復讐者は禁断魔術師~沈黙の聖戦~

黒い乙さん

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第8話 シグルズ・ファフニール

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 グレイブを突き飛ばすと、俺は飛び込む様に横に転がる。
 すると、今まで俺が居た場所を一本の光の矢が通り過ぎ、僅かな音と共に壁に吸い込まれて消えた。
 見ると壁に穴が空いている。
 正面の相手から尋常ならない魔力が一点に収束するのが見えたから咄嗟に動いただけだったが、あちらは問答無用でこちらを攻撃するつもりのようだった。

 危険を感じて咄嗟にドライアドに意識を繋げようとする俺だったが、ゾッとするような感覚に陥ってすぐに繋ぎかけた意識を手放す。
 何となく、今この場で意識を繋げた瞬間、全てが終わってしまうような気がした。

 だが、魔人族の攻撃は止まらない。
 自らの周りに光の玉を5つ程出したかと思うやいなや、それぞれがスピードや軌道を変えて俺に向かって襲いかかってきた。
 俺は咄嗟にカットラスを引き抜くと、向かってきた光弾の一つを弾こうとするが、以前魔術をナイフで弾こうとして逆に破壊されたの思い出し、思わず引っ込めてしまった。

 それが不味かった。

 僅かに体を捻って光弾を躱した直後、今度は頭上から強烈な圧力が掛かる。
 ただの魔力だ。ただの魔力の塊を頭上から落されただけだと気がついたが、気がついただけではどうすることも出来ない。
 動きを止められた所を、光弾の一つが足元に命中。爆風で浮き上がった所を空気の塊が俺の鳩尾に突き刺さり、一気に壁際まで吹き飛ばされた。

「どうした」

 遠くから声が聞こえる。

「先程こいつを倒した魔術はどうした? ひょっとして、打ち止めか?」

 うつ伏せで転がっていた俺だったが、顔をあげると魔人族の男はフォレストワームの死体を指差し、こちらを見ている所だった。

 俺は立ち上がるが、足に上手く力が入らない。
 魔術を使用しなかったとは言え、今の一連の攻撃で、俺の体力は殆ど奪わえてしまっていた。
 奴は先程から魔術を使用する際に一言も発していなかった。つまり、今までの魔術は片手間。完全に手加減した攻撃であったのに。

「……まさか、本当に打ち止めか?」

 フラフラと立ち上がりつつも何もしようとしない俺に自身の発言が図星だったのを悟ったのだろう。
 驚いた表情浮かべたあと、その後あからさまにがっかりしてみせた。

「つまらん。久しぶりに面白い戦いが出来るかと思ったのに。まあ──」

 一瞬、このまま見逃してもらえるのでは? と思った俺だった、すぐにその考えは打ち消される。

「死ぬ直前なら無駄な足掻きが見られるかな?」

 魔人族の男は此方に向かって右手を突き出す。
 それに合わせて、周りに拡散していた魔力が男の右手に向かって収束していくのが感じられた。

「全てを貫く大地の槍。その身を持って──」

 魔族の男の口から魔力を帯びた言葉が紡がれ始めたその時、ガラスを叩くような音と共に、魔術の詠唱が打ち切られた。
 見ると、反対側に倒れていたはずのグレイブが起きて上がっており、目の前の男に矢を放ったのだということがわかった。
 しかし、その攻撃は、男の周りに渦巻く魔力の流れだけで弾かれてしまっていた。
 ただの魔力だ。魔術に変換してすらいない。先程の俺への攻撃もそうだったが、物理的影響を持つほどの圧倒的な魔力量。
 これが……魔人族。

「邪魔だ」

 魔人族の男は空いた左手でグレイブを指さした。
 指を差しただけに見えた。
 だが、次の瞬間、グレイブは勢いよく吹き飛び、壁に激しくその背を打ち付けた後倒れ付し、そのまま動かなくなってしまった。
 先程俺に対して放った気弾だろう。

