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第一章 現れる不法侵入者
06 迷い猫はいずこ
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放心している場合じゃない。
俺は足を掠めていった感触に我に返ると、すぐさまキッチンから廊下に飛び出す。
すると、階段の横を走り抜けて行く白いお尻が一瞬見えた。
あの方向は裏口だ。
「外かっ!」
あのスピードで移動する相手に今からまともに追いかけていては間に合わないだろう。
俺はそう判断するとあえて反対方向に走ると玄関を開けて外に飛び出す。
外は周りに何も建物がないせいか暗闇に塗りつぶされていたが、月明かりが照らしているだけましだった。
俺はぐるりと周りに首を回すと白い猫娘の姿を探す。あの体の大きさだ。周りに何もないこのあたりを走っていれば直ぐに分かると思ったのだが、どうにも姿が見えなかった。
「クソっ! 素っ裸の小さな女の子が俺の家から飛び出した所を誰かに見られようものなら、俺が社会的に死んでしまう!」
勿論、それだけではない。
少なくとも見た目女の子に見える存在が素っ裸で外を走り回っているとか考えただけでゾッとする。
こいつぁ違う意味の恐怖体験だった。
俺は直ぐ様家の周りを回るようにして走るが、やはり猫娘の姿は見えない。
裏口は開けっ放しになっていたから、そこから外に出たのは確実だ。
だが、見える範囲にいないのは勿論、生え放題になっていた草が揺れて音を立てているということもない。
どれくらい走っただろう。
建物の周りからまだ刈っていない草の中、更には敷地の一番外側をぐるりと回ってみても幼女の姿は全く見えず。
最終的にもう一度建物の周りを回って、開け放たれた裏口にたどり着いた時にはすっかりくたびれ果てて座り込んでしまった。
「はあ……はあ……。どこ行ったんだあの子は……。それとも、やっぱりあの子は妖怪かなにかの類で、不思議な力で消えてしまったのかね」
それならそれで構わない。
勿論、食料が食べられてしまうのは多少は困るが、身体的に危害を加えられたわけではないわけだから。
ただ、問題はその妖怪が果たして彼女だけだろうか……という点であったが。
「化け物。化け物ねぇ……。あの子を化け物と呼ぶにはちょっと可愛らしすぎるんだよな」
白い体毛に小さな体。顔はお互いにびっくりしていたお陰でよく見ることが出来たが、可愛らしい顔をしていた。
多分女の子だとは思うが、大事な所が隠れていたから確証はない。
いや、見たかったわけではないけれど。
「……っつても、もういなくなったしな。野良猫みたいな感じでまた来る事もあるかもしれないけど、とりあえずは家の中に──」
──戻るか。
そう続けようとした俺の足が止まる。
何故か。
それは、俺の耳が明らかな異音を聞きつけたからだ。
「……離れ……?」
それはガタンと木箱を蹴っ飛ばしたような……いや、どちらかというと木箱に足を引っ掛けたような音。
俺は離れに関しては殆ど手をつけていないが、一応覗くだけは覗いた。
たしか、中にはいくつかの木箱と籠。それから朽ち果てたボロ切れが端にまとめて置かれていたように思う。
俺は自然と足音を殺しながら離れの扉に近づくと、ゆっくりと扉を開けた。
離れの中は暗かった。
でも、煤こけた窓から差し込む月の光が部屋の中を照らし、薄らとだが中の様子を確認する事くらいは出来るようだった。
中にあるのは以前見たとおり木箱が3つと籠2つが畳の上に投げ出されて折り、部屋の隅には布の塊。広さは四畳半の大して広くない空間。
俺は靴を脱ぐと畳の上に足を落とした。
すると、部屋の隅にあった布の塊が動き出し、白い頭がこちらを向いた。
ボロボロの布切れの上で丸くなっていたのだろう。お尻をこちらに向けて、尻尾を体に巻きつけるようにしていた。
俺が近づいたからだろう。顔をこちらに向けている為に両目が金色に輝いて暗闇に宝玉が浮いているようだった。
「……何だよ。鬼ごっこもかくれんぼもおしまいか?」
俺の言葉に反応もなく……もしかしたら理解すら出来ていないのかもしれないが、耳をピンと伸ばしてこちらを見ていた白い髪の幼女は、暫く俺を眺めた後に再び丸くなる。さっきまでの元気は何処へやら……だ。
俺は無言で丸くなっている女の子の傍まで近寄ると、腰を落として改めてその体を眺めた。
白いふさふさとした髪とその髪の中でペタンと倒した2つの耳。体は人間の少女そのままだが、お尻にはやはり白い毛に覆われた尻尾。その尻尾は今では女の子が抱きしめるようにしているから寒いのかもしれない。
当然だ。全裸なんだから。
「……なあ」
俺は声をかけつつ髪に手で触れる。
しかし、女の子は耳をゆらりと動かすだけでもう起き上がろうともしなかった。
本当は年端もいかない女の子の裸を無遠慮に見るなんてことは事案以外の何者でもないわけで、しない方がいいに決まっていた。
でも、闇に慣れ、月明かりで照らされた女の子の体についていた無数の細かい傷が、俺の目を逸らす事を出来なくさせていた。
「……はあ……」
ため息1つ。
「これなら化け物が出たほうが余程良かったよ」
