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「……」
誰もいない。少なくとも音の聞こえる範囲内にはいない。
そっとドアの前に立つ。鍵穴を覗き込んで鍵が掛かっていないか確認した。
大丈夫そうだ。いつでも開けられる。
軽く深呼吸すると、ドアノブを掴んだ。体がこわばる。ナイフをきちんと持っているのを確認する。
ドアの向こう側から音はしない。眠っているのか、それとも襲撃に気がついたのか。
神経を張り詰めながら姿勢を落とす。
「!!」
ナイフを構えたラルフは扉を全力で開けた。
部屋の中の人数は二人。驚いたように息を飲む音がした。
ラルフはそのうちの一人、細身の人物に斬りかかる。
「くっ!」
腕に肉を断つ感触がする。だが浅い。
「腕でかばったのか」
間違いなく心臓部分にナイフを突き出した。急に襲われた状況で咄嗟に動ける人物。
(厄介だな)
「急に襲って来るなんて失礼じゃないかな?」
(この声は……)
昼間の人物か。
(ミスったな)
彼だと知っていたらもうひとりを襲っていたのに。\音だけでは判断できなかった。無意識のうちに自分の能力に過信していたのだろう。
(目隠し、してこなければ良かったな)
目隠しをしていなければもう一人を殺せていたのかもしれない。しかし、もう遅い。二人を相手にすることになってしまった。
「まったく、誰の躾なのか」
ラルフが追撃を仕掛けたが後ろに下がり、簡単にかわしてしまう。
銃を抜こうとするのを感じ、ナイフを投げつける。間を開けずにもう一人、30代くらいに見える男に向かって投げつけた。
「ちょ、船長!」
焦ったような声。
(船長?焦っている。あまり強くないのか?)
船長と言う呼び方から考えると男がリーダーで間違いないだろう。それも戦闘に向いてないのなら先に殺してしまった方が楽だ。
金属音がした。船長が腰に下げていた剣を引き抜き、ナイフを落としたのだ。
「遅いな」
戦闘慣れしていないのは確実だろう。抜くスピードは遅めだ。
「悪いが覚悟してくれ」
ラルフは男に標的を変えた。
「そっちにはいかないでほしいね」
青年が二人の間に滑り込む。
「焦っているのか?」
「ああ、足手纏いがいるもので」
空気を裂く音が響く。
青年はナイフをよけるので精一杯だが、ラルフも銃を撃たせないようにするので精一杯だ。
(硬直状態か。いや)
視界の隅に男が映る。しかしその姿はすぐに青年の体で見えなくなった。
(ナイフを投げれないようにしている。オレの方が弱いか)
勝機は男が逃げ切るかにかかっている。
「もうそろそろ止めにしないかな?気が付いているんだろう?」
「そうだな」
(一対一では絶対に勝てないな)
銃口が顔の方を向く。ナイフの柄で上にはじき、銃口をそらす。
「これで決める」
ベルトの金具に手をかける。そのまま勢いよく引っ張った。
ベルトの中から金属の板が姿を現す。
サンダーベルトと言われるその護身具は、りんごくらいなら簡単に破壊できた。
さらに刃をつければその威力は跳ね上がる。
「!!」
横薙ぎに振るうとムチのようにしなり、青年に向かっていく。
青年が手に持った銃を叩きつける。
「それたか」
手首を返し、もう一度振るう。
「厄介だな」
何回はじかれても手首を動かし、攻撃を繰り返す。ナイフの時とは違う。ムチ独特の動きに青年が顔を歪めた。
「悪いがここで死んでくれ」
「嫌に決まっているだろう」
「!」
空気を裂く音。
自分に向かって投げられた剣を認識する。
(気をとられすぎた)
目の前に迫った剣を弾き飛ばす。剣を投げた男が安心したような顔をした。
「がっ!」
鈍い痛みが上半身をおそう。