 その様子を見た俺が感じたのはどうしようもない絶望だった。
 フォレストワームは倒した。
 これから俺達は町に戻って報酬を貰い、次の街へ旅立つ筈だったのだ。
 目的の薬草も手に入れ、最大の障害だと思っていた番犬も撃退した。
 それなのに、突然現れた魔人族の男に全てを乱されようとしている。
 俺達が何をしたというのか。何もしていない。

 ただ、俺が精霊魔術師だった。それだけだ。

「さて、続きだ」

 男の声が聞こえてくる。
 さっき男は言った。
 死ぬ直前なら最後の悪あがきをするのではないかと。

 確かにそうだった。
 この戦いが始まってから、俺は後の事ばかり考えていなかったか?

 気を失う事を恐れてドライアドの力を使う事を躊躇った。

 武器を失う事を恐れて光弾の直撃を許した。

 ……死ねば何もかも失うというのに。

(悔しいか)

 心の中から声がする。
 この状況において自らの甘さを自覚したことによって生まれた自らの声。

「悔しい」

 溢れる言葉。
 口にするとこれからの事、今までの事が心に浮かぶ。
 俺の間違った行動から一人ぼっちになってしまった獣人族の少女。
 同じく一人ぼっちになってしまった者同士、せめて、彼女の家族が見つかるまで共にいようと決めた。
 しかし、それがこんな所で終わってしまうのだ。

(情けないか)

 再び響く心の声。
 そんな事言わなくてもわかっている。
 わかっている事を態々自問自答している自分自身に腹が立った。

(ならば呼ぶがいい)

 何を呼ぶというのか。
 魔人族の男の詠唱が始まっている。
 内容から察するに岩の槍でも飛んでくるのだろう。
 あの魔力を込めた槍なら、躱す間もなければ破壊する事も出来ないだろう。
 今度もまた、自らの間違った選択から、何もかも失ってしまうのだ。

 何もかも。

 そう思った時、目の前に泣きじゃくる獣人の少女の姿が浮かび上がってきた。
 出会ってからただの一度も見た事がないその姿は、何を悲しんでいるのだろうか。

 いや、彼女の涙は一度だけ見たことがある。

 あれは……俺がレイラを救った時。

 また泣かしてしまうのか? あの強い少女を。
 何一つ最善を尽くそうともしない俺が。

「呼んでやるよ」
(お前自身の本来の名────を)

 魔力の奔流が起こる。
 魔人族の詠唱が完成し、壁のように立ちふさがる岩石の槍と魔力の塊。
 それが鋭く回転しながら目にも止まらぬスピードでこちらに向かってくるのを、‘俺はこの目ではっきりと確認した’。

 カットラスを引き抜き、岩石の槍の前に体を踊らせ、その一つに刃を当てる。
 岩石の槍の隙間は狭い。
 たとえ見えていたとしてもその間に体をすべり込ませる事は不可能だった。

 死ぬかも知れないのに武器を失う事が恐ろしいのか?
 バカバカしい。

 俺は吐き捨てる。
 それは俺であり、しかし、厳密に言えばそうではない俺自身。

 カットラスが砕け散る。
 それと同時に濃密な魔力でコーティングされた岩の槍も同様に。
 直後に背後で上がる轟音とも取れる爆発音には目もくれず、俺はその場で一人立つ。 
 一つの岩石の槍が砕かれた事で生まれた一人分のスペースに入った事で、俺は生き残ることが出来た。
 武器は確かに失った。
 だが、それがどうした?
 俺の最大の武器はなんだ?

