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文筆業とか言ってみたり
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前回、僕は異世界の発酵食品について書いた。
その後、ヤマトリーノという国に似たような食品あるらしいと耳にして、さっそく『味噌』を注文してみることにした。
はたしてヤマトリーノの『味噌』は、僕の知っている『味噌』なのか。
待ちに待った荷物が届いて、ワクワクしながら箱を開けたものの、なにやら様子が変だ。藁にくるまれている。どう見ても『納豆』だったのだ!
大豆を使った発酵食品というところまではあってるんだけど、ちょっと惜しい。とはいえ『納豆』だって、僕の故郷の食べ物だ。懐かしみながら美味しくいただいた。
だが、つがいにとっては未知との遭遇だった。
『納豆』は粘り気がある食品で、匂いも独特だ。実のところ元居た世界でも、苦手とする人が結構いた。
つがいにも、本当に食べ物なのか? 腐っているんじゃないかって、ずいぶん聞かれた。
友人にもお裾分けしたのだが、彼は結構気に入ったようでぺろりと平らげたから、この国で全く受け入れられないということでもなさそうだ。勇気のある人は試してみるといいかもしれない。
ところで、『味噌』はまた買い直せばいいと気軽に考えていたのだが、なんと『納豆』を買った店が閉店してしまったらしい。
なるほど、閉店前でバタバタしていたから、『味噌』と『納豆』を間違えたのかな。
それにしても、じゃあいったい、どこで『味噌』を買えばいいのか。
ご存じの方いませんか?
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エッセイが載ったのが、十月のこと。
あのときのミラロゥの動揺っぷりはちょっと見物だったけど、それは僕の心の中だけに秘めとくとして。
問題は、納豆を食べたあと三日くらいキスを拒まれるってことなんだ。納豆は水溶性なんだけど、きっとそういうことじゃないんだろうな。
そんなわけで我が家では封印となった納豆だけど、残りはチェルト君が引き取ってくれた。
向こうの家では結構気に入ったようで何よりだ。
んで、味噌のことだ。
エッセイにも書いたように、探そうにもどうにも手詰まりだった。
といっても、実のところ僕はあまり気にしていない。
本気で探して欲しいというよりは、数行稼ぐためのネタができたって気分だった。ま、縁があればそのうち食べられるだろうって。
むしろチェルト君の方が、味噌への興味をますます高めたみたいだった。好奇心がものすごく強いよね。
ある、カラッと晴れた秋の日のことだ。
周りの人々が厚着になっていくのをしり目に、僕はTシャツにパーカーを羽織っただけの格好で道を歩いていた。
目指すはお気に入りのジェラート屋だ。
寂しい限りなのだが、今日で夏季営業を終え、冬季休業に入ってしまうのだ。
「ああ、ルノン君、また来たんだね」
オーナーは驚いた様子だった。というのも僕はついこのあいだ、ここのジェラートを大量購入したばかりだったのだ。
「このあいだのはストック用です。今日は普通に食べに来ました!」
「ははっ、気に入ってもらえて嬉しいよ」
オーナーは明るい笑い声を立てたあと、「そういえば」と面白がるような顔つきになった。
「ルノン君、なんか変わった発酵食品探してるんだって?」
「……んえ? ああ、はい」
どれを食べようか、真剣に悩んでいたところだったので気の抜けた返事になってしまった。
「ルノン君の探し物と同じものかどうかはわからないけど、ちょっと聞いたことがあるんだよね」
そ、それは!
「……食べてからでいいですか?」
◇
週末、僕はミラロゥとともにフェリーの甲板から、島を眺めていた。
「見えてきた!」
僕は興奮して叫んだ。
「……そうだな」
応えるミラロゥのテンションの低さがヤバい。
ほんと、寒さに弱いんだな。でもミラロゥだけじゃない。他の乗客も景色を楽しむ余裕がないらしく、甲板に出ても秒で戻ってしまうのだ。
僕は笑いをかみ殺し、自分の首からマフラーを外して素早くミラロゥの首に巻き付けた。
「これじゃ君が寒いだろう」
「僕は平気、暑いくらい」
本当なんだけど、心配そうな顔をされると弱い。
船室に移動して地図を広げることにした。
「このあとは車で移動だな」
船から降りて車に乗り換えると、ミラロゥは元気を取り戻した。
彼は知らない道を走るのが好きなのだ。
港町を通り抜け、山道を進むと田んぼが見えてきた。
すでに収穫は終わっているらしく、田には水が張られている。日本の田舎にも通じる光景に僕の頬も緩んだ。
「この辺りだと思うんだが」
ミラロゥが車の速度を緩めた。
しかし、辺りをキョロキョロ見回してもぽつぽつと民家があるばかりで、店らしき建物が見当たらない。
「あ、前方に村人発見! ミラロゥ、あの家の前で止めて!」
停車と同時に、僕はドアを開け飛び出した。家の外で作業をしていたおじいさんを捕まえて、大豆原料の発酵食品のことを尋ねる。
「突然すみません」
あとから降りてきたミラロゥが、僕のフォローに回る。
「彼は異世界からやって来たんです。故郷の味を恋しがっていまして」
ミラロゥの説明に、僕も頷いておく。
正確には、僕よりチェルト君の好奇心が爆発してるんだけど。
おじいさんが、おばあさんを呼び、おばあさんがホーローの容器に詰められた味噌を見せてくれた。
そう、まさしく味噌だった。香りを嗅いだら一気になつかしさがこみ上げて、それまで余裕だったのが嘘みたいに、味噌汁が食べたくなった。
「これ、どこで買えますか!」
勢い込んで聞いてみると、おじいさんたちはお互い顔を見合わせた。
どうやら、自分たちで食べる分だけ作っているそうなのだ。
じゃあ、食べられないのかな。僕は肩を落とした。
「ここじゃなくて、港に店があっただろう?」
あ、とまどってる理由、そっちか。
希望が見えて来たぞ!
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私は現在日本語を勉強しており、この文章はAI作品ではありませんが、
一部に翻訳ソフトを使用しています。
もし読んでくださる中で日本語のおかしな点をご指摘いただけましたら、
本当にありがたく思います。
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