便利スキル持ちなんちゃってハンクラーが行く! 生きていける範疇でいいんです異世界転生

翁小太

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王都

19 商会の番人と前哨戦?

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 商業ギルドへの加入の大きなメリットは求人や取引相手の紹介だ。
 ソロで活動する行商人や小さな個人経営などのパーティー。それから所属人数が30を超えると結成できるクランがある。これらは根強く人々に根付いている魔物の脅威から、本来は商業ギルドが先に使っていた呼称を情報の混乱を避けるために冒険者ギルドへ譲り、商業ギルド側のパーティやクランに“商業ショップド”を頭につけて呼ぶように徹底したものだ。
 ハインリヒ商会ショップド・クラン・ハインリヒは本業は布や装飾品の商会だが、業種にかかわらず大きく商人たちに門戸を開き投資や人脈を駆使してたった一代で大きくなった商業ショップドクランだ。
 商人は信用が命だ。信用のない商人のもとに通っていては自分の信用にも響くため他の商人は行き控える。特に“自分たちに同じことをする可能性がある商人”のもとへは通わない。
 今回俺は、自分が何者かとも、どんな用事かとも、一言も説明しなかった。
 しかし俺はここにいる。
 つまり“商会が自分の判断で個室に案内した商人”を“自分たちが確認しなかった不手際で”個室から放り出すわけには行かないのだ。
「して、失礼ながら商談とはどういうことでしょうか? 商談であれば店主であるハインリヒとなさるのがよろしいかと。わたくしを呼ばれました理由は、いかなものでありますかな?」
「ええ、もちろん。わたくしも是非ハインリヒさんにはご挨拶の上、商談をさせていただきたいと考えております。しかし、伺ったところによりますと、なんでも『ハインリヒ商会の店主であるハインリヒ様は部下である皆様の教育に余念がなく、あまりにその教育が素晴らしいため、ご本人がおいでにならなくともなんの問題もなく現場が回ってしまうので、いついらっしゃるかわからない』とのことだったので」
 商業ギルドで仕入れた情報を10倍ぐらいマイルドにして美化した言い方で伝えると、デニスさんはより一層不愉快そうに眉をひそめた
「……それはハインリヒが必要のないほど無能だとおっしゃりたいのでしょうか?」
「いいえ、その方の話では話を聞いた時にはハインリヒ様がおいでになっていらっしゃらなかったようだったので。ハインリヒ様がおいでなのか直接の知り合いでもないわたくしの方ではわかりかねましたので、お店の責任者であらせられるデニス様に先にお話を通しておこうかと愚考いたしました次第でございます」
 しかし、そのようにデニス様がお心を乱されるとは、そのように言う口さがない方もいらっしゃるのですね……。と、悲しげな顔をしていうとデニスさんが本格的に嫌そうな顔をし始めた。
 そうですね、こちらの無礼をつついて追い返そうとした結果、デニスさん普通に切れて主人の悪評を個室に案内した商人に聞かせた形になりましたね。でもこちらを追い出そうと画策なさるなら応戦せざる得ません。
「しかし、デニス様がそのように、はっきりハインリヒ様にお話を通すようにおっしゃるということは現在ハインリヒ様は商会においでなのでしょうか」
「ええ、しかしちょうど今商談中でして」
 会わせるわけねーだろクソガキ。という副音声が聞こえるようだ。
「でしたらハインリヒ様と直接交渉する必要がある項目もございますので出来ればこちらで待たせていただきたいのですが」
「申し訳ございません。ハインリヒ様もお帰りになったばかりで予定が詰まっておりまして」
 ああ、聞こえる。とっと帰れクソガキって顔から聞こえる。これが顔がうるさいって現象なのだろうか。
「それでしたらまた後日伺いたいので今こちらでアポを取らせていただきたいのですが」
「五分少々でよろしければ三月後にでも」
 決定権は相手方にあるわけですし、そこに俺が口をはさむ余地がないのはわかりますけど笑顔で言うのはいかがなものね。なるほど、そこまで俺が嫌いか。あまり使いたくはなかったが、それならこちらにも考えがある。
「そうでしたか、こちらの商会は拠点変更をしたばかりの商人や新人商人でも無下に扱わないと聞いていたのでお話だけでもと思ってこちらへ伺ったのですが鵜呑みにするのはよくありませんでしたね」
 そっちがその気ならこっちだって新人連中に普通に言いふらすぞコノヤロー作戦。
「そうですね、ハインリヒもいつでもいるわけではありませんし。先触れをいただいて店舗責任者であるわたくしが話を聞くことで普段はそのようにしているのですが。お客様はそれは納得されないようですね」
 オブラートに包んだ『お前が俺じゃ嫌だって言っただけで普通は成立すんだよコノヤロー』をいただきました。
「そうですね、こちらとしては拠点変更したばかりの商人や新人などとかわされる慈善事業的な売買にしてしまうとお互いに困る商品を持ち込んでしまったので店主のハインリヒさんと直接契約させていただきたかったのですが」
 『お前に契約までできんのかバカヤロー』をやんわり言うと、デニスさんがピタッと止まった。俺もよくわからずつられてピタッと止まる。
「……お客様。少々確認させていただきたいのですが、お客様はどなたからこちらの情報を得てこられましたか?」
「……普通に商業ギルドで噂されている話をつなぎ合わせてこちらに伺ったのですが?」
 なにやら変な気配がしたので、追い出されないために明言しない程度に『有力商人から紹介されてきましたてへぺろ』風に装っていたのをかなぐり捨てて普通に事実を告白すると、しばしの沈黙のあと突然デニスさんが事切れた椅子の上で崩れ堕ちた。

 それがあまりに突然、全力で、崩れ落ちたので、前世で知り合いのじいちゃんが子供のころに目の前で倒れてそのまま亡くなった時のことがフラッシュバックした。
 ―――じいちゃんも普通の会話してたら突然ぐしゃってつぶれるみたいに倒れこんで、それから……
 なんて考えたら自分でも信じられないくらい頭が真っ白になった。
「えっえっ、……えっ、なに?? えっ心臓発作? 誰か! デニスさんが!!」
「だ、大丈夫です」
「デニスさん! 無理してしゃべらないで! い、今お医者さん呼んでもらってきますから! ご、ごめんなさい、俺が変なこと言ったから!」
 デニスさんのセリフがくしくもそのじいちゃんが言ったセリフとだだ被りしてて涙まで出てきた。
「いや! ホント! 大丈夫ですから!! 泣かないでください! ほら! 元気です!!」
「じいっちゃっんも! 死ぬ前! おっなじこと! いっでだぁー!!」
 ヤバい、全然涙が止まらない。突然の出来事に完全に精神が肉体年齢につられる。どう見てもデニスさんぴんぴんしてるのに、パニックと涙が止まらない。
 おろおろしながら泣いて過呼吸になり始めたあたりでふっと体が浮いた。
「ほら、落ち着け。泣くな泣くな。見ろ、デニスが近年稀にみるほど狼狽えてるからもう勘弁してやれ」
 振ってきた声に泣きながら上を見上げると、ハインリヒさんが俺を抱き上げて頭をかいていた。
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