 魔人族の男は驚いた顔をしていた。
 詠唱魔術を砕かれたのだ。
 自信があったのならそれは驚きもするだろう。
 だが、俺はその顔に無性に腹が立った。
 初めから相手を見下したその顔。
 あの時……。

 俺から全てを奪った男を見ているようで。

「奴を壊すぞ」

 自らの右手を見つめ、俺は呟く。

「だから、その力を貸せ。くだらない理由で他人の物を壊す奴には、相応の罰が必要だ」

 そんな俺の姿を見て、魔人族の男は初めに見せたような笑顔を浮かべる。
 まるでこれから楽しい遊びをする子供のように。

 気に入らない。

「奴を壊すぞ」

 まったくもって気に入らない。
 あいつも、‘俺も’、さっさと壊れてしまえばいい。

「付いてこい! 『ゲルガー』!!」

 全ての感覚が吹き飛ぶ。
 もう何も怖くなかった。



 光が走り、炎が迸る。
 その間隙を縫って俺は魔人族の男の懐へと飛び込む。
 しかし、目の前の男は魔力を無差別放射することで俺の突進のスピードを緩め、

「降魔の雨!」

 右手を振りらって発動した魔術は、魔力と空気をブレンドし、硬質化した雨だった。
 俺は一歩後ろに下がった後、右に回り込み、再び魔人族の脇に肉薄する。

 奴は俺の動きが見えていない。
 魔力の膜を纏うことで辛うじて接近してきた俺のスピードを判断しているに過ぎない。
 だから俺は待っていた。
 奴は魔術を使用したほんの一瞬、僅かに自らの周りの魔力が薄くなる。
 俺は魔力の雨をその身に浴びながら、男の脇腹に右拳を叩きつけた。

 ゴッ! と、肩まで突き抜ける衝撃。
 男は錐揉み回転しながら吹き飛ぶと、地面に激突し、3回転程した後ようやく止まる。
 起き上がるが、その口元には血が浮かび、先程までの余裕は全く見られなかった。
 だが、それだけでは終わさない。

 俺は奴に向かって一直線に駆ける。
 魔人族は魔力が豊富で魔術に優れた民だが、反面、体格は貧弱だ。
 人間族が魔人族に勝てる唯一の方法。それは接近戦に持ち込む事だった。

「氷炎乱舞っ!!」

 魔人族の男を中心として、炎と氷が荒れ狂う。
 ただの炎と氷ではない。それぞれが鋭い鋒を持ち、大地や壁を切り裂いた。
 かつて対峙した冒険者の魔術に似ていたが、それとは比べ物にならない威力と範囲だった。

 俺はそれら避けつつ接近するも、全ては避けきれない。
 あと少しで男に接近できるという所で現れた炎と氷の刃に対して、俺は迷わず氷の刃に飛び込むと、その氷を下から拳で打ち上げる。
 単に軌道を変えようとしただけのつもりだったのだが、想定に反して氷は砕け、傷ついた俺の拳から舞い散る血と共に、辺りに煌きながら飛び散っていく。

 驚愕した。
 今度こそ間違いないなく魔人族の男の顔に恐怖の色が浮かぶ。

「ぶっ壊れろ」

 傷つき砕けかけた右拳。
 しかし、そんな事は関係ない。壊れるのなら壊れてしまえばいい。この男を壊すことが出来るのなら、それは本望だ。

 俺の拳が男の顎を捕える。
 ゴキゴキと嫌な音をたてたのは果たして俺の拳か男の顎か。

 男は先程とは比べ物にならない勢いで吹き飛ぶと、そのまま壁に激突した。
 洞窟全体が揺れるように振動したあと、男の上に崩れた岩が多数落ちる。

 魔人族の体は弱い。
 恐らくこれで終わりだろう。

 俺はもうすぐ無くなるであろう魔力を感じながら背を向ける。
 すぐにでもグレイブを起こして、町に帰らなければ。
 そう思い一歩踏み出した所で、背後からした轟音に反射的に振り返った。

 そこには先程の魔人族の男が瓦礫を避けて立っていた。
 右手はだらりと下げられ、口からは夥しい血が流れている。
 しかし、自由な左手を自らの胸に当てると、詠唱する。

