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第三章 魔術都市ランギスト
01 弱者は黙って後ろにいろ byフラヴィ
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フラヴィとの旅路は危険が一杯である。
どうやら、ベンズさん達が居を構えるあの辺りは相当奥まった場所にあるらしく、一応は村と呼べるような一番近い集落にたどり着くだけでも丸々一日掛かってしまった。
小屋の周りは比較的整地されていて歩き回る分には問題なかった山道も、次第に荒れ果てた物に変わっていき、非常に歩きにくく当然、歩行速度も落ちていくから余計だ。
それでも、初日は村にたどり着いて屋根のある場所で寝る事が出来たからまだ良かった。
問題はその後で、足の遅い俺の存在がある為だとはわかっているが、次の集落にたどり着く前に野宿する事も増えてきて疲れが取れずに更に歩行ペースが落ちる……という弊害も出てきてしまっている。
今日は出発から既に4日。俺的にはもう足も体力も限界なのでもっとペースを落としたい所ではあるのだが……。
我らがフラヴィはそんな虚弱な俺の存在なんてどうでもいいみたいで、ズンズン先に進んでいく。
まあ、流石に見えなくなる前に立ち止まってはくれるのだが、その時に罵詈雑言を浴びせてくるので出来れば遅れず付いていきたい所だった……が、気持ちだけでついていけるほど現実は甘くない。そもそも、こっちは病み上がりなのだ。
そして、もっと問題なのが整備されていない山道であるが故にそれほど多くはないけれど獣が襲って来る事がある。という所である。
当然、武力など殆どない私、栗田相馬に出来る事と言えば回復頼みのゾンビアタックしかないのだが、唯でさえ遅い進行ペースを俺の負傷による遅延で乱すわけにもいかないのでその辺の対処は全てフラヴィにお任せだ。
……お任せなのだが、この部分が俺には非常に不満に思う所なのだ。
と、考えた所で俺の後ろの雑草が揺れる音──を聞いた時には既に俺の体は動いている。
即座に地面に前回り受け身の要領で転がると、獣とは反対方向にダッシュ……し始める間もなくフラヴィの魔法が炸裂し、獣──驚いた事に俺がこの世界に来た初日に遭遇した熊もどき、だ──の上半身が吹き飛び、下半身のみとなった熊もどきはそのまま後方に倒れ伏した。
「※※※逃げるのは※※※上手に※※※馬鹿に※※※※良い※※※?」
何故か爽やかな笑顔を俺に向けつつ手にしていたロッドを腰に戻すフラヴィ。
その笑顔をボコボコにしてやりたい衝動に駆られるが、残念ながらそんな事をしよう物なら即座に俺は消し炭にされてしまうだろう。その行為をあの女は絶対に躊躇わない。絶対に。
「……私が逃げる、前に火を使う。止める出来ないか?」
「どうして?」
怒りを押し殺した俺のクレームに、実に意外そうな表情を向けるフラヴィ。
「私がいる※※※※※※※、※※※※出来る※※※※? どうして私が足でまといの※※※馬鹿※※※※※※? ※※わからない※※※」
曇りなき眼だ。
そう思わせる程に無垢な瞳で事実のみを口にしているのであろうフラヴィの反論を聞くのは一体何度目の事だろう。
ここまでの流れでわかったかと思うが、このフラヴィ、驚異に対して対処するときに俺の存在が目に入っていないらしい。
それはそれは、普通に自分1人が行動しているのと変わらない対応をしてくれる。
獣が現れる。即座に対象に向かって魔法の準備をし、行使する。
この世界の魔法使いの基準がわからないから何とも言えないけど、普通はこういう後衛っていうの? そういう人って前衛の人が敵の進行を止めている間に魔法なりなんなりの準備をして行使するものなのではないのだろうか? と思うのだが、見る限りフラヴィにはそういう発想が無いように感じる。
例えるならば、前衛がいたとしてもそいつごと魔法でぶっ飛ばした挙句、「感謝してよね」とか満面の笑顔で言っちゃうような感じ。
