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第四章 新生活は足りないものが多すぎる
01 プライベートの無い素敵な空間
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「大体、どうして突然そんな話が出るんだよ。お前があの部屋に居座ってからもう4日だぞ? 文句があるならもっと早く言えよ」
何も休日の朝にいうべき案件でもないだろう。
そう思って不満を口にした俺に対して、目の前の金髪は眉を逆ハの字にすると目を吊り上げた。
「言うたわ! それはもう初日の朝からお主の顔を見るたび言うた! その時にお主は何と言ったか覚えておらぬのか!?」
「は? 何だよそれ初耳なんだけど。ちなみになんて言ったんだよ」
「『眠い。帰ってきてからにしろよ』、『疲れた。今日はやめろ』、『眠い。朝っぱらから騒ぐな』、『疲れた。寄るなクソガキ』、『眠い。文句があるなら休日に言え』、『疲れた。キンキン声を出すんじゃねぇ』。じゃ!!」
「怖ぇな。全部一言一句覚えてるのかよ」
「全てを忘れているお主の方が怖いわ!?」
言われてみれば薄ら聞いたような記憶があった。
特に朝の記憶が薄いからこれは眠かったからしょうがないとして、帰ってからは……そうだ。確か、帰ってきて早々に俺の周りをウロチョロしながらキャンキャン騒ぐから、軽く蹴飛ばしながらリビングに蹴り入れ続けたっけ。
「ああ。確かに言われてみれば聞いたかもしれないな。けど、全部お前の行動が悪くね?」
「何故じゃ!? 朝言えば『帰ってからにしろ』と言われ、帰ってきてから言うたら蹴っ飛ばされただけじゃぞ!? なんぞ!? この理不尽!!」
「そうは言われてもな。眠い時とか疲れてる時ってお前のキンキン声なんかイラっとすんだよね」
「聞きとうなかった!! そんな理由!!」
頭を抱え、テーブルに突っ伏した金髪の様子を見ていた俺に、隣で飯を掻き込んでいたリリも茶碗をテーブルに置くと、俺を見上げてくる。
「確かに、旦那様って起きてから1時間は機嫌悪いもんね。今日は出かけてないから穏やかだけど。でも、いつもは機嫌悪いまま出かけてるよね? ダイジョブなの?」
「問題ない。大体は車の中で眠気が覚めるからな。それよりリリ。何だよその顔は。口の周りが米粒だらけだぞ」
「それっ! それじゃ!!」
どれだよ?
ティッシュを使ってリリの口の周りの米粒を取ってやっていた俺と、目を瞑ってされるがままになっていたリリがほぼ同時に金髪に目を向ける。
「こうして妾が一生懸命訴えかけておるのというのに、隙あればベタベタベタベタと……。直ぐに2人の世界に入り込みおって! 妾がいるのに! 目の前で妾が見ておるのに!」
こいつは一体何を言っているんだ?
俺達は一度顔を見合わせた後に再度金髪に目を向ける。
今日の金髪が着ているのは初めてこの家に来た時に着せてやったジャージだ。何度も言うが、俺が高校の頃に着ていた物で、この家で一番粗末な服だ。
勿論、あの時の汚れは洗ってあるので綺麗にはなっているが、特に強要しているわけでもないのにあれをチョイスするとかひょっとして気に入ったのか?