「神の愛は我が身に宿る」

 すると、たちまち体の傷が癒されていく。
 どうやら、相手は回復魔術も使えるらしい。

「我が名はシグルズ・ファフニール」

 軽い絶望をしていた俺に対して、目の前の男は突然名乗りを上げた。

「貴様の名は? 精霊魔術の終着点にたどり着いた勇者の名を聞いておきたい」

 突然訳のわからない事を言い出す魔人族の男。

「精霊魔術の終着点?」
「究極の精霊魔術、精霊憑依。その奥義知らぬとは言わさん」

 俺の言葉に、まるで馬鹿にされたかとでも思ったのか、顔をしかめながら男は言う。
 精霊憑依? 初めて聞く単語だった。
 ただ、俺は己の身に響いた声に従ったに過ぎない。

「憑依させたのは己の守護精霊。せいぜい自らの身体強化であったようだが、見事だ。まさか、生きている内に拝めるとは思わなんだ」

 一人納得したように頷く魔人族の男に対して、俺は困惑するしかない。

 守護精霊? 
 ゲルガーはもう一人の俺だと言った。
 俺の真の名だと。
 しかし、目の前の男はゲルガーを守護精霊だという。
 俺にはわからない事ばかりだが、どうやら目の前の男にはもう俺と戦う気はないらしい。
 今再び戦いが起こったら、魔力が切れて敗北するのは俺だろう。
 そういう意味では助かったのかもしれない。

「俺の名は……テオドミロだ」
「テオドミロか。その名忘れんぞ」

 そう言うと、魔人族の男は洞窟の一つに向かって歩きだした。初めに男が立っていた穴は先程の戦いで塞がってしまったから、別の穴だ。

「どこに行くんだ?」
「帰るのだ」

 俺の疑問に答える魔人族の男。
 足を止め、首だけ後ろに向け、答える。

「十分楽しめた上、珍しいものも見られた。それに、よく考えたらフェアではなかったしな」
「フェア?」

 俺の言葉に、男はフォレストワームの死骸に目を向ける。

「既に一戦して魔力が少なくなった相手にする戦いではあるまい。もっとも、次会った時は容赦はしないが」

 男は再び俺の方を向くと、ニッと笑う。

「今度はお互い万全の状態で会おう。その時はこの戦いの続きをしたいものだ」

 言いながら自らの行く手に首を戻すと、ゆっくりと歩き出す。

「最後までな」

 最後にヒラヒラと手を振りながら立ち去る魔人族の男……シグルズ・ファフニールの姿を見送った後、俺はしばらくその場に立ち尽くしていた。



 その後、殆どの魔力を失った俺は激しい睡魔に襲われつつもグレイブを起こし、何とか町まで帰ってくることが出来た。
 もっとも、帰りの道中では獣に襲われる度に今度はグレイブに守られることになったのだが、グレイブは笑って許してくれた。
 助けられたのはお互い様だ。と。

 帰り着いた時は既に町は黄昏色に染まり、沢山の旅人が宿に向かって足を進めているところだった。
 帰ってきたのだ。
 もっとも、この町のこの光景ももう見る事はないのだろうが。

「行くんだね」

 宿に向かう途中。俺とグレイブが別れる道で、グレイブがそう言ってきた。

「ええ。今度の仕事で十分な資金が得られますからね。そろそろ次の町に行こうかと思ってます」
「寂しくなるね」

 そう言って見上げるグレイブに釣られるように、空を見上げる。
 暗くなり始めた空に、気の早い星が一つ光った。

「明日は見送りに行くよ。報酬も渡さなければいけないし」
「助かります。最後までありがとうございました」
「礼なんていらないよ」

 お互い笑顔で別れた後、俺は自分の宿屋に向かう。
 2ヶ月の間通った道筋だ。
 この道を歩く度に帰ると形容したのはいつからか。

 俺は宿に着くと今晩で最後だと宿屋の主人に話し、部屋を向かう。
 ギシギシと悲鳴を上げる廊下を歩き、一番奥の部屋へ行く。
 扉を開け、中に足を踏み入れる。
 日当たりの悪い部屋は既に暗闇に彩られ、シンと静まり返っている。
 ドアを閉めて部屋の奥まで歩いていくと、ベッドに丸くなっている獣人族の少女を発見した。
 緑色のベレー帽を頭に被り、シャツとズボンを身につけた姿は、俺が留守の時にそうするように言いつけた格好だ。
 こんな時間まで帰ってこなくて、眠ってしまっても、こうして言い付けを守って待ってくれていたのだ。

