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第一章 現れる不法侵入者
04 ご近所の噂話
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「ふぅ~。ようやく家の周りは綺麗になったかな」
多少強くなり始めた日差しの元、俺は草刈り機のスイッチを切ると、額に浮かんだ汗を首にかけていた手ぬぐいで拭うと周りを見渡す。
新居に引越してきてから1週間。チマチマと草刈りを続けてきたお陰でようやく家の周りと道路から玄関までの草は刈り終える事が出来た。
特に今日は会社が休みだから張り切って日が昇る前に起き出して、日が昇る頃から始めていたから一気に終わらせる事が出来て満足である。
これが今まで俺が住んでいた街だったならば、ちょうどこの時間帯に街が動き出すといった所だったろうが、この辺は農家が多いからか、それとも高齢者が多いからか分からないが、俺と同じくらいの時間には既に活動している人がいて驚いたものだ。
まあ、俺の場合はどうしてもまだ短い時間間隔で勝手に目が覚めてしまう部分があるのでついでのようなものだったのだが。
「お~随分綺麗になったなぁ」
そんな折、俺が硬くなった腰を伸ばして上を向いている時に聞き覚えのある声が聞こえて体を戻す。
すると、視線の先にいたのは散歩でもしていたのかお隣さん──と言っても200m以上離れているのだが──である千堂のおじさんが立っていた。
「あ、おはようございます。今日は仕事が休みなんで思い切ってやってしまいました」
「あー、若いもんは元気だなぁ。ほれ、俺なんてこうして暖気運転してからでねぇとまともに動けねぇもんでなぁ」
「はは……。俺も似たようなものですよ。前の仕事はメインがデスクワークだったので……」
俺は草刈り機を地面に置くと千堂さんに向かって歩く。
そんな俺に千堂さんは笑顔を向ける。
「そういやぁ都会から来たんだったか? なら、大変だろう。この辺りにゃあなぁんもねぇからなぁ」
「いえ。あっちにいた時も家と会社の往復だけだったので得には。寧ろ、こうして空いた時間で色々できるので今はすごく充実しています」
「……そっかぁ……」
俺の言葉に千堂さんは目を細めるとうんうんと頷いた。
まあ、単純な世間話だが、こうして近所の人とのコミュニケーションも大事だ。何よりも見知らぬ土地に来たはいいけどトラブルになりましたとか洒落にならない。
特に、家を買ってしまった後とか後悔してもしきれないし。
「まあ、若いもんが来てくれるぶんには大歓迎だからいいけどな。……おっと。そう言えば聞いときたい事があったんだよ」
「聞いときたい事……ですか?」
「おお」
首を傾げる俺に千堂さんは深刻そうな顔を向けると、俺に向かってちょいちょいと手で近くに来るようにとジェスチャーを示したので、俺も千堂さんに顔を寄せると、千堂さんは口元に右手を当てて声を潜めた。
「……兄ちゃんが引っ越してきてからもう1週間経ったか? その間……なんちゅうか……。……なんも無かったか?」
「……すみません。何を言っているのかわからないんですが……」
俺の反応に千堂さんは「あ~」と少しバツの悪そうな表情を浮かべたが、ここまで話した以上は最後まで話すべきだと思ったのだろう。
直ぐに先ほどの体勢に戻る。
「……あくまで噂なんだけどよ。何でもこの家……“出る”……って話でなぁ……」
「“出る”? それってもしかして、怪談的なあれですか?」
「噂だ。あくまでそう言う噂何だけどよぉ……。ここ最近はここに住む奴ぁいなかったからあまりそういう話も聞かんかったが、昔はここはひっきり無しに住人が変わってなぁ……。その度に居なくなる奴が口を揃えて言ってたのさ。『ここには化け物が住んでいる』……ってな」
「…………」
俺は千堂さんから視線を外し、背後を振り返って自宅を見上げる。
それは古い造りではあるものの、なんの変哲もない2階建て木造家屋だ。
特に怪談に使われるような雰囲気を漂わせているようにも見えない。
「まあ、これまでなんも無かったならいいんだ。ひょっとしたら誰かの悪戯だったって事もあるかもしれんしな。すまんな。変な話しちまって」
「いいえ。個人的には興味深かったですよ。まだ何かあるようならお願いします」
何だか申し訳なさそうに頭を掻いて謝る千堂さんに俺は笑顔で返す。
そんな俺を千堂さんは最初ポカンとした表情を浮かべたが、直ぐに大きな声で笑い声を上げると俺の肩を力強く叩いた。
「がはははは! こりゃー肝っ玉の座った兄ちゃんが来たもんだ。まあ、これからは隣どおし仲良くやろうや。今度は家族も紹介してやっからよ!」
「はい。是非」
「おうっ! じゃ、邪魔したな!」
笑いながら俺に手を振って立ち去る千堂さんに、俺も頭を下げて見送る。
やがてその背中が小さくなった頃に俺は家に向き直り全体を視界に収めた後、首に巻いていたタオルを引き抜き、右手で回す。
「……化け物ねぇ……。いるのかいないのかわからない存在よりも、俺は同じ人間の方がよっぽど怖いよ」
前の会社の事が思わず頭に浮かんで軽い頭痛を覚えたが、俺はそれを左右に振って紛らわせると、朝食を取るために家に向かう。
