッキリしたぞ。
 だけど相手がギリっと奥歯を噛むので、僕は素早く安全圏へ退避した。
 そんな僕の頭をミラロゥはよくできましたとばかりに撫でる。

「前回の件、なぜ大事にならなかったと思いますか。ルノンが止めたからです。ですが、これ以上彼に関わろうというのなら、こちらも黙ってはいませんよ」
 ミラロゥは言葉遣いこそ丁寧だが、好戦的な顔つきになっている。
 その顔好き。

 慌てたのはエセ民族学者の連れの方だ。
「もう帰りましょう、先生」

 と腕をつかむ。
「しかし、何のためにここまで苦労したと思っているんだ! 私は『トゥルトートゥ』の――」
「ええ、ええ。わかりましたから」
 ドレスアップしてるから気づかなかったけど、よく見たら助手さんだ。
 ぎゃーぎゃー騒ぐエセ民俗学者を引きずるように連れて行く。

 そうまでして決勝戦が見たかったのか……。
 とにかくあきれるばかりである。
「大丈夫かい、ルノン」
「うん。ありがとう、ミラロゥ。ハッキリ言ってくれて」
「当然だ」
 気を取り直して、僕らはダンス大会の夜を楽しむことにした。

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