御伽噺の片隅で

黒い乙さん

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第二章 何時から俺の家はコスプレ会場になったのか

02 騎士の言い訳と一枚の金貨

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「正座」

 リビングに戻った俺が最初に口にしたのはそれだった。
 そして、その言葉を向けられた青い髪のイケメンコスプレ男は、最初その言葉をかけられたのが自分だと気がつかなかったらしい。
 最初に俺の顔を綺麗な青い瞳を向けた後、あろう事か自分の後ろを振り返った。

「誰もいねーよ! この状況で俺達以外の客が他にいるとでも!? さっきまで2人だけで飯食ってたじゃねーか!」
「いや。失礼だがなにやら貴殿が腹を立てているようだったのでな。私は貴殿を怒らせるような事をした覚えが無い故、ほかに誰かが居るのかと……」
「よーしわかった。俺とお前の常識がこれでもかって位違うって事がな。取り敢えずお前座布団から降りろ。直に座れ直に。今から説教してやっから」

 俺の言葉に渋々といった様子で座布団から下りて正座するカリス。
 そのピシッと背筋を伸ばした姿は、どこか高貴な人間であるようで、元がイケメンだけに異様に様になっている。
 どうしてこいつはこう……何をやらせても絵になるんだよ。

「良し。じゃあ一つ一つ聞いていこうか。まず一つ目。どうしてドアを破壊した?」
 
 俺の問いにカリスは何故か頭に大きなクエスチョンマークを浮かべたような表情を作る。
 マジでムカつく。封印した社畜時代の修羅が目覚めそうだ。

「何故ドアを壊したか? そのような事。『開かなかったから』以外の理由があるのか?」

 ピキッと額の血管が浮き上がるのが自分でわかる。

「……成る程。開かないなら壊せばいーじゃん! って事ですか。ちなみに、どうしてドアが開かなかったと思う?」
「? これまた妙な質問だな。その様な事。鍵が掛かっていたからではないのか?」

 口の中に血の味が広がる。
 不思議に思って舌で出血源を探ってみたら、どうたら唇を思い切り噛み付いていたらしい。
 これは数日中に口内炎になるかもしれないな。

「……最後の質問だ。お前さんの家ではドアには鍵は掛けない派なの? で、人の家に訪ねた時に鍵が掛かっていたらぶっ壊して入るんだ?」
「またしても奇妙な事を。屋敷のドアには鍵をかけるのは当然であろう? 何の為に鍵が付いていると思っているのだ。他人の家に尋ねる時も当然、礼節を忘れてはならない。施錠の確認の前に先ずは在宅を確認し──」
「おどれは! 一度自分の胸に手を当てて今の状況と照らし合わせて見ろよ!?」

 右足で床を強く叩き、魂からの叫びをひねり出す俺の様子にようやく事の次第を認識したのか、カリスは一度、二度と瞼をパチパチと瞬かせると、胸に右手を当てて瞳を閉じる。

 ややあって。

 スッと瞳を上げたカリスは神妙な表情を俺に向けた。

「イバラキ殿。どうやら私はとても無礼で、失礼な言動を貴殿に行ってきてしまったようだ」
「そうか。わかってくれたか」
「うむ」

 カリスは殊勝に頷く。何故か吐かれた言葉は偉そうだったが。

「まさかこのようなボロ小屋が貴殿の家だと思わなかったのだ。もしも分かっていたら先ずは在宅を確認し──」
「お前は本当に無礼とか失礼とか口にしちゃいけない人ですよねっ!」

 俺の言葉をカリスは本気で不思議に思ったらしい。
 キョトンした顔を向けると、無垢な子供のような口調で問いかけてくる。

「口にしてはいけなかったか?」
「そうだね。少なくとも俺に対してはそうだね。でももーいーや。すごく疲れたし面倒くさい。これ以上口論していたら俺の中の修羅が目覚めてしまうしね」