今日は朝食を食べたら商店街まで足を伸ばして買い物をしようと決めていた。
多少強くなり始めた日差しの元、俺は草刈り機のスイッチを切ると、額に浮かんだ汗を首にかけていた手ぬぐいで拭うと周りを見渡す。
新居に引越してきてから1週間。チマチマと草刈りを続けてきたお陰でようやく家の周りと道路から玄関までの草は刈り終える事が出来た。
特に今日は会社が休みだから張り切って日が昇る前に起き出して、日が昇る頃から始めていたから一気に終わらせる事が出来て満足である。
これが今まで俺が住んでいた街だったならば、ちょうどこの時間帯に街が動き出すといった所だったろうが、この辺は農家が多いからか、それとも高齢者が多いからか分からないが、俺と同じくらいの時間には既に活動している人がいて驚いたものだ。
まあ、俺の場合はどうしてもまだ短い時間間隔で勝手に目が覚めてしまう部分があるのでついでのようなものだったのだが。
「お~随分綺麗になったなぁ」
そんな折、俺が硬くなった腰を伸ばして上を向いている時に聞き覚えのある声が聞こえて体を戻す。
すると、視線の先にいたのは散歩でもしていたのかお隣さん──と言っても200m以上離れているのだが──である千堂のおじさんが立っていた。
「あ、おはようございます。今日は仕事が休みなんで思い切ってやってしまいました」
「あー、若いもんは元気だなぁ。ほれ、俺なんてこうして暖気運転してからでねぇとまともに動けねぇもんでなぁ」
「はは……。俺も似たようなものですよ。前の仕事はメインがデスクワークだったので……」
俺は草刈り機を地面に置くと千堂さんに向かって歩く。
そんな俺に千堂さんは笑顔を向ける。
「そういやぁ都会から来たんだったか? なら、大変だろう。この辺りにゃあなぁんもねぇからなぁ」
「いえ。あっちにいた時も家と会社の往復だけだったので得には。寧ろ、こうして空いた時間で色々できるので今はすごく充実しています」
「……そっかぁ……」
俺の言葉に千堂さんは目を細めるとうんうんと頷いた。
まあ、単純な世間話だが、こうして近所の人とのコミュニケーションも大事だ。何よりも見知らぬ土地に来たはいいけどトラブルになりましたとか洒落にならない。
特に、家を買ってしまった後とか後悔してもしきれないし。
「まあ、若いもんが来てくれるぶんには大歓迎だからいいけどな。……おっと。そう言えば聞いときたい事があったんだよ」
「聞いときたい事……ですか?」
「おお」
首を傾げる俺に千堂さんは深刻そうな顔を向けると、俺に向かってちょいちょいと手で近くに来るようにとジェスチャーを示したので、俺も千堂さんに顔を寄せると、千堂さんは口元に右手を当てて声を潜めた。
「……兄ちゃんが引っ越してきてからもう1週間経ったか? その間……なんちゅうか……。……なんも無かったか?」
「……すみません。何を言っているのかわからないんですが……」
俺の反応に千堂さんは「あ~」と少しバツの悪そうな表情を浮かべたが、ここまで話した以上は最後まで話すべきだと思ったのだろう。
直ぐに先ほどの体勢に戻る。
「……あくまで噂なんだけどよ。何でもこの家……“出る”……って話でなぁ……」
「“出る”? それってもしかして、怪談的なあれですか?」
「噂だ。あくまでそう言う噂何だけどよぉ……。ここ最近はここに住む奴ぁいなかったからあまりそういう話も聞かんかったが、昔はここはひっきり無しに住人が変わってなぁ……。その度に居なくなる奴が口を揃えて言ってたのさ。『ここには化け物が住んでいる』……ってな」
「…………」
俺は千堂さんから視線を外し、背後を振り返って自宅を見上げる。
それは古い造りではあるものの、なんの変哲もない2階建て木造家屋だ。
特に怪談に使われるような雰囲気を漂わせているようにも見えない。
「まあ、これまでなんも無かったならいいんだ。ひょっとしたら誰かの悪戯だったって事もあるかもしれんしな。すまんな。変な話しちまって」
「いいえ。個人的には興味深かったですよ。まだ何かあるようならお願いします」
何だか申し訳なさそうに頭を掻いて謝る千堂さんに俺は笑顔で返す。
そんな俺を千堂さんは最初ポカンとした表情を浮かべたが、直ぐに大きな声で笑い声を上げると俺の肩を力強く叩いた。
「がはははは! こりゃー肝っ玉の座った兄ちゃんが来たもんだ。まあ、これからは隣どおし仲良くやろうや。今度は家族も紹介してやっからよ!」
「はい。是非」
「おうっ! じゃ、邪魔したな!」
笑いながら俺に手を振って立ち去る千堂さんに、俺も頭を下げて見送る。
やがてその背中が小さくなった頃に俺は家に向き直り全体を視界に収めた後、首に巻いていたタオルを引き抜き、右手で回す。
「……化け物ねぇ……。いるのかいないのかわからない存在よりも、俺は同じ人間の方がよっぽど怖いよ」
前の会社の事が思わず頭に浮かんで軽い頭痛を覚えたが、俺はそれを左右に振って紛らわせると、朝食を取るために家に向かう。
今日は朝食を食べたら商店街まで足を伸ばして買い物をしようと決めていた。
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