俺はすっかり動かなくなってしまった女の子を抱き上げると、家に向かって歩き出した。
俺は足を掠めていった感触に我に返ると、すぐさまキッチンから廊下に飛び出す。
すると、階段の横を走り抜けて行く白いお尻が一瞬見えた。
あの方向は裏口だ。
「外かっ!」
あのスピードで移動する相手に今からまともに追いかけていては間に合わないだろう。
俺はそう判断するとあえて反対方向に走ると玄関を開けて外に飛び出す。
外は周りに何も建物がないせいか暗闇に塗りつぶされていたが、月明かりが照らしているだけましだった。
俺はぐるりと周りに首を回すと白い猫娘の姿を探す。あの体の大きさだ。周りに何もないこのあたりを走っていれば直ぐに分かると思ったのだが、どうにも姿が見えなかった。
「クソっ! 素っ裸の小さな女の子が俺の家から飛び出した所を誰かに見られようものなら、俺が社会的に死んでしまう!」
勿論、それだけではない。
少なくとも見た目女の子に見える存在が素っ裸で外を走り回っているとか考えただけでゾッとする。
こいつぁ違う意味の恐怖体験だった。
俺は直ぐ様家の周りを回るようにして走るが、やはり猫娘の姿は見えない。
裏口は開けっ放しになっていたから、そこから外に出たのは確実だ。
だが、見える範囲にいないのは勿論、生え放題になっていた草が揺れて音を立てているということもない。
どれくらい走っただろう。
建物の周りからまだ刈っていない草の中、更には敷地の一番外側をぐるりと回ってみても幼女の姿は全く見えず。
最終的にもう一度建物の周りを回って、開け放たれた裏口にたどり着いた時にはすっかりくたびれ果てて座り込んでしまった。
「はあ……はあ……。どこ行ったんだあの子は……。それとも、やっぱりあの子は妖怪かなにかの類で、不思議な力で消えてしまったのかね」
それならそれで構わない。
勿論、食料が食べられてしまうのは多少は困るが、身体的に危害を加えられたわけではないわけだから。
ただ、問題はその妖怪が果たして彼女だけだろうか……という点であったが。
「化け物。化け物ねぇ……。あの子を化け物と呼ぶにはちょっと可愛らしすぎるんだよな」
白い体毛に小さな体。顔はお互いにびっくりしていたお陰でよく見ることが出来たが、可愛らしい顔をしていた。
多分女の子だとは思うが、大事な所が隠れていたから確証はない。
いや、見たかったわけではないけれど。
「……っつても、もういなくなったしな。野良猫みたいな感じでまた来る事もあるかもしれないけど、とりあえずは家の中に──」
──戻るか。
そう続けようとした俺の足が止まる。
何故か。
それは、俺の耳が明らかな異音を聞きつけたからだ。
「……離れ……?」
それはガタンと木箱を蹴っ飛ばしたような……いや、どちらかというと木箱に足を引っ掛けたような音。
俺は離れに関しては殆ど手をつけていないが、一応覗くだけは覗いた。
たしか、中にはいくつかの木箱と籠。それから朽ち果てたボロ切れが端にまとめて置かれていたように思う。
俺は自然と足音を殺しながら離れの扉に近づくと、ゆっくりと扉を開けた。
離れの中は暗かった。
でも、煤こけた窓から差し込む月の光が部屋の中を照らし、薄らとだが中の様子を確認する事くらいは出来るようだった。
中にあるのは以前見たとおり木箱が3つと籠2つが畳の上に投げ出されて折り、部屋の隅には布の塊。広さは四畳半の大して広くない空間。
俺は靴を脱ぐと畳の上に足を落とした。
すると、部屋の隅にあった布の塊が動き出し、白い頭がこちらを向いた。
ボロボロの布切れの上で丸くなっていたのだろう。お尻をこちらに向けて、尻尾を体に巻きつけるようにしていた。
俺が近づいたからだろう。顔をこちらに向けている為に両目が金色に輝いて暗闇に宝玉が浮いているようだった。
「……何だよ。鬼ごっこもかくれんぼもおしまいか?」
俺の言葉に反応もなく……もしかしたら理解すら出来ていないのかもしれないが、耳をピンと伸ばしてこちらを見ていた白い髪の幼女は、暫く俺を眺めた後に再び丸くなる。さっきまでの元気は何処へやら……だ。
俺は無言で丸くなっている女の子の傍まで近寄ると、腰を落として改めてその体を眺めた。
白いふさふさとした髪とその髪の中でペタンと倒した2つの耳。体は人間の少女そのままだが、お尻にはやはり白い毛に覆われた尻尾。その尻尾は今では女の子が抱きしめるようにしているから寒いのかもしれない。
当然だ。全裸なんだから。
「……なあ」
俺は声をかけつつ髪に手で触れる。
しかし、女の子は耳をゆらりと動かすだけでもう起き上がろうともしなかった。
本当は年端もいかない女の子の裸を無遠慮に見るなんてことは事案以外の何者でもないわけで、しない方がいいに決まっていた。
でも、闇に慣れ、月明かりで照らされた女の子の体についていた無数の細かい傷が、俺の目を逸らす事を出来なくさせていた。
「……はあ……」
ため息1つ。
「これなら化け物が出たほうが余程良かったよ」
俺はすっかり動かなくなってしまった女の子を抱き上げると、家に向かって歩き出した。
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