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GWデート
山間にある温泉街
しおりを挟むGWには夏の試運転みたいに暑くなる日がある。
今日はまさにそんな日で、俺と琉冬は半そで姿で、山間にある温泉街をプラプラしていた。
「あ、見ろよ琉冬。ここにもいる!」
俺が指さした方向には、鯉のぼりが泳いでいた。
建物と建物の間にロープを張って、あっちにもこっちにも。
木立の間や川の上とか、思いがけないところにカラフルな色を発見すると、「ここも!」と指さしてしまうのだ。
スマートフォンをこちらにむけて、琉冬も楽しんでいるようである。
「桂聖は子供っぽいものが似合いますね」
「それ褒めてんの、貶してんの」
俺が顔をしかめると、琉冬は髪をかきあげながら破顔した。
「褒めてはいませんけど、可愛いとは思ってますよ」
ぐっと口をひん曲げてしまった。
しかし、Tシャツとジーンズってとこまでは一緒なのに、仕上がりにこうも差が出るもんかね。
琉冬はサラリした紺色のシャツを羽織っていて、ボーディーバッグを背中に回している。なんかもう、それだけで決まってる。今日は長い黒髪をハーフアップにして、それも良く似合っていた。
俺の方は部屋着のまま出てきちゃいましたって雰囲気だ。
まあ、嫁が魅力的すぎるなんてのろけでしかないし、何より今は旅行中だ。楽しまなくちゃ。
「じゃ、目一杯つきあわせようかな」
「初めからそのつもりです」
どちらともなく手を繋いで歩き始める。
源泉の湧き出る公園には足湯もあるし、それなりに人がいたけど、この際気にしない。
けど……。
「暑いな」
「ですね」
気候には勝てなかった。すぐに手を離してしまってなにやら気まずい。
そそくさと移動して、おすすめの景勝地とやらを見に行った。
スマートフォンに表示されるマップを頼りに、あちこちめぐり歩く。
観音堂や珍妙な銅像や赤く塗られた橋なんかを見て回る。写真で見るより小ぢんまりしていて、ほんのりがっかりするのだが、それもまた旅の情緒だ。
マップで見る限りそれほど遠くないので、滝も見に行く。整備された林道を歩いていると少しひんやりした。
すると琉冬が、すかさず着ていたシャツを俺の肩にかける。
「まだなんも言ってねえ」
「けど、寒いんでしょう?」
「まあな」
けど脱いだらせっかくのおしゃれ感が……、保ってるな。やっぱ元がいいからかな!
若干の解せぬ感を味わっているうち滝に到着した。
「あれ? ここ?」
段差がとっても人工的だと思ったら、説明がある。やっぱり自然にできたものじゃなかった。
そりゃそうだよな。滝を見るには長い長い山歩きが必要だ。ずいぶん近いなとは思った。
これには苦笑いするしかなかった。
三キロくらいのコースを歩いた後は足湯で一休み。
めっちゃ気持ちいい。
宿の風呂も楽しみだな。
それにしても結構歩いたし、遊んだなっていう気分ではあるのだが、まだ日が高い。このまま宿に戻ってしまうのももったいない気がした。
「そうだ! 俺、ちょっとコンビニまで行ってくる」
急な思い付きにも関わらず、琉冬もついてきてくれるようだ。タオルを手に取り、足を拭き始めた。
ちょっ、琉冬おまえ! 足湯で足を拭いているだけで、絵になるってどういうことだよ。
危うく口に出すところだった。
旅行のハイテンション、危険だ。
気を取り直し二人でコンビニに向かうと、目的の物はレジ横であっさり見つけた。
「これ食べながら鯉のぼり見たら、ますますそれっぽいんじゃないかな。ほら、柏餅!」
すると琉冬はさっと青ざめた。
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