御伽噺の片隅で

黒い乙さん

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第三章 はた迷惑な居候

01 厄介事はいつも休日にやってくる

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 さて、今回の千堂家主催バーベキューパーティーに俺が参加している理由だが、以前から千堂さんに話だけは貰っていた家族の紹介イベントである。
 今までは片付けとか準備とかで忙しいからと断っていたのだが、先週裏口を修理して貰った際に改めて誘われ、お世話になった手前無碍に断れず今に至るというわけである。
 別に家族の紹介という点だけならばバーベキューパーティーなどしなくても良かったのだが、翠のアホが俺の食事事情を家族にバラしてしまったらしく、今回の運びとなったわけだ。

 そんなバーベキューパーティーもお昼をだいぶ過ぎた頃には自然と収束し、真奈美ちゃんにせがまれてお絵かきやお話等をしている内に薄暗くなり、ようやくお開きとなった。
 本来ならばもっと早くにさっさと帰りたかったのだが、小さな女の子から「えーやだぁ」等と言われてしまうとじゃあ帰りますとも言えず。
 その真奈美ちゃんが元気が無くなり、船を漕ぎ出した所でようやく切り出せたというわけだった。

「それじゃあ。今日はごちそうさまでした」
「いいのよ。またいつでもいらっしゃいな。あ、これ余り物で悪いんだけど……」
「いえ。ありがとうございます。助かります」

 明美夫人からパックに入れてもらった焼きそばを受け取りながら頭を下げる。
 正直ありがたい。これで明日の朝は何もしなくて済む。仕事の日は少しでも長く寝たいしな……。

「それじゃあお母さん。私悠斗さんを送ってくるねぇ?」

 そんなやりとりをしていた俺たちを尻目に、マイペースな翠が靴を履きながらそんな事をほざく。

「いらん」

 俺の素直な気持ちをストレートに表現しただけだったのだが、翠はお気に召さなかったらしい。不機嫌そうな表情で俺をジッと見つめてきた。

「いくら何でも即答は酷いと思うの。もうすぐ暗くなるし、お隣って言っても遠いから心配しただけなのにぃ」
「立場が逆なんだよ。俺を送った後でお前は一人で帰るのか? それとも俺がもう一度送るか? 少しは物を考えろ馬鹿」
「馬鹿じゃない。この辺の道は私にとって庭みたいなものだしぃ? 一人でもちゃんと帰れますぅ」
「じゃあ言い方を変えよう。お前が来るとロクな事になりそうもないからいらん」
「もっと酷い。私はただ心配しただけで──」
「こらこらこら」

 何故か食って掛かってくる翠に俺が拒否の気持ちを伝えていると、流石に言いすぎたのか明美夫人が仲裁してきた。

「こんな所で喧嘩するんじゃありません。真奈美が起きたらどうするの。悠斗君も、折角翠がこう言ってくれてるんだから好意に甘えなさいな。珍しいのよ? 普段ものぐさなこの子がこんな事言うのは。翠も。悠斗君に迷惑かけるんじゃないよ?」
「はぁい」

 ……仲裁どころかまさかの翠支持だった。
 今の流れでどうして二人で帰れという結論になるのか甚だ疑問ではあったが、ここまで言われて押し切る理由が俺には無かった。

「……まあ、そう言うなら。では、お邪魔しました」
「いってきまぁす」
「はいはい。いってらっしゃい。悠斗君もまたいつでもいらしてね?」

 お互い挨拶を交わして外に出る。
 外に出るとまだ多少は陽の光は残ってはいたものの、当初帰ろうとしていた時に比べれば随分と暗くなってしまっていた。
 それもこれも全部帰り際にゴチャゴチャ言い出した翠のせいだ。

「まったく、疲れたな。お前が妙な事を言わなければもっとスマートに帰れたのに」
 
 やれやれと言いながら歩き出した俺の隣で、翠は笑いながらも空を見る。

「別にいいでしょ? これでも親孝行したつもりなのよ」
「親孝行? 何で俺を送る事が親孝行になるんだよ」

 俺の疑問に翠は視線を落とすと足元の石を軽く蹴る。
 翠に蹴られた石は乾いた音を立てながら前方に転がり、やがて闇の中に消える。

「真奈美はあの二人にとって初孫だからね。『ちゃんと躾ける』なぁんて言いながらも可愛くて仕方ないの。で、思い切り孫を可愛がるのに出来の悪い娘は邪魔なのよ。悠斗さんの見送りにお父さん来なかったでしょ?」

 さっきの状況を思い出し、俺もそう言えばと考える。
 普段やたらと友好的に接してくる千堂さんにしては珍しかった。

「真奈美寝ちゃったからねぇ。そのお世話だけは譲らないんだぁ。お父さんは。今頃寝てる真奈美の頭撫でながらニッコニコだよ。絶対」

 そう言って笑う翠だったが、その声にいつもの元気は無い。
 ひょっとしたら、翠自身あの場から逃げたくて俺についてきたのかもしれない。

「……別にお前が邪魔とまでは思ってないだろ」
「いーよ。慰めてくれなくても。そういうのは悠斗さんらしくない」

 俺としても思わず口をついてしまった言葉だったが、それを否定されてムッとする。
 だが、翠の言う事にも一理あった。

「確かにな。俺は相手の事なんか何一つ考えられないパワハラ野郎だったわ」
「何言っているのか分かんないけど、多分私の言っている意味と違うと思う」

 そんな事を言っている間に家につく。
 結構離れていると言っても隣の家だ。流石に長々話しているほどの距離は無い。

「じゃあな。世話になった」
「何、その今生の別れみたいなセリフ」

 俺の言葉に翠がクスクスと笑う。
 だが、ここでまでごねるつもりは無いようだ。
 そういう意味でも、あの場からちょっとだけ離れたかっただけなのかもしれない。

「少しは気が晴れたのか」
「意味わかんないけど、気分転換にはなったかなぁ?」

 首をかしげながらもニコニコしている翠に手を振る。
 気分転換になったのなら、それで十分だと思ったからだ。

「じゃあな」
「うん。またねぇ」

 俺の別れの挨拶に翠もいつもどおりの返事を返すと、手を振りながら帰路につく。
 もっとも、その歩みがいつもよりも遅いのは時間つぶしの意味合いもあるのだろう。
 
「……やれやれ。家族であってもアレなのかよ。まあ、断絶状態の俺の言うべきことじゃないけどな」

 一人呟き、俺は門を開けると家に向かう。
 すると、歩きながら俺は少しの違和感に気がついた。

「……何だ?」

 それは場所的にはリビングだった。
 電気が付いているという訳では無い。
 ないのだが、部屋の中央がぼんやりと光っているように見えたのだ。

「……まさか……泥棒か?」

 あれがライトの明かりならありえるかも知れない。
 俺は足音を忍ばせて玄関に近づくと、極力音を立てないように開錠して戸を開く。
 たまたま昨日サビ取りと油をさしていたおかげか、それほど大きな音を立てるまでもなく戸が開いてホッとする。

 だが、中に入ってみるとリビングの明かりはもはや疑いようがない。
 ぼんやりと辺りを照らしている光に向かって俺は進むと、柱に手を置いてソっと中を覗き込む。
 そこにいたのは──

「……やっと帰ってきた。ごめん。もうこれ以上はしんどいからあとよろしく……」

 ──白い髪の毛に同色の猫耳と尻尾。
 元は俺の物だったトレーナーを真っ赤に染めて、ぐったりと壁に寄りかかっているのは10代後半くらいに見える猫耳少女。
 そして、その足元にはやはり服を血で汚した10代中盤位の金髪少女が横たわっていた──
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