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第四章 新生活は足りないものが多すぎる
04 新たな購入手段
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「所で、今日はそもそも何をする予定だったんだっけ?」
リビングに戻り、二人でお茶を啜りながら人心地着いた頃に尋ねてきたリリの言葉に、俺は湯呑をテーブルに戻す。
「まあ……買い物だよな。メインはお前らの服とか下着とか……なんだけど、どうにも踏ん切りつかなくてなあ」
俺の言葉にリリも昨夜寝る前に話した事を思い出したのか「ああー」と漏らす。
ちなみに、リリと二人でこうして話をするのは珍しいことではなく、特に寝る前は一日にあった事とか明日の予定とかを話す事が多い。
「確か、旦那様が一人で女性服を買いに行くのが恥ずかしいって話だっけ? それなら私も一緒に行けば解決じゃないの?」
「普通に考えればそうなんだが」
俺は腕を組むと目を瞑る。
「翠の件もあるし、やっぱりまだお前らを近所の人に見せるのはまずいような気がするんだよな。俺はまだこの辺じゃ新参だし、一人暮らしだってのは周知の事実だし。その状況でいきなり嫁を連れて来るってのは不自然ではないかと」
「……旦那様って歳幾つだっけ?」
「32だが?」
「全然不自然じゃないよ? それ」
カップをテーブルに戻して呆れたような声を出すリリを片目を開けて見ながら、俺は両眉を寄せる。
「お前の言う事にも一理あるとは思うが、やっぱり今は様子を見たい。さっきも言ったが翠がどう動くかわからんし、俺は傷心の後にこの地に逃げてきた事になっているからな。流石にこの短期間で結婚まで行くのはどうかと。そもそも、お前ら2人には戸籍もないし、翠の言うとおり突っ込まれたらボロが出そうだ」
「めんどくさいなー」
「そういうもんだ。世の中は」
だが、それはどちらの世界も一緒だろう。
特に、大勢によってたかって殺されそうになったあげくに返り討ちにしてこの家まで逃げ込んできたリリに言えるべきことじゃない。
「じゃあ、一緒に買いに行けないなら今日はどうするの? 別にこの家から出られないなら今のままの服装でも別にかまわないし、姫様も最近文句言ってこないから問題ないとは思うけど」
寧ろ、積極的に俺のジャージを着ている疑惑もあるしな。
「それに関しては一応考えがあってな」
俺は部屋の隅に移動するとそこに積んでおいた紙束の中から1枚引き抜き、テーブルに戻るとそれをリリの前に広げて見せた。
「顔を見せて買うのが恥ずかしいなら、顔を見せずに買えばいい」
それは街中にある家電量販店のチラシだった。
会社で取っている新聞に入っていたチラシを拝借したもので、明日までの期限となっていた。
「家電ってわかるか? お前がご飯を炊く時に使ってる炊飯器とか、パンを焼く時に使ってるトースター、それから、食べ物を冷やしたり凍らせたりするのに使っている冷蔵庫なんかがそれだ」
「便利だよね、あれ。家電っていうんだ?」
「ああ。で、そういうのは食べ物関係以外でも一杯あってな」
「お洗濯してる道具もそうでしょ?」
「そうだ。わかってきたじゃないか。で、今回購入しようと思っているのはこの二つだ」
俺はチラシの中の項目からテレビとパソコンにそれぞれ指を置く。
「こっちはテレビ。使用用途は主に娯楽と情報収集だな。お前ら俺が仕事に行っている間は何もやる事がなくて暇だろう? そういう時に時間を潰すのに便利だ。それから、一週間お前らと一緒に生活してみて、やっぱりお前たちと俺の常識の違いが問題だと思った。これを使って是非とも常識を身につけて頂きたいと思う」
「……そんなに常識に違いがあるかなぁ?」
「ある。お前はどうだか知らんが、多分金髪はその辺感じてると思う。次はこっち。パソコンだ」
俺はテレビの欄から指をどかすと、代わりにパソコンの項目を指で丸で囲む。そこには『特価!! ネット回線開通工事費込み!!』と、でかく印刷されていた。
「この世界にはインターネットっていう世界中に繋がっている通信網があってな。これを使えば買い物なんかも顔を見せ合うこともなく出来るってわけだ」
「へー。通信網。ようするに、私と旦那様の繋がりみたいのがこのパソコン? ってのを使えば魔力を使わなくても出来るって事?」
「……嫌な例えだがその通りだな。もっとも、インターネットで相手に物理的なダメージを与えることは出来ないが」
さっきみたいにな。
俺はさっきまでの背中の痛みを思い出し身震いしつつも、ポケットからスマホを取り出す。
「本当はスマホで全部やっちまってもいいんだが、俺が出かけている時に使えないのは困るだろう? お前にスマホを買い与える事も考えたんだが、お前にだけ渡したらうるさい奴を家は一人飼ってるからな。流石に、考えなしに使いまくりそうな馬鹿にスマホを買い与える無駄はしたくないから、今回は共用としてこのパソコンを買ってリビングに置くことにした」
「ふーん。工事って書いてあるけど?」
「ああ。この家は暫く住みてが居なくて回線が引っ張ってないから開通工事は必要だ。当然お前らの存在を隠す必要があるから、その日は俺の部屋に缶詰だな。それでも心配だから、なんかお前の魔術でいいのがないか?」
「えぇー。あるにはあるけど……」
【認識阻害】なんていう魔術があるくらいだから存在を隠すような魔術もあるのではないかと駄目元で聞いてみたのだが、やっぱりあるらしい。
しかし、リリは少し困ったような顔をしている。
「【インビジブル】っていう魔術があって、それを使えば一応は存在を認識されなくはなるよ。でも問題もあるから……」
「何だよ問題って?」
「あくまで擬態みたいなものだから、魔力を持っている人の目は欺きにくいし、何よりお腹が減るの」
リリの言葉に俺は財布の中身を思い出し、小さな溜息をつく。
「……わかった。食いもんに関しては家電屋に行ったついでに追加購入してきてやるよ。あと、魔力に関しては大丈夫だろう。多分、この世界で魔力を持ってるのはお前か、金髪くらいだろう?」
「後は旦那様だね。私の力を受けてるから、寧ろ姫様よりも旦那様の方が魔力高いよ?」
「そうなのか?」
「うん。多分、練習すれば魔術も使えるよ?」
まじか。それはある意味では魅力的な話だが、取り急ぎ必要な能力でもあるまい。
「まあ、それは後でいいや。取り敢えず、この二つを買ってくるって事でいいな?」
俺の言葉にリリは頷く。
「いいよ。旦那様が出かけてる間に姫様の機嫌は直しておくね?」
恐らくまだ金髪が震えているであろう二階に目を向けながらそんな事を口にするリリに対して、「お前の機嫌が直れば全て解決だけどな」とは、思っていても口にはしなかった。
リビングに戻り、二人でお茶を啜りながら人心地着いた頃に尋ねてきたリリの言葉に、俺は湯呑をテーブルに戻す。
「まあ……買い物だよな。メインはお前らの服とか下着とか……なんだけど、どうにも踏ん切りつかなくてなあ」
俺の言葉にリリも昨夜寝る前に話した事を思い出したのか「ああー」と漏らす。
ちなみに、リリと二人でこうして話をするのは珍しいことではなく、特に寝る前は一日にあった事とか明日の予定とかを話す事が多い。
「確か、旦那様が一人で女性服を買いに行くのが恥ずかしいって話だっけ? それなら私も一緒に行けば解決じゃないの?」
「普通に考えればそうなんだが」
俺は腕を組むと目を瞑る。
「翠の件もあるし、やっぱりまだお前らを近所の人に見せるのはまずいような気がするんだよな。俺はまだこの辺じゃ新参だし、一人暮らしだってのは周知の事実だし。その状況でいきなり嫁を連れて来るってのは不自然ではないかと」
「……旦那様って歳幾つだっけ?」
「32だが?」
「全然不自然じゃないよ? それ」
カップをテーブルに戻して呆れたような声を出すリリを片目を開けて見ながら、俺は両眉を寄せる。
「お前の言う事にも一理あるとは思うが、やっぱり今は様子を見たい。さっきも言ったが翠がどう動くかわからんし、俺は傷心の後にこの地に逃げてきた事になっているからな。流石にこの短期間で結婚まで行くのはどうかと。そもそも、お前ら2人には戸籍もないし、翠の言うとおり突っ込まれたらボロが出そうだ」
「めんどくさいなー」
「そういうもんだ。世の中は」
だが、それはどちらの世界も一緒だろう。
特に、大勢によってたかって殺されそうになったあげくに返り討ちにしてこの家まで逃げ込んできたリリに言えるべきことじゃない。
「じゃあ、一緒に買いに行けないなら今日はどうするの? 別にこの家から出られないなら今のままの服装でも別にかまわないし、姫様も最近文句言ってこないから問題ないとは思うけど」
寧ろ、積極的に俺のジャージを着ている疑惑もあるしな。
「それに関しては一応考えがあってな」
俺は部屋の隅に移動するとそこに積んでおいた紙束の中から1枚引き抜き、テーブルに戻るとそれをリリの前に広げて見せた。
「顔を見せて買うのが恥ずかしいなら、顔を見せずに買えばいい」
それは街中にある家電量販店のチラシだった。
会社で取っている新聞に入っていたチラシを拝借したもので、明日までの期限となっていた。
「家電ってわかるか? お前がご飯を炊く時に使ってる炊飯器とか、パンを焼く時に使ってるトースター、それから、食べ物を冷やしたり凍らせたりするのに使っている冷蔵庫なんかがそれだ」
「便利だよね、あれ。家電っていうんだ?」
「ああ。で、そういうのは食べ物関係以外でも一杯あってな」
「お洗濯してる道具もそうでしょ?」
「そうだ。わかってきたじゃないか。で、今回購入しようと思っているのはこの二つだ」
俺はチラシの中の項目からテレビとパソコンにそれぞれ指を置く。
「こっちはテレビ。使用用途は主に娯楽と情報収集だな。お前ら俺が仕事に行っている間は何もやる事がなくて暇だろう? そういう時に時間を潰すのに便利だ。それから、一週間お前らと一緒に生活してみて、やっぱりお前たちと俺の常識の違いが問題だと思った。これを使って是非とも常識を身につけて頂きたいと思う」
「……そんなに常識に違いがあるかなぁ?」
「ある。お前はどうだか知らんが、多分金髪はその辺感じてると思う。次はこっち。パソコンだ」
俺はテレビの欄から指をどかすと、代わりにパソコンの項目を指で丸で囲む。そこには『特価!! ネット回線開通工事費込み!!』と、でかく印刷されていた。
「この世界にはインターネットっていう世界中に繋がっている通信網があってな。これを使えば買い物なんかも顔を見せ合うこともなく出来るってわけだ」
「へー。通信網。ようするに、私と旦那様の繋がりみたいのがこのパソコン? ってのを使えば魔力を使わなくても出来るって事?」
「……嫌な例えだがその通りだな。もっとも、インターネットで相手に物理的なダメージを与えることは出来ないが」
さっきみたいにな。
俺はさっきまでの背中の痛みを思い出し身震いしつつも、ポケットからスマホを取り出す。
「本当はスマホで全部やっちまってもいいんだが、俺が出かけている時に使えないのは困るだろう? お前にスマホを買い与える事も考えたんだが、お前にだけ渡したらうるさい奴を家は一人飼ってるからな。流石に、考えなしに使いまくりそうな馬鹿にスマホを買い与える無駄はしたくないから、今回は共用としてこのパソコンを買ってリビングに置くことにした」
「ふーん。工事って書いてあるけど?」
「ああ。この家は暫く住みてが居なくて回線が引っ張ってないから開通工事は必要だ。当然お前らの存在を隠す必要があるから、その日は俺の部屋に缶詰だな。それでも心配だから、なんかお前の魔術でいいのがないか?」
「えぇー。あるにはあるけど……」
【認識阻害】なんていう魔術があるくらいだから存在を隠すような魔術もあるのではないかと駄目元で聞いてみたのだが、やっぱりあるらしい。
しかし、リリは少し困ったような顔をしている。
「【インビジブル】っていう魔術があって、それを使えば一応は存在を認識されなくはなるよ。でも問題もあるから……」
「何だよ問題って?」
「あくまで擬態みたいなものだから、魔力を持っている人の目は欺きにくいし、何よりお腹が減るの」
リリの言葉に俺は財布の中身を思い出し、小さな溜息をつく。
「……わかった。食いもんに関しては家電屋に行ったついでに追加購入してきてやるよ。あと、魔力に関しては大丈夫だろう。多分、この世界で魔力を持ってるのはお前か、金髪くらいだろう?」
「後は旦那様だね。私の力を受けてるから、寧ろ姫様よりも旦那様の方が魔力高いよ?」
「そうなのか?」
「うん。多分、練習すれば魔術も使えるよ?」
まじか。それはある意味では魅力的な話だが、取り急ぎ必要な能力でもあるまい。
「まあ、それは後でいいや。取り敢えず、この二つを買ってくるって事でいいな?」
俺の言葉にリリは頷く。
「いいよ。旦那様が出かけてる間に姫様の機嫌は直しておくね?」
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