次に顔を見る。
100均で買ったシャンプーとリンスしか与えていないはずだが何故か陽の光を浴びてキラキラと輝いているように見える長い金髪に、白磁のような白い肌に真っ赤な瞳が宝玉のように映えて見える。非常に不本意だが、容姿に限って見るならば間違いなく満点に近いだろう。将来は恐らくとんでもない美人になると思われる。
……さっき突っ伏した時に付いたとおもしきソースが、口の周りと頬っぺたにベッタリと付いていなければ。
「……ああ。ようするにあれか。本当は自分も構って欲しいのに、構ってもらえないから拗ねてるのか。でもごめんな? お前っていつも俺から離れて座ってるから顔が汚れていても拭いてやれないんだよ。リリ。悪いけどあいつの顔の汚れ拭いてやってくれる?」
「その魔女の方が妾から遠い位置に座っておろうが!? 違う! そうでは無い! 妾が言いたいのは!」
俺の言葉に何故か激高し、乱暴に口の周りをティッシュで拭き取り、床に放り投げて金髪は叫ぶ。
だが、その行動に俺は自らの頬が引きつったのを感じた。
「おいこら金髪」
「何じゃ!!」
俺が話しかけると何故か嬉しそうに体をこちらに向けてくる金髪から目を離すと、俺はさっき金髪が放り投げたティッシュを指差す。
「ゴミはゴミ箱に捨てろと教えただろう。お前の頭はどうしてそうお花畑なんだ」
「うがぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
金髪は一頻り叫ぶとティッシュを拾い、態々走って一番遠いゴミ箱まで行くとその中に叩きつけるようにティッシュを投下して再びダッシュで戻ってくる。
ただ、戻ってきたのは俺の目の前で、息を荒げながら俺の右手を掴んできたが。
「そうやって話を逸らして誤魔化すでないわ! 部屋を! 交換してくれと言っておる!」
「ここで最初に戻るのかよ。わかった。2階にはもう一部屋あるから両方お前が使っていいよ」
ったく。しょうがねぇな。
どこまでも我が儘な金髪の行動に溜息を吐きつつ譲歩したはずなのに、金髪は体重を後ろに掛けて俺を強引に立ち上がらせると、キッと睨みつけてきた。
「違う! 別にあの部屋が狭くて文句を言っているわけではな無い! いや! 確かに狭いが! 使わせてくれるというのなら遠慮なく使わせて貰うがそうではない!」
「広さじゃない? だったら何だよ?」
「じゃから──」
「ちょっと姫様」
お互い立ち上がり、唾をこっちに吐きかけながら熱弁を振るっていた金髪に、いつの間に近寄ってきたのかリリが繋がれた状態の俺と金髪の手に自分の手を乗せて困惑した表情を見せた。
「流石に人の旦那様を妻が見ている前で気安く触るのは良くないと思うよ?」
「何の話じゃ!? 頼まれてもいらんわ! こんな男なぞ!」
カッと顔を紅潮させて俺達の手を振り払う金髪。
そんな金髪に向かってサムズアップしながら俺も同意する。
「珍しく気が合うな。俺もお前だけは無理だ」
「何故妾がここまで言われねばならんのじゃ!? 自慢ではないが今まで妾をここまで扱き下ろした男なぞ──ええい! 問題はそこではない! いい加減話を逸らすな!!」
狂ったように地団駄を踏み、荒ぶる金髪だったが多少は気は晴れたのか、少しすると顔を上げて大きな声で理由を告げた。
「プライベートがないのじゃ! あの部屋には!」
その言葉に俺とリリはお互い顔を見合わせると、申し合わせたかのように同時に首を傾げるしかなかった。
何も休日の朝にいうべき案件でもないだろう。
そう思って不満を口にした俺に対して、目の前の金髪は眉を逆ハの字にすると目を吊り上げた。
「言うたわ! それはもう初日の朝からお主の顔を見るたび言うた! その時にお主は何と言ったか覚えておらぬのか!?」
「は? 何だよそれ初耳なんだけど。ちなみになんて言ったんだよ」
「『眠い。帰ってきてからにしろよ』、『疲れた。今日はやめろ』、『眠い。朝っぱらから騒ぐな』、『疲れた。寄るなクソガキ』、『眠い。文句があるなら休日に言え』、『疲れた。キンキン声を出すんじゃねぇ』。じゃ!!」
「怖ぇな。全部一言一句覚えてるのかよ」
「全てを忘れているお主の方が怖いわ!?」
言われてみれば薄ら聞いたような記憶があった。
特に朝の記憶が薄いからこれは眠かったからしょうがないとして、帰ってからは……そうだ。確か、帰ってきて早々に俺の周りをウロチョロしながらキャンキャン騒ぐから、軽く蹴飛ばしながらリビングに蹴り入れ続けたっけ。
「ああ。確かに言われてみれば聞いたかもしれないな。けど、全部お前の行動が悪くね?」
「何故じゃ!? 朝言えば『帰ってからにしろ』と言われ、帰ってきてから言うたら蹴っ飛ばされただけじゃぞ!? なんぞ!? この理不尽!!」
「そうは言われてもな。眠い時とか疲れてる時ってお前のキンキン声なんかイラっとすんだよね」
「聞きとうなかった!! そんな理由!!」
頭を抱え、テーブルに突っ伏した金髪の様子を見ていた俺に、隣で飯を掻き込んでいたリリも茶碗をテーブルに置くと、俺を見上げてくる。
「確かに、旦那様って起きてから1時間は機嫌悪いもんね。今日は出かけてないから穏やかだけど。でも、いつもは機嫌悪いまま出かけてるよね? ダイジョブなの?」
「問題ない。大体は車の中で眠気が覚めるからな。それよりリリ。何だよその顔は。口の周りが米粒だらけだぞ」
「それっ! それじゃ!!」
どれだよ?
