御伽噺の片隅で

黒い乙さん

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第二章 何時から俺の家はコスプレ会場になったのか

01 その刃は全てを断ち切る

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「うむ……中々美味であった。どうやら貴殿は人質の扱いをよく心得ていると見える」

 食事を終え、口元をハンカチ? で拭いながら満足そうに口を開くコスプレ男に、俺はゲンナリとした気持ちにさせられる。

 ちなみに、出したのはバターを乗せたトーストとインスタントのコーンスープだ。一応もっとちゃんとした物もつくって出せなくもなかったのだが、無礼極まりないコスプレ野郎にこれ以上の待遇は無いと心に決めた。
 ちなみにこのコスプレ野郎、何処ぞのいい所のお坊ちゃんなのか、トーストを綺麗にフォークとナイフで切り分けて食べていた。
 手掴みでガリガリやっていた俺が逆に恥ずかしくなるレベルだったよ。

「人質ねぇ……。先ずはそこん所のすり合わせをしたいんだけどいいか?」
「はて? すり合わせとな?」
「そう。すり合わせ」

 俺はテーブルの上を軽く拭くと、空になったコーヒーカップに新しく紅茶を注いでやる。
 コスプレ野郎は礼を言うと一口含んでから息を吐いた。

「まずは自己紹介だな。無礼とかなんとか言って俺に名乗らせておいて、お前自分の名前すら言ってないぞ」
「おお。そう言えば」

 コーヒーカップをソーサーに戻し、今思い出したとばかりにコスプレ野郎。

「大変失礼した。私はガルマール王国所属騎士にして、ソニア様専属守護騎士団、通称プリンセスガード第3部隊隊長カリス・ガーライルという。この度はとある極秘任務遂行中に濃霧に視界を奪われ、気がついたらこの場所にいた。てっきり私は貴殿の魔術により囚われたのだと思ったのだが……」

 「違うのか?」と、続けてきたコスプレ野郎改めカリスの言葉に俺は頭を抱える。
 極秘任務とか魔術とか。そもそもなんちゃら王国とかプリンセスガードとか……。もうお腹いっぱいだよ!!

「……まあ、そういう妄想は取り敢えず横に置いておいて……」
「待て。妄想だと? これは妄想ではなく現実だ。横に置いておいてもらっては困る」

 正面から脇へとずらした俺の両手を、カリスは態々掴んで元の正面に戻す。
 その行為に俺は社畜時代のキレやすさが復活したかのような気分を味わったが、唇を噛み切って必死に耐えた。

「お前なぁ……。見た感じ俺と同じか少し年下くらいだろ? そういうのはな。確かに誰もが通る道だとは思うよ。でも、大概大人になるにつれて卒業していくもんなんだよ。【黒歴史】ってやつ? お前今はいいけどさ。きっと後で後悔するぞ」
「何を後悔するのかは知らんが、ここで戻れなければ確実に後悔するだろう。なにやら貴殿は私の為に何かを諭そうとしているのは何となくわかる。しかし、これは本当に冗談でもなんでもないのだ。今この場で詳しい話が出来ないのが口惜しいのだが、どうか信じて送り出してほしい」

 信じろっていうのか。この妄想を……!

「……わかった。取り敢えずどちらかが歩み寄らなければ話が進まないって事が。俺も大人だし、その病が完治して随分立つし、一歩だけ歩み寄ってやる。一歩だけな」

 取り敢えず深呼吸をした後に温くなった紅茶に口をつける。
 これで少しは落ち着いてくれればいいのだが。

「で? 任務中に霧に囲まれて気がついたらここにいたんだっけ? 俺としては鍵が掛かっていたハズのこの家の中にいた事で既にビックリなんだけど、霧が晴れたら家の中だったのかな?」
「いや、最初は外に居た。しかし、あたりを歩いてみても変な壁の向こうには行けなかったのだ。恐らく結界の類だと思う。あまり広くない範囲を強固な結界で囲っているようだったのでな。どこかにこの結界を張った魔術師がいるだろうと近くの建物の扉を破壊し侵入したところ──」
「はいストップ」

 俺の静止の声にカリスは会話をやめて俺を見る。
 うん。素直な奴は好きだよ。

「お前今なんて言った? 扉を破壊・・・・? 玄関は異常がなかったからひょっとして裏口かな? 何? 裏口破壊しちゃったの? え、壊しちゃったの? ひょっとしてその剣で切っちゃったの? あれ? 俺聞き間違った? 聞き間違っちゃったかな? そうだな。きっとそうだよね。じゃあ、もう一度聞いてみようか。さあ、カリス。もう一度言ってみようか。建物の。扉を。どうしたって?」
「イ、イバラキ殿?」
「ホラ。モウ一度言イイナサイヨ。言えって言ってんだよコスプレ野郎! ええいもういい! 自分の目で見てくるわ!」
 
 なにやら後方で静止の声が掛かるが関係ない。
 俺はリビングを飛び出すと廊下を走る。
 扉を破壊? 
 嘘だろ?
 冗談じゃない。
 この家は古くて、まだまだ直さないといけない場所は多いのだ。
 だからこそ、支出を少しでも減らすために、後に回せるものは出来るだけ後に回したかったのだ。
 裏口などその典型だ。誰も殆ど目にしない裏口。
 鍵が付いていて扉の体をなしていればそれだけで良かった。
 それが壊れるとか本当に──。

「──ホントに勘弁してくれよぉーーーーーー!!」

 俺の目の前にあったのはバッサリと袈裟懸けにされたかつて扉だった板切れ。
 非常に見通しの良くなった裏口は、その先にある離れの建物までよく見えて、辛うじて柱に残った板切れが、風に吹かれてキイキイと切ない悲鳴をあげていた。


 
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