というか、さっきのやり取りがまんまそれだ。違うのは俺が逃げ切ったという点だけで、最初に獣に遭遇した時は危うく魔法に巻き込まれかけて、大怪我をする所だった。間一髪反応出来て小怪我で済んだためにすぐに治ったので大事にはいたらなかったが。そして、その時にフラヴィから飛び出した言葉が「礼を言え」だったのだ。
「もういい。助けてくれたのはありがとう。でも、怖いは怖い」
服についた汚れを叩きながら立ち上がった俺に、フラヴィはコテンと小首を傾げる。
……その無垢な顔面に拳を叩き込んでやりたい。
「怖いなら私の後ろに隠れる※※※※する※※※※? 何※※※言う※※※※※馬鹿?」
「獣出たの私の後ろ。フラヴィの後ろ。無茶言う。駄目」
「ソーマが※※なだけ※※※※?」
「もういい。わかった」
「何※※? 私はソーマを※※※※? どうしてソーマは※※※※※※? 意味※※※※※。ソーマが馬鹿だから、※※※※※、※※※が足でまとい※※※※※※※? だから、※※※※は馬鹿※※※※」
「もういい。もういい。もういい。わかった。悪いの私。もういい」
「はぁ!? ※※※※※※※※※!? ※※※※※※※※※※※※っ!! ※※※※※※※※※※──」
「本当にもういい! 悪いの私! ごめんなさい! お礼言う欲しい、言う! ありがとう! だからもういい! 黙るっ!!」
「……フンッ!」
以上。
獣撃退後に毎回繰り広げられるやりとりをお送りしました。
このやりとりの度に最後は必ずフラヴィの言っていることがわからなくなるから、普段は相当気を使って俺に話しかけてくれるようになったのは分かる。
わかるのだが、どうにも彼女の常識と、俺の常識が違いすぎるのだ。
それとも、この世界の人達はみんなこんなに好戦的なのだろうか? そして、そんな人達についていけなくなったから、ベンズさんやネヴィーさんは世捨て人になった? わからないことだらけだ。
とにかく、すっかりヘソを曲げてしまい俺を置いていく勢いで先に進みだしたフラヴィの後を追う為に俺は走る。
正直、こんな旅を後何日もしなければならない事が不安で仕方なかった。
どうやら、ベンズさん達が居を構えるあの辺りは相当奥まった場所にあるらしく、一応は村と呼べるような一番近い集落にたどり着くだけでも丸々一日掛かってしまった。
小屋の周りは比較的整地されていて歩き回る分には問題なかった山道も、次第に荒れ果てた物に変わっていき、非常に歩きにくく当然、歩行速度も落ちていくから余計だ。
それでも、初日は村にたどり着いて屋根のある場所で寝る事が出来たからまだ良かった。
問題はその後で、足の遅い俺の存在がある為だとはわかっているが、次の集落にたどり着く前に野宿する事も増えてきて疲れが取れずに更に歩行ペースが落ちる……という弊害も出てきてしまっている。
今日は出発から既に4日。俺的にはもう足も体力も限界なのでもっとペースを落としたい所ではあるのだが……。
我らがフラヴィはそんな虚弱な俺の存在なんてどうでもいいみたいで、ズンズン先に進んでいく。
まあ、流石に見えなくなる前に立ち止まってはくれるのだが、その時に罵詈雑言を浴びせてくるので出来れば遅れず付いていきたい所だった……が、気持ちだけでついていけるほど現実は甘くない。そもそも、こっちは病み上がりなのだ。
そして、もっと問題なのが整備されていない山道であるが故にそれほど多くはないけれど獣が襲って来る事がある。という所である。
当然、武力など殆どない私、栗田相馬に出来る事と言えば回復頼みのゾンビアタックしかないのだが、唯でさえ遅い進行ペースを俺の負傷による遅延で乱すわけにもいかないのでその辺の対処は全てフラヴィにお任せだ。
……お任せなのだが、この部分が俺には非常に不満に思う所なのだ。
と、考えた所で俺の後ろの雑草が揺れる音──を聞いた時には既に俺の体は動いている。
