御伽噺の片隅で

黒い乙さん

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第四章 新生活は足りないものが多すぎる

05 使ってるのは魔力じゃなくて電力だ

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「ただいま」

 買い物から帰り、大量の荷物を玄関に運び込んでいる所で、奥からリリがやってくる。
 金髪の姿は見えない。
 機嫌が直ったのかどうかは不明だが、ここ最近では珍しい事だった。

「金髪はどうしたんだ? ひょっとしてまだ2階にいるのか?」

 食料品の入ったビニール袋を廊下に降ろし、テレビの入ったダンボールを運び込んだ所で肩を回しながら訊ねた俺に、両手にビニール袋を下げたリリがクルリと振り向く。
 その顔はやや不審気で、頭頂部の猫耳も器用に後ろを向いていた。
 ……あの耳の動きは珍しいな。猫が耳を後ろに向ける時ってどんな時だっけ?

「……どうして姫様を? 出迎えが私だけじゃ不満?」
「いや、そういうわけじゃないが……」

 いつもよりも少しだけ強い口調で問い返すリリの態度に俺は一歩引きながらも荷物を指さした。

「いつもは俺が帰ってくると呼んでもいないのに寄ってきて騒ぐだろう? 今日もそうなら荷物運びくらいはやらせようと思っただけだよ。深い意味はない」

 俺の言葉にリリはいつもの様子を思い出したのか「ああ~」と納得したように頷くと苦笑する。その際、頭の猫耳もクルリと前を向いた。

「リビングにいるよ。でも、旦那様が荷物を運び込んでる音が部屋まで聞こえてきたからね。何を言われるかわかったんじゃない?」
「……あのやろう……」

 あいつがどういう人間なのかはわかっていたつもりだったが、改めて直面すると腹立つな。
 俺はテレビが入っている箱を『ボコン』と叩くと、親指で車を指差しリリに向ける。

「俺はあともう一つ荷物があるからもう一度車に戻るけど、少しくらい奴にも手伝わせろよ。やらなかったら飯抜きだって言ってたとでも言っとけ」
「わかった。言っとくね?」

 俺の言葉にリリは苦笑しながら頷くと、荷物を両手に持って奥に歩いていく。
 全く。
 居候という身分は同じなのにどうしてああも勤労意欲に差がつくんだろうな。
 俺は怒りと呆れをないまぜにしたような気分になると、残り一つ。パソコンを運び込む為に車に向かった。



◇◇◇◇



「……何故……妾がこんな目に……」

 リビングの床に大の字になって寝転がり、荒い息を吐き出して胸を激しく上下させている金髪を尻目に、俺はテレビをセッティングすると接続と設定作業を進めていく。
 ちなみに、如何にも「たくさん仕事しました」感を