ティッシュを使ってリリの口の周りの米粒を取ってやっていた俺と、目を瞑ってされるがままになっていたリリがほぼ同時に金髪に目を向ける。
「こうして妾が一生懸命訴えかけておるのというのに、隙あればベタベタベタベタと……。直ぐに2人の世界に入り込みおって! 妾がいるのに! 目の前で妾が見ておるのに!」
こいつは一体何を言っているんだ?
俺達は一度顔を見合わせた後に再度金髪に目を向ける。
今日の金髪が着ているのは初めてこの家に来た時に着せてやったジャージだ。何度も言うが、俺が高校の頃に着ていた物で、この家で一番粗末な服だ。
勿論、あの時の汚れは洗ってあるので綺麗にはなっているが、特に強要しているわけでもないのにあれをチョイスするとかひょっとして気に入ったのか?
次に顔を見る。
100均で買ったシャンプーとリンスしか与えていないはずだが何故か陽の光を浴びてキラキラと輝いているように見える長い金髪に、白磁のような白い肌に真っ赤な瞳が宝玉のように映えて見える。非常に不本意だが、容姿に限って見るならば間違いなく満点に近いだろう。将来は恐らくとんでもない美人になると思われる。
……さっき突っ伏した時に付いたとおもしきソースが、口の周りと頬っぺたにベッタリと付いていなければ。
「……ああ。ようするにあれか。本当は自分も構って欲しいのに、構ってもらえないから拗ねてるのか。でもごめんな? お前っていつも俺から離れて座ってるから顔が汚れていても拭いてやれないんだよ。リリ。悪いけどあいつの顔の汚れ拭いてやってくれる?」
「その魔女の方が妾から遠い位置に座っておろうが!? 違う! そうでは無い! 妾が言いたいのは!」
俺の言葉に何故か激高し、乱暴に口の周りをティッシュで拭き取り、床に放り投げて金髪は叫ぶ。
だが、その行動に俺は自らの頬が引きつったのを感じた。
「おいこら金髪」
「何じゃ!!」
俺が話しかけると何故か嬉しそうに体をこちらに向けてくる金髪から目を離すと、俺はさっき金髪が放り投げたティッシュを指差す。
「ゴミはゴミ箱に捨てろと教えただろう。お前の頭はどうしてそうお花畑なんだ」
「うがぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
金髪は一頻り叫ぶとティッシュを拾い、態々走って一番遠いゴミ箱まで行くとその中に叩きつけるようにティッシュを投下して再びダッシュで戻ってくる。
ただ、戻ってきたのは俺の目の前で、息を荒げながら俺の右手を掴んできたが。
「そうやって話を逸らして誤魔化すでないわ! 部屋を! 交換してくれと言っておる!」
「ここで最初に戻るのかよ。わかった。2階にはもう一部屋あるから両方お前が使っていいよ」
ったく。しょうがねぇな。
どこまでも我が儘な金髪の行動に溜息を吐きつつ譲歩したはずなのに、金髪は体重を後ろに掛けて俺を強引に立ち上がらせると、キッと睨みつけてきた。
「違う! 別にあの部屋が狭くて文句を言っているわけではな無い! いや! 確かに狭いが! 使わせてくれるというのなら遠慮なく使わせて貰うがそうではない!」
「広さじゃない? だったら何だよ?」
「じゃから──」
「ちょっと姫様」
お互い立ち上がり、唾をこっちに吐きかけながら熱弁を振るっていた金髪に、いつの間に近寄ってきたのかリリが繋がれた状態の俺と金髪の手に自分の手を乗せて困惑した表情を見せた。
「流石に人の旦那様を妻が見ている前で気安く触るのは良くないと思うよ?」
「何の話じゃ!? 頼まれてもいらんわ! こんな男なぞ!」
カッと顔を紅潮させて俺達の手を振り払う金髪。
そんな金髪に向かってサムズアップしながら俺も同意する。
「珍しく気が合うな。俺もお前だけは無理だ」
「何故妾がここまで言われねばならんのじゃ!? 自慢ではないが今まで妾をここまで扱き下ろした男なぞ──ええい! 問題はそこではない! いい加減話を逸らすな!!」
狂ったように地団駄を踏み、荒ぶる金髪だったが多少は気は晴れたのか、少しすると顔を上げて大きな声で理由を告げた。
「プライベートがないのじゃ! あの部屋には!」
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