妻がゾンビになりまして……

Mr.Six

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3-4:妻が怒りまして……

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渡辺は、しばらく上を向いた後、ゆっくりとこちらを向いた。

「滝沢様、見苦しい所をお見せして申し訳ありません」

渡辺は深く頭を下げた。

「い、いえ」

「治療費や慰謝料についてはまた別日にご相談いたします」

「あの、浦見って人は」

渡辺はため息をついた。

「まさか、彼があんな悪態をつく男だとは思いませんでした。いくらか我慢してましたが、もう限界でした」

それは俺も思っていた。

事故を起こした人があんな人だったなんて。

はっきり言って人間として終わってやがる。

「渡辺さん、とりあえず妻も休ませてあげたいし、整理したいので今日は1回お帰り頂けますか?」

俺と花音は美鈴を支えながら、渡辺に提案をした。

「あ、すいません気が利かず。それでは失礼します」

渡辺は荷物を持って、家を出ていった。

美鈴は花音に連れられ、寝室でゆっくりと寝ている。

俺はご飯を食べるのを忘れ、ただ茫然としていた。

やっとのことで動き出した時にはすでに日も暮れ、あたりはすっかり暗くなっている。

「ふぅ」

俺はホットコーヒーを淹れて、一息をついた。

いやぁ、今日は凄い一日だったな。

俺は部屋を見回した。

美鈴の暴れた跡がまだ残っており、掃除しないといけない程悲惨な状態になっている。

「さて、掃除でもするか」

俺は立ち上がって、掃除を始める。

カタンッ

何かが倒れる音がした。

俺は振り返って、音のした方へ向かった。

そこには写真立てが倒れていた。

写真を手に取ってみると、俺と美鈴と花音が遊園地で遊んだ時の写真が写っていた。

まだ美鈴がゾンビになる前で、凄く可愛い笑顔で映っている。

「はは、全員笑ってるな」

そうだよな、ゾンビになる前はこんなに笑ってたんだよな。

俺はなんだか寂しい気持ちになってしまい、

気持ちが落ち込んでしまった。

グスッ ズズッ

「ん?」

美鈴が寝ている部屋から何か音が聞こえる。

俺は掃除をいったんやめて、ゆっくり扉を開ける。

「うぅ、ママ」

花音だ。

寝ている美鈴の横で、涙を流して声を押し殺していた。

「花音……」

「!!」

花音はこっちに気づき、涙を急いで拭いて、ベランダに向かった。

「お、おい! 花音!」

ベランダに向かうと、花音は朧月を眺めながら涙を流していた。

俺は、ティッシュの箱を花音に後ろから渡した。

「ほら、月が見づらいだろ」

花音はティッシュの存在に気づき、無言でティッシュから4、5枚取った。

「ねぇ、今日のクソオヤジが言ってたけどさ」

「クソオヤジって、口が悪いぞ」

俺はベランダの窓の淵の部分に腰を掛け、花音の会話を聞いていた。

花音は変わらず、こっちをみることなく月を見ている。

「ママが、ゾンビって……やっぱりほかの人に直接言われるとキツイね」

花音、気にしていたのか。

「治るのかな? ママって。前みたいにさ、ほら遊園地で遊んだ時と同じように笑って過ごせる日々がやってくるのかな?」

花音の言葉はちょっとずつ震えてきていた。

次第に、体も震わせ始める。

「そういえば、さっき掃除してた時にさ写真立てが、ちょっと待ってて」

花音は思わずこっちを振り向いた。

「えっ? 写真?」

俺は一旦その場を離れて、写真立てを取りに行った。

そして、写真立ての中の写真を花音に見せた。

花音は写真立てを手に取り、しばらく見つめた後、静かに笑った。

「ふふ、なにこれ? そういえば家にあったね。忘れてたわ」

花音は涙を拭きながら、笑った。

「花音が小学校の時に初めて行った遊園地の写真だよ。この時、一緒にジェットコースターに乗って花音がびびっておしっこ漏らしてさ、大変だったわ」

「はぁ? 漏らしてないし」

自然と2人の顔からは笑みがこぼれていた。

そういえば、俺たち美鈴がゾンビになってから、ちゃんと話してなかったな。

「ねぇ」

「ん?」

「ママ……治るよね?」

真剣な顔で花音は俺を見つめた。

「あぁ、治るよ。いや、2人で美鈴を治してあげよう。そしてまた遊園地に行って笑顔で写真撮ろう」

俺の言葉に花音はやっと乾いた目がまた潤み始めた。

「うん……うん」

俺は花音を後ろからそっと抱きしめ、美鈴を2人で治すことを改めて決意した。
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