剣が投げられた隙に近寄ってきた青年。地面に引きずり倒されたのだろう。気が付けばラルフは青年に上から押さえつけられていた。
「これで終わりにしてもらうよ」
(失敗したか)
「船長、縄持ってきて」
「ああ、ちょっと待っていろ」
「おい、こら。暴れんなって」
最後の抵抗と言わんばかりに暴れるが、さらに力を込めて抑えられるとそれも無駄になる。
青年はしっかり縛られていることを確認するとラルフから離れた。
「お前、昼間あったやつだろ?」
「知り合いか?」
「昼間襲った盗賊の中にいるのを見たんだよ」
「……」
「まあ、だいたい目的は想像つくけど」
「だろうな」
盗賊の仲間だとばれている時点で隠すことなど無意味だろう。
青年達もそれをわかっているのか目的を聞いてこない。
青年がラルフの方に手を伸ばす。
「……!」
一瞬ビクッと肩が動く。
(警戒しても意味はないのにな)
無意識に反応してしまったのだろう。青年の手が止まる。けれどすぐに動きを再開した。
青年の手で目を隠していた布が外されていく。
「やっぱりお前、いい目をしてるよ」
「なんの話だ?」
光に目を細めながら聞く。真っ直ぐに目を合わせると青年はうっすらと笑顔を浮かべた。
「……」
思わず目をそらしてしまう。気まずい。なぜ襲撃してきた自分に笑顔など向けるのだろう。悪意のない優しげな笑顔をなぜ。
「で、船長。こいつどうしますか?」
「そうだな」
ラルフは男を黙って見つめた。
男は少しの間ラルフを見ると、青年に向き直る。
「アーノルド、お前にまかせる」
「了解です」
青年は返事をするとラルフの前にしゃがみこんだ。
「何をする気だ」
「さあ?なんだと思う?」
「殺すんじゃないのか?」
睨みつけるようにして聞く。それを聞いた青年は不思議そうな顔をした。
「死にたいのかい?」
「……。
どうでもいい」
どのみち何を言っても変わらないだろう。どの選択をしても変わらないならば答えることは意味を成さない。
ラルフの言葉に青年は眉をひそめる。
「怒ったのか?」
「いや、不快なんだよ」
「そうか」
「ねえ、お前さ。うちに、海賊に入らない?」
誰もいない。少なくとも音の聞こえる範囲内にはいない。
そっとドアの前に立つ。鍵穴を覗き込んで鍵が掛かっていないか確認した。
大丈夫そうだ。いつでも開けられる。
軽く深呼吸すると、ドアノブを掴んだ。体がこわばる。ナイフをきちんと持っているのを確認する。
ドアの向こう側から音はしない。眠っているのか、それとも襲撃に気がついたのか。
神経を張り詰めながら姿勢を落とす。
「!!」
ナイフを構えたラルフは扉を全力で開けた。
部屋の中の人数は二人。驚いたように息を飲む音がした。
ラルフはそのうちの一人、細身の人物に斬りかかる。
「くっ!」
腕に肉を断つ感触がする。だが浅い。
「腕でかばったのか」
間違いなく心臓部分にナイフを突き出した。急に襲われた状況で咄嗟に動ける人物。
(厄介だな)
「急に襲って来るなんて失礼じゃないかな?」
(この声は……)
昼間の人物か。
(ミスったな)
彼だと知っていたらもうひとりを襲っていたのに。\音だけでは判断できなかった。無意識のうちに自分の能力に過信していたのだろう。
(目隠し、してこなければ良かったな)
目隠しをしていなければもう一人を殺せていたのかもしれない。しかし、もう遅い。二人を相手にすることになってしまった。
「まったく、誰の躾なのか」
ラルフが追撃を仕掛けたが後ろに下がり、簡単にかわしてしまう。
銃を抜こうとするのを感じ、ナイフを投げつける。間を開けずにもう一人、30代くらいに見える男に向かって投げつけた。
「ちょ、船長!」
焦ったような声。
(船長?焦っている。あまり強くないのか?)
船長と言う呼び方から考えると男がリーダーで間違いないだろう。それも戦闘に向いてないのなら先に殺してしまった方が楽だ。
金属音がした。船長が腰に下げていた剣を引き抜き、ナイフを落としたのだ。
「遅いな」
戦闘慣れしていないのは確実だろう。抜くスピードは遅めだ。
「悪いが覚悟してくれ」
ラルフは男に標的を変えた。
「そっちにはいかないでほしいね」
青年が二人の間に滑り込む。
「焦っているのか?」
「ああ、足手纏いがいるもので」
空気を裂く音が響く。
青年はナイフをよけるので精一杯だが、ラルフも銃を撃たせないようにするので精一杯だ。
(硬直状態か。いや)
視界の隅に男が映る。しかしその姿はすぐに青年の体で見えなくなった。
(ナイフを投げれないようにしている。オレの方が弱いか)
勝機は男が逃げ切るかにかかっている。
「もうそろそろ止めにしないかな?気が付いているんだろう?」
「そうだな」
(一対一では絶対に勝てないな)
銃口が顔の方を向く。ナイフの柄で上にはじき、銃口をそらす。
「これで決める」
ベルトの金具に手をかける。そのまま勢いよく引っ張った。
ベルトの中から金属の板が姿を現す。
サンダーベルトと言われるその護身具は、りんごくらいなら簡単に破壊できた。
さらに刃をつければその威力は跳ね上がる。
「!!」
横薙ぎに振るうとムチのようにしなり、青年に向かっていく。
青年が手に持った銃を叩きつける。
「それたか」
手首を返し、もう一度振るう。
「厄介だな」
何回はじかれても手首を動かし、攻撃を繰り返す。ナイフの時とは違う。ムチ独特の動きに青年が顔を歪めた。
「悪いがここで死んでくれ」
「嫌に決まっているだろう」
「!」
空気を裂く音。
自分に向かって投げられた剣を認識する。
(気をとられすぎた)
目の前に迫った剣を弾き飛ばす。剣を投げた男が安心したような顔をした。
「がっ!」
鈍い痛みが上半身をおそう。
剣が投げられた隙に近寄ってきた青年。地面に引きずり倒されたのだろう。気が付けばラルフは青年に上から押さえつけられていた。
「これで終わりにしてもらうよ」
(失敗したか)
「船長、縄持ってきて」
「ああ、ちょっと待っていろ」
「おい、こら。暴れんなって」
最後の抵抗と言わんばかりに暴れるが、さらに力を込めて抑えられるとそれも無駄になる。
青年はしっかり縛られていることを確認するとラルフから離れた。
「お前、昼間あったやつだろ?」
「知り合いか?」
「昼間襲った盗賊の中にいるのを見たんだよ」
「……」
「まあ、だいたい目的は想像つくけど」
「だろうな」
盗賊の仲間だとばれている時点で隠すことなど無意味だろう。
青年達もそれをわかっているのか目的を聞いてこない。
青年がラルフの方に手を伸ばす。
「……!」
一瞬ビクッと肩が動く。
(警戒しても意味はないのにな)
無意識に反応してしまったのだろう。青年の手が止まる。けれどすぐに動きを再開した。
青年の手で目を隠していた布が外されていく。
「やっぱりお前、いい目をしてるよ」
「なんの話だ?」
光に目を細めながら聞く。真っ直ぐに目を合わせると青年はうっすらと笑顔を浮かべた。
「……」
思わず目をそらしてしまう。気まずい。なぜ襲撃してきた自分に笑顔など向けるのだろう。悪意のない優しげな笑顔をなぜ。
「で、船長。こいつどうしますか?」
「そうだな」
ラルフは男を黙って見つめた。
男は少しの間ラルフを見ると、青年に向き直る。
「アーノルド、お前にまかせる」
「了解です」
青年は返事をするとラルフの前にしゃがみこんだ。
「何をする気だ」
「さあ?なんだと思う?」
「殺すんじゃないのか?」
睨みつけるようにして聞く。それを聞いた青年は不思議そうな顔をした。
「死にたいのかい?」
「……。
どうでもいい」
どのみち何を言っても変わらないだろう。どの選択をしても変わらないならば答えることは意味を成さない。
ラルフの言葉に青年は眉をひそめる。
「怒ったのか?」
「いや、不快なんだよ」
「そうか」
「ねえ、お前さ。うちに、海賊に入らない?」
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