積極的にバラすタイプの鶴

のは(山端のは)

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温泉旅行と里帰り

琉冬の家族

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 それにしてもびっくりするぐらいあっさり異界とやらに入ってしまった。そっからの移動距離のほうが長いくらいだった。
 道も家も人里と何も変わらないように見えるので、なにやら化かされたような気分だ。

 琉冬の運転する車は、一軒家の前で停まった。白い壁に赤い三角屋根の家だ。
 エンジン音を聞きつけたのか、中からエプロン姿の女性が出てきた。

「お姉さん?」
 こっそり聞いたつもりだが、本人がきっぱり答えた。
「母です」
 マジか。若いしすごい美人。はじめましての挨拶が上ずってしまった。

「話はあとでゆっくりと。まずは謝罪してらっしゃい」
 さすがは琉冬の母、しゃきしゃきしてる。
 用事を済ませるまで家に上がらせませんよ、みたいな雰囲気で玄関前に立っている。

「琉冬によく似ているね」
「鶴はだいたいあんなもんですよ」
「美男美女ばかりってこと?」

 冗談だろうと俺は笑ったが、琉冬はなぜかムッと黙り込んだ。そうかと思うと、ポツリとつぶやく。

「……でれでれして」
「ええ? なんだよ琉冬、可愛いやつ」
「可愛い?」
「嫉妬してくれたんだろ。すげえ嬉しい」

 くしゃっと笑ってしまった俺を見て、琉冬は慌てた様子で車を発進させた。
 そしてしばらく進んで林ばかりの路肩に止めたと思ったら、俺に長い長いキスをした。突然の雄みを見せつけたあと琉冬はしれーっと運転を再開する。こっちはまだ、立て直せないんだけど!

 それから俺たちは、鶴たちの住む家を一軒一軒回った。

「ありゃ、なんもよかったのに。そうだあんたたちイモ食うかい?」
「いまどき律義だなあ。お茶もらったんだけどいるか? うちじゃ飲まないから」
「ほれ母さん、梨あったべ。持ってってもらえ」

 なぜか反対に手土産を持たされ、どんどん積み荷が増えていく。
 隣家と隣家の距離がスゴイし、こりゃ確かに車社会にもなるわって感じ。

 それにしても琉冬の言っていたこと、本当だった。出てくる人みんな、美女、イケオジ、イケジジイ、子供もみんな美人。
 そしてもちろん、琉冬の家族も。

 お義母さんは、ツンとしてるけど俺にチーズケーキの大きいところくれたし、お義父さんは控えめだけど歓迎してくれてるっぽい。

 このうちには琉冬の両親、弟と妹。そして姉夫婦と息子たち。じいちゃんばあちゃんが一緒に住んでいる。
「大家族だね」
「桂聖は一人っ子ですもんね。賑やかでしょう」
 琉冬は苦笑したが、俺には珍しいし楽しい。

「桂聖君、琉冬は口うるさいでしょう」
 両腕に子供を抱えてやってきたのは琉冬のお姉さんだ。

 鶴の子供は、たいてい二人ずつ生まれてくるらしい。だから姉と言っても琉冬と年の差はないし、子供たちもほんとそっくり。
 ていうか、想像よりでかいな。赤ちゃんかと思っていたのに三歳児くらいに見える。

 あとで聞いたところ、自分で立って歩けるようになるまでは成長速度が速いんだそうだ。
 子供たちに少々気を取られながらも、俺は答えた。

「そんなことないですよ。琉冬がしっかりしてるから、いつも助けられてます」
「ねえ」
 と反対側から袖を引くのは中学生くらいの女の子だ。妹さんかな。

「あのときは助けてくれてありがとう」
「ああ、いえ。こちらこそ。琉冬をありがとう」
 ぺこりと頭を下げると、妹さんはむくれて部屋に引っ込んでしまった。
「なんか悪いこと言ったかな?」
「琉にぃ取られたって拗ねてんだよ。自分で差し出したくせに」
 隅のほうでゲームをしていた弟さんが、気のない様子で教えてくれた。

 あちこちからいっぺんに声がかかるため、目まぐるしいけど楽しい時間はあっという間に過ぎた。
 ただ一つ気になるのはやっぱり琉冬のことだ。
 実家にいるというのに、いつもより口数が少ないし、ぜんぜんくつろいだ様子がない。照れくさいのかな。

「琉冬?」
 俺は隙を見て琉冬に話しかけた。
「俺のこと自慢するんじゃなかったの?」
「もうしてます」
「ん?」
「桂聖のそのままを、見てもらえれば充分だから」
「買いかぶるなぁ」
「本気ですよ」

 ニコッと笑う琉冬を見て、俺のほうが照れてしまう。
 赤くなった顔を隠そうとしたところでハッと気が付くと、お姉さん自慢のちびっこたちが、両側から張り付いてジーっと俺たちを見つめていた。

 ううん、彼らだけじゃない。琉冬の家族全員が目線だけをこちらに向けていた。横を向いて、見てないふりしてても視線は刺さる。ああ、鶴の家族の中にいるんだなって感じ。

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