即座に地面に前回り受け身の要領で転がると、獣とは反対方向にダッシュ……し始める間もなくフラヴィの魔法が炸裂し、獣──驚いた事に俺がこの世界に来た初日に遭遇した熊もどき、だ──の上半身が吹き飛び、下半身のみとなった熊もどきはそのまま後方に倒れ伏した。
「※※※逃げるのは※※※上手に※※※馬鹿に※※※※良い※※※?」
何故か爽やかな笑顔を俺に向けつつ手にしていたロッドを腰に戻すフラヴィ。
その笑顔をボコボコにしてやりたい衝動に駆られるが、残念ながらそんな事をしよう物なら即座に俺は消し炭にされてしまうだろう。その行為をあの女は絶対に躊躇わない。絶対に。
「……私が逃げる、前に火を使う。止める出来ないか?」
「どうして?」
怒りを押し殺した俺のクレームに、実に意外そうな表情を向けるフラヴィ。
「私がいる※※※※※※※、※※※※出来る※※※※? どうして私が足でまといの※※※馬鹿※※※※※※? ※※わからない※※※」
曇りなき眼だ。
そう思わせる程に無垢な瞳で事実のみを口にしているのであろうフラヴィの反論を聞くのは一体何度目の事だろう。
ここまでの流れでわかったかと思うが、このフラヴィ、驚異に対して対処するときに俺の存在が目に入っていないらしい。
それはそれは、普通に自分1人が行動しているのと変わらない対応をしてくれる。
獣が現れる。即座に対象に向かって魔法の準備をし、行使する。
この世界の魔法使いの基準がわからないから何とも言えないけど、普通はこういう後衛っていうの? そういう人って前衛の人が敵の進行を止めている間に魔法なりなんなりの準備をして行使するものなのではないのだろうか? と思うのだが、見る限りフラヴィにはそういう発想が無いように感じる。
例えるならば、前衛がいたとしてもそいつごと魔法でぶっ飛ばした挙句、「感謝してよね」とか満面の笑顔で言っちゃうような感じ。
というか、さっきのやり取りがまんまそれだ。違うのは俺が逃げ切ったという点だけで、最初に獣に遭遇した時は危うく魔法に巻き込まれかけて、大怪我をする所だった。間一髪反応出来て小怪我で済んだためにすぐに治ったので大事にはいたらなかったが。そして、その時にフラヴィから飛び出した言葉が「礼を言え」だったのだ。
「もういい。助けてくれたのはありがとう。でも、怖いは怖い」
服についた汚れを叩きながら立ち上がった俺に、フラヴィはコテンと小首を傾げる。
……その無垢な顔面に拳を叩き込んでやりたい。
「怖いなら私の後ろに隠れる※※※※する※※※※? 何※※※言う※※※※※馬鹿?」
「獣出たの私の後ろ。フラヴィの後ろ。無茶言う。駄目」
「ソーマが※※なだけ※※※※?」
「もういい。わかった」
「何※※? 私はソーマを※※※※? どうしてソーマは※※※※※※? 意味※※※※※。ソーマが馬鹿だから、※※※※※、※※※が足でまとい※※※※※※※? だから、※※※※は馬鹿※※※※」
「もういい。もういい。もういい。わかった。悪いの私。もういい」
「はぁ!? ※※※※※※※※※!? ※※※※※※※※※※※※っ!! ※※※※※※※※※※──」
「本当にもういい! 悪いの私! ごめんなさい! お礼言う欲しい、言う! ありがとう! だからもういい! 黙るっ!!」
「……フンッ!」
以上。
獣撃退後に毎回繰り広げられるやりとりをお送りしました。
このやりとりの度に最後は必ずフラヴィの言っていることがわからなくなるから、普段は相当気を使って俺に話しかけてくれるようになったのは分かる。
わかるのだが、どうにも彼女の常識と、俺の常識が違いすぎるのだ。
それとも、この世界の人達はみんなこんなに好戦的なのだろうか? そして、そんな人達についていけなくなったから、ベンズさんやネヴィーさんは世捨て人になった? わからないことだらけだ。
とにかく、すっかりヘソを曲げてしまい俺を置いていく勢いで先に進みだしたフラヴィの後を追う為に俺は走る。
正直、こんな旅を後何日もしなければならない事が不安で仕方なかった。
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