トンネル抜けたら別世界。見知らぬ土地で俺は友人探しの旅に出る。

黒い乙さん

文字の大きさ
14 / 37
第二章 見知らぬ土地ですべき事

06 ひょっとして石器時代か何かかな?

しおりを挟む
 鬱蒼と茂った森林の中にうっすらと続く道……というよりは何度も人が行き来した事で踏みしめられただけの道とも言えない大地を歩く。
 いや、そもそも何度も人が行き来した場所であるならばそこはもう道と呼んでもいいのではないのだろうか? 獣道でさえも立派に道と呼ばれている以上それでいいはずだ。たとえ、この道を使っているのがベンズさんだけだったとしても。

 そんなどうでもいい事を考えながら俺は歩く。

 背負っていた籠を家に残して、腰に布袋を一つ下げただけのスタイルだ。
 ベンズさん曰く、オクトレイスは基本的に現地で細かく砕いてから持ち運ぶものらしい。
 それというのも、一度細かくなったオクトレイスは探すのが困難な為、大きな原石を見つけて砕いた方が早いから。
 
 石を砕く……と聞くと難しいように思えるが、オクトレイス自体は硬いが打撃に弱いらしく、道具か石で叩くか原石自体を他の石に叩きつけると割る事は出来るらしい。そして、割れるとナイフのような形状の破片が取れるという事だった。
 うん、ひょっとして石器時代か何かかな?

 俺はスマホを起動すると見本として撮影してきたネヴィーさんの持っていたオクトレイスの画像に目を落とす。
 そこに映し出されていたのは、黒っぽく光沢のある丸い石だった。

『……ひょっとしてオクトレイスって、日本で言うところの黒曜石みたいな奴か?』

 見せてもらった石が丸かったから、てっきり丸い石かと思っていたが、どうやらあれは既に加工済みだったらしい。
 確かに、普通に宝石なんかでも加工するよな。原石を「デンッ!」と目の前に出されてプレゼントとか言われても普通に引いてしまいそうだ。無いな。それは。

『加工かぁ……。それを全然考慮してなかった』

 あれからあの件に関しては何も言われていないが、もしもあの日からきっちり20日後が約束であるならば、その期日までは後3日である。
 その短い期間で加工する? 手先が不器用で工作なんて殆どやった事のない俺が? 難易度が高すぎる。

 ならば、経験者でありその辺が得意そうなベンズさんに教授してもらいながらやるしかないだろうか。

 ……その前に教えてくれるかが問題だな。

 いや、何だかんだで頼めば教えてくれるだろう。あんな筋肉の権化のような見てくれをしているが、基本的には優しい男だ。
 きっと、チンピラのような眼力を向けながら指導してくれるに違いない。それはもうビシバシと手とり足とり。

『……最後の手段だな。それは。まずは自分でやってみて、無理だったら頼もう』

 俺は出発前のベンズさんの苦虫を噛み潰したような顔を思い出してため息をつきながら、教えたもらった谷までの道を進んでいった。



◇◇◇◇



 初めに“谷”と聞いた時にてっきり俺は両側を崖に囲まれた川というイメージをしていたのだけど、たどり着いたのは多少傾斜を降りなくてはならなかったものの、普通の山の中にある清流だった。
 ひょっとしたら、今まで俺が“谷”だと思っていた単語は、“沢”だったのかもしれない。

 ネヴィーさんが一生懸命説明してくれた結果覚えた言葉だったのだが、ひょっとしたら他の言葉も間違って覚えているものがあるかも知れないから注意が必要だな。
 何しろ、正解を教えてくれる人がいないから何もかもが予想だのみなのだから。

 周りを見渡すと大きめの石がそこら中に転がっているなんの変哲もない渓流だった。
 この中から目的の石を探すとなるとかなり苦労しそうだ。一応、出発前にベンズさんから特徴的な事は聞いてきたから、見つからないという事はないと思うが、当初の写真だよりの探索だと見つからなかった可能性が高い。
 ベンズさんマジすごい。今日は何故か恐ろしかったけど。

 俺は早速オクトレイス探しに気持ちを切り替える。

 オクトレイスに限った事ではないが、原石というのは俺のような素人では中々他の石とは区別が付きにくく、こうして周りを見てもどれも同じような石にしか見えない。
 が、オクトレイスは割れた部分が他の石に比べて黒いか黒ずんでいる……らしい。
 なので、初めから割れている大きめの石を見つけて、破片を頂こうという作戦だった。

