積極的にバラすタイプの鶴

のは(山端のは)

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先日助けていただいた

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 玄関を開けると、イケメンが立っていた。

「こんばんは、先日助けていただいた鶴の兄です」
「兄かよ。本人どうした?」
「それが……、絶対に悲恋になるのに無駄なことはしたくないと申しまして」
「なるほど。それで兄がきたと。鶴だって言う証拠は?」
「これでどうです」
 イケメンはさらっと鶴に変身して見せた。
「わー! そんな、玄関先で! とりあえず入って!」
 ご近所さんにあそこの家の前にタンチョウがいたとか噂を立てれたら大変だ。いや、そうでもないかな。入れてしまってから気がついた。

「もー、そう言うの秘密じゃないの?」
「証拠を見せろとおっしゃられたので。それより、恩返しがしたいのですが、料理をしてもいいですか?」
「料理?」
「はい。定番ですよね。掃除がいいですか」
「いや、えーと。今うち冷蔵庫からっぽだよ」
「見ても?」
「どうぞ」
「もう少し警戒心を持ちましょうよ。見ず知らずの鶴ですよ?」
 叱られてしまった。

 いやでもこの鶴さんがイケメンすぎるのも悪いと思うんだよね。鼻が高くて目が切れ長でまつ毛が長い。長髪なのに手入れがいいのか清潔感があるし、背が高くてほっそりして見えるのに、腕をまくると結構筋肉がついてたりして。
 猫背の俺とは大違い。短くしててもはね放題の髪とか、しまりのない顔立ちのせいでよくアホ面呼ばわりされるからね、俺なんて。
 よそうよそう、比べるのは!
 俺は彼を冷蔵庫の前まで案内した。

「うわあ、本当にからっぽですね。ビールのためにコンセント入れておくのがムダなほどです」
 このイケメン、意外と辛らつだ。俺は唇をとがらせた。
「こ、氷だって作ってるもん」
「……蒸発してますね。作りなおします」
「あ、ハイ。すいません」
「はあ。近くのスーパー行ってきます。食べたいものありますか?」
「えーと、ハンバーグ?」
 俺の答えに、イケメンはふっと口の端をあげた。それだけで、雰囲気がずいぶん和らいだ。料理するのが楽しみなのかな。
 なんだか、今から期待してしまう。


 トントントンと小気味よく包丁の音が響く。米の炊けるにおいとか、肉の焼けるにおいとか、ひさしぶりすぎて感動ものだ。
「それじゃあ、一人暮らしなんですか?」
「うん。父親が単身赴任をいやがって、母親を連れてっちゃったんだよね。家は人が住んでないと荒れるからって俺だけ残された。高校生のときからそうだから、もう慣れたもんだ」
 俺は自慢したつもりだった。けれど、イケメンはちらりと冷蔵庫に目を走らせた。
「ってことは、高校の時からあの状態ですか? 温度設定、強のまま?」
 こだわるなあ、冷蔵庫。
「いや、たまに牛乳とか入ってるし。ぷ、プリンとかも! アイスだって!」
 アイスは大事だと思うけど、イケメンは呆れたように俺を見た。

 彼が作ってくれたのは豆腐入りのハンバーグで、女の食べ物じゃねえかって最初は顔をしかめたけれど、口にしてみたらフワッとしていて美味しかった。
 付け合わせはほうれん草のおひたしとポテトサラダ。それに白米とみそ汁。なんだこのクオリティ。定食屋か。
「あれ? 鶴さんは一緒に食べないの?」
「りゅうとです」
「ドラゴン?」
「いえ、琉球の琉に冬です」
琉冬りゅうとか。ふうん? 鶴って南国の鳥だっけ?」

「俺は生まれも育ちも北海道ですよ」
「マジで、おんなじだ。イケメンとまさかの共通点。座んなよ。食べようよ」
「はあ。では、ご一緒させていただきます」
 彼が自分の分のご飯とみそ汁をよそうのを待って、俺は再び箸を手に取った。あ、ポテトもうまい。

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