 帽子を取り、頭を撫でる。
 柔らかな髪と尖った耳が心地よい感触を手に伝えてくれた。

「……おかえり」

 ポツリと聞こえた声に、視線を向けると、薄らと眼を開けたレイラがこちらを見ていた。

「……ただいま。いい子にしてたか」
「ン……」

 俺の言葉に僅かに頷くレイラ。
 とても眠いのだろう。
 俺の言葉を聞きながらも、どこかここではないどこかに意識を飛ばしているように見える。
 俺はそんなレイラの頬を優しく撫でる。
 すると、レイラを俺の手を握ると、手の甲をそっと舐めてきた。

「けが……した?」

 何度か舐めた後、俺を見上げたレイラに対して、俺は頭を掻いて苦笑する。

「ちょっとドジしてね」
「……そう」

  その後しばらく俺の手の怪我を舐めていたレイラだったが、やがて睡魔に負けたのか、俺の手を抱き込んだままスヤスヤと眠りに落ちてしまった。

「心配かけたのかな」

 俺はレイラを起こさないようにベッドの端に寄せて毛布をかけてあげると、俺自身も一緒に毛布にくるまった。
 魔力を使い切って眠かった俺が眠りにつくのに、それほど時間はかからなかった。




「元気でね」

 馬車に乗り込んだ俺たちは、馬車の外で名残惜しそうに見上げているグレイブに頷く。

「グレイブさんこそ。また会える日を楽しみにしていますよ」
「そうだね。その時は今よりは名の知れた冒険者になっていると約束するよ」
「はい」

 窓の外へと手を伸ばし、グレイブとしっかりと握手を交わす。
 彼の実力で凄腕の冒険者になれるかは分からないが、名の知れる冒険者にはなれるだろう。人が良く、誰かを助ける事を厭わない彼ならば。

「レイラちゃんも。また会おうね」
「ばいばい」

 馬車の中を覗き込むようにして声をかけてきたグレイブに対して、レイラはフリフリと手を振って答えた。
 朝ここに来る前に教えておいた別れの挨拶だ。
 即席だったが、うまくいって良かった。

「じゃあ、出発すんぞ」
「お願いします」

 御者からの呼び掛けに答えると、ガタゴトと馬車が動き出す。
 馬車から顔を出して最後にブレイブに手を振って別れを告げる。
 グレイブもそれに答えて手を振ってくれた。
 こうして、2ヶ月にもわたる俺のウィルティアの町での生活は終わった。



「んー」

 馬車が進んで2時間ほど経った頃、レイラが外の景色を眺めながら小さく唸る。
 お腹でもすいたのかな? と思って外に眼を向けると、離れて行く大森林の姿を拝む事ができた。
 俺とレイラ。ついでにドライアドの故郷の森。
 一度も離れた事のないその場所が、今俺達の視界から消えようとしている。
 外を眺めるレイラにそんな感傷があったのかは分からないが、自分の家が遠くに行ってしまうということはわかって欲しくて、俺はレイラの頭を撫でた。

「いつか帰ってこられるといいな。その時は、レイラのお母さんやお父さんと一緒に」

 俺の大切な人は戻って来なくとも。
 心の声は口には出さず。
 俺はレイラの髪の感触を楽しんだ。

 馬車はどんどん進んでいく。
 俺達が未だ見たことがない新天地へと。
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