 俺はそう言うと座り込み、カリスにも足を崩していいと声をかける。
 カリスは俺の言葉で説教が終わったと確信したのか、座布団の上に移動するとその上で正座した。

「はあ。それにしたって裏口もあのままじゃまずいよなぁ……。少なくとも応急処置くらいはしないと防犯の観点からしてもザルになっちまう」
「確かに、この家が住居であるならば当然の心配であるな。いや、本当に申し訳なかった。まさかこのような……いや、それは問題ではないな。どのような建物であろうと人が住んでいればそれは住居であった。ならば相応の対価は払わなければならないな」

 カリスの発言の途中で俺の眼光が鋭さを増したから……という訳ではないだろうが、一度言いかけた言葉を撤回し、カリスは胸元をなにやらまさぐりだした。
 まさか、わびは体でする……とか言い出さないよな? もう十年以上ご無沙汰の状態で、久しぶりの相手が男とか嫌だぞ。

「これを。少ないだろうが受け取って欲しい」

 だが、俺の心配を他所にカリスがテーブルの上に置いたのは何やら金色の硬貨のようなものだった。
 見た目で一番近いのは、何かのイベントの記念金貨だろうか。

「何だよこれは?」
「何だも何も金貨であろう。まさか見た事が無いとでも?」
「いやー……」

 俺はテーブルの上に置かれていた金貨を手に取ってじっくりと眺めて見る。
 金貨。
 確かに金に見えなくもないそれは、何やら見た事がない女性の肖像が刻印されており、反対側にはこれまた見た事のない花のようなデザインが刻印されている。
 少なくとも俺は見た事のない金貨だった。

「俺も全部の金貨を記憶しているわけじゃないけど、これは見た事ない金貨だなぁ……。これって何の記念金貨なの?」
「記念金貨? 貴殿こそ何を言っているのだ? その金貨は我がガルマール王国が発行している正式な通貨ではないか。それとも、貴殿が所属している国はガルマール金貨は使用していないのか? たしか、世界に出回っている金貨はガルマール金貨とフランシップ金貨の二種類だけだった筈だが」

 そこまで聞いて、俺はようやく目の前のイケメンとの話の食い違いに現実味を見出す。
 もしもこれが本物の金貨なら、ここまで準備するとか相当なガチ勢じゃないか?
 しかし、俺の目から見ても隙だらけのこの男にそこまでのものを見いだせない。
 
 ──もしも、この男が先日現れた猫娘と似たような存在なのだとしたら?

 その疑問が俺の中に現れた時に、俺の体に匂いを擦りつけていた猫娘と、姿勢正しくこちらを真っ直ぐに見つめてくる騎士風の男の姿が妙に被った。

「……なあ」

 だから俺は口を開く。
 それは先週、確かに心の奥底にしまった筈の疑問の一つ。

「お前さんのいた国に、猫の姿をした人間はいるか? 白い髪に耳と尻尾が付いている奴だ」
「猫の人間? もしや猫人族びょうじんぞくの事か? 確かにいるが、滅多に人里には姿を現さないぞ? 体毛も多種多様であるしな」

 俺の問いにあっさり肯定してみせた騎士風の男の言葉に、俺は頭の中のパズルのピースがカチリとハマった音を聞いた気がした。
 あの時の女の子が、もしもこの男と同じ場所から来たのだとしたら──。

「……なあ」

 だから、俺はもう一度声をかける。
 ただし、今度は先程よりも確信に満ちた声で。

「多分、ここはお前のいた国とは別の国だ。いや、国どころじゃない」

 そう。
 それはきっと俺が随分前に捨ててしまった【黒歴史】。
 さりとて、この場では口しても決して恥ずかしくなるようなものでもないある意味での真実。

「──きっと、ここはお前達がいた【世界】とは別の【世界】だよ」

 そんな俺の妄想じみた言葉に、当のカリスはまるで御伽噺を聞いた直後の子供の様に、不思議そうな表情で目を瞬かせた。
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