便利スキル持ちなんちゃってハンクラーが行く! 生きていける範疇でいいんです異世界転生

翁小太

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はじまり

1 ドナドナ

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 ドナドナドーナドォーナ
 あ、どうも。現在俺ことユーラス(8歳)は、今まさに実の父親の手によって魔導の森にドナドナされている最中のいたいけな幼子であります。
 いやぁ実は俺、生まれた時からうすぼんやりと無意識レベルで前世の記憶とやらが存在しておりまして、しかしながら自分自身にもはっきりとその正体がよくわかっていなかったため、非常に気味の悪い子供となっておりました。
 まあ俺も正直突然わけのわからぬ地名や道具の名前を口走りながら、この世界にない概念の話を当たり前のようにし始める子供とか薄気味悪いと思う。
 ぶっちゃけ家族や村の近所衆との折り合いはよくないわけでした。
 それでも一応前世で染みついた小中学生までの計算ができるので、村で作ったものを街に売りさばきに行く手伝いをしていたわけですが、もともとウチの村は自給自足で生きていけることに誇りを持っている排他的な村だったので、生活に必要な塩がこのたび近場で発見された岩塩で賄えることになったため、わずかばかりの交易を断つことになったそうです。
「パパ上様、俺はどのあたりに置いて行かれることになるんですかね」
「そのわけのわからんパパ上様とかいう呼び方をやめたら教えてやらんでもない」
「して、父上様ご返答は」
「はぁ……、一応中腹のあたりだ」
 魔導の森というのは国境の塀を越えて、時折魔物が迷い込むことと、その魔物が周りの険しい山岳を避けて森を通るとちょうど村や街のあたりに出るため、まるで魔物を導いているような森、ということから魔導の森と呼ばれているらしいのですが、その名前のおどろおどろしさと、周りを魔物ですら避ける山岳に囲まれていることから罪人や厄介者を置き去りにする場所としても有名な場所です。そのためとんでもない餓鬼んちょなんかを魔導の森の入り口あたりに置いてきて反省を促すことがあるそうなのですが……。
 そうですか、俺はばっちり中腹ですか。
「俺本気で捨てられちゃう感じなんですね」
「まあ、俺もお前が一度捨てられたと分かれば帰っては来ないだろうから入り口あたりでいいんじゃないかと言ったんだが、他の連中にはまだお前が泣いてすがって帰ってくるような可愛げのある子供に見えるらしくてだな。中腹に置いて来いといわれた」
 さすが俺のパパ上様、その辺りは理解が早くていらっしゃる。
 家族とは折り合いがよくないが―実際捨てられようしてるわけだし―しかし憎みあうような、嫌われているような関係ではなかったりする。
 パパ上様はこう、世間一般に子供を守るだとか理解しようと努力するだとかそういったことはほぼ俺にしてくれないわけだが、それでも邪険にしないし、ご飯も妹と差別しないでくれるし、ただ積極的に守りたいと思わないだけでちゃんと薄気味悪いと思っていても、ただそこにいることを許してくれる人なのだ。
 お家を出るときに会ったママ上様だって俺の顔を見るなり鼻白んだような顔というか、疲れたような顔こそするものの「じゃあね」と声をかけて小さく手を振ってくれるような、そんな関係だったのだ。
 ちなみに妹と聞いて一瞬、おっ妹が実はブラコンで鈍感系主人公を追いかけてくるパターンか?と思った諸氏も多いだろうが。残念、可愛げのない妹とはあいつのことをいうのだ。
 といってもこれまた別に俺を死ねと罵りながらアイスを買ってこいと俺をパシるような前世の妹みたいなタイプでもなく、単純に俺に興味がない。
 お兄ちゃんとは呼ぶもののあいつに話しかけられてことなど本当に致し方ないような用事があるときだけだ。こちらから話しかけると無視はしないが反応は常に鈍く、時折苦笑いを浮かべるレベル。
 なぜ俺はこんなにも妹に愛されていないことを諸氏に力説せねばならぬのか。
 よし、一旦この話はやめだ。
「一応戻ってこられても困るから聞くが行く当てはあるのか?」
「とうとうハッキリ言いましたね? 俺は悲しい。……と、まあ冗談は置いておいても一応これでも商業ギルドに加入していたので、ちょこちょこ働いてちょっとした貯えぐらいならあるから大丈夫です」
 商業ギルドは信用第一を信条として、ギルド員から信頼がなければ運営できないと考えているから魔法で常に本人確認と盗難・横領がないか監視しているから安心してギルドの銀行まがいのサービスも受けられるわけだ。
 俺もこうして安心して捨てられることができる
「本当に、お前は、可愛げがない」
 ため息をつきつつのパパ上はかみしめるように唸るので、荷馬車を操る背中をポンポンと労わってあげた。
 そうしたら何故か深々と心の底から出したようなため息を再度つかれてしまった。
 解せぬ。

 そんな風にじゃれていたらとうとう荷馬車では進めないところまで来てしまった。
「ここまでだな」
「そうですねぇ、ここからどうやって中腹までいくんですか」
 中腹というにはまだまだここは人里近いし、山岳にも挟まれていない人気がないとはいえ荷馬車をこんなところに放置していくのだろうか
「さあな、ここからはお前ひとりで行け」
「えー?自分で中腹まで行けと?わざわざ捨てられに?」
「正直荷馬車でここまでくるのも面倒だったがわざわざお前を中腹まで連れていく意味が分からんのに荷馬車を置いてまで行く意義が見出せん」
「お疲れ様です」
 おそらくこれ以上の深部に入ると俺のような餓鬼では村に帰らないにしても、他の人里へも降りていけなくなるのだろう。パパ上なりの気遣いというやつだ。
 ならば仕方ないとぴょんと荷馬車を飛び降りる。
「それではパパーえさま、今までお世話になりました。どうぞお元気で」
 そう言って深々お辞儀をすると、パパーえはもうこれ以上ないくらいに深い、それはふかーいため息をついてその最後の息まで出し切ってからぽつりと
「お前は、本当に、可愛げがない」
 とこぼしてそのまま渋々といったていで来た道を引き返していきました。

 さて、そうして取り残されてしまった俺ことユーラス(現在絶賛迷子中)はパパ上が帰っていった先とは逆方向―つまり魔導の森の奥へと向かっていた。
 というのも五歳の時に教会でスキルを見極めてもらいに行ったときに発覚した他人にはすっかりさっぱり不明な俺のスキルの正体が判明したのだ。
 ふつうは一人につき平均2,3個のスキルを所有していて、それとは別に神々の加護がつくわけだが、俺の場合は神々の加護は一切無い。
代わりに『お買い物』と『移動』というスキルが備わっていたのだ。
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