 俺は川べりや水の中を覗き込んだりしながら石を探すがよくわからない。多分、見落としている可能性もあるだろう。
 そして、ちょっと意外だったのが、オクトレイスではなさそうな色付きの石が結構転がっていたことだった。
 
 俺がこの場所に住み着くようになってから既に2ヶ月以上経つが、ネヴィーさんとベンズさん以外の人間を見たことがないから、こういった鉱石が回収されずに残っているのかとも思うし、こういう色付きの石は特に価値がないのかもしれないとも思う。そもそも、本当にその辺の石ころのように転がっているのだから希少価値は無いに等しいのだろうが。

 俺は水の中に沈んでいた薄い青色の小石。半透明で小指の先ほどの大きさのそれを拾い上げると陽に翳す。川の流れで削られて丸くなったのだろうか。完全に球状とは言えないまでも綺麗に整った形をしていた。
 これだったら加工せずにそのまま渡しても引かれないのでは無いのかとも思ったが、不意にオクトレイスを胸に抱いて嬉しそうな笑顔を見せるネヴィーさんを思い出す。

『……探すか。オクトレイス』

 俺はその青い石を布袋に突っ込んで呟くと、川べりを上流に向かって歩く。ベンズさんの話が本当なら、この先にある小さな滝のそばになら確実にあるという事だった。
 何となくベンズさんに教わった場所で採取するのは嫌だったが、見つからなかったらどうしようもない。
 それまでにどうにか見つかって欲しいと願いながら、俺はそのまま足を進めた。


◇◇◇◇


 結果から言うと、ベンズさんお勧めの場所以外でオクトレイスを見つける事は出来なかった。
 
『……まあ、そうなるよな……』

 そこは、2m程の高さから水が落ちる小さな滝の傍だった。
 いくつか大きめの石が割られ、一箇所に纏められるように置いてある様子は、完全に『ベンズの作業場』だ。
 そもそも、ベンズさんが何で生計を立てているかという事まで考えれば、普通に資源の売買だろう。恐らく、その品目にはオクトレイスも含まれているに違いない。

『オクトレイスを贈る事には何か意味があるみたいだったもんなぁ……。多分、需要があるんだろうな』

 俺は砕いた後に綺麗にまとめられているオクトレイスの破片の前で膝を折ると、その中の一つに手に取った。
 ネヴィーさんが持っていたのものは丸く研磨したものだったのか、ツルリとした球状だったが、ここにあるものは全て綺麗に割れて陽の光に反射して鋭い光を放っていた。性質としてはガラスに近いのだろうか。確かに割れ目が鋭くてナイフにも使えそうだった。

『せめて新しく割るか』

 本当は既に割れているものを持っていくのが手間がなくていいのだろう。
 でも、それは何だか違うような気がした。
 
 俺は手にしていたオクトレイスの欠片を元に戻すと、近くにあった石を手にして立ち上がる。
 恐らく、滝の傍に半分埋まっている大きな岩。あの中に含まれているのだろう。
 
 しかし、俺は石を手にしながらもその岩には近づかない。いや、正確に言うと近づけなかった。

『……間違いない。持ってるよ。俺──』

 その岩よりも高い場所。
 ようするに滝が流れ落ちている大元の部分の段差に佇む存在に、俺はしっかりとロックオンされてしまっているようだったから。

『──疫病神的な何かを』

 そこにいたのは1頭の獣。
 漆黒の毛皮に豚の鼻を持つ狼に似た肉食獣。命名『ブタ狼』が、俺という獲物を見つけて歓喜の咆哮を上げた。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

キャンピングカーで走ってるだけで異世界が平和になるそうです~万物生成系チートスキルを添えて~

サメのおでこ
ファンタジー
手違いだったのだ。もしくは事故。 ヒトと魔族が今日もドンパチやっている世界。行方不明の勇者を捜す使命を帯びて……訂正、押しつけられて召喚された俺は、スキル≪物質変換≫の使い手だ。 木を鉄に、紙を鋼に、雪をオムライスに――あらゆる物質を望むがままに変換してのけるこのスキルは、しかし何故か召喚師から「役立たずのド三流」と罵られる。その挙げ句、人界の果てへと魔法で追放される有り様。 そんな俺は、≪物質変換≫でもって生き延びるための武器を生み出そうとして――キャンピングカーを創ってしまう。 もう一度言う。 手違いだったのだ。もしくは事故。 出来てしまったキャンピングカーで、渋々出発する俺。だが、実はこの平和なクルマには俺自身も知らない途方もない力が隠されていた! そんな俺とキャンピングカーに、ある願いを託す人々が現れて―― ※本作は他サイトでも掲載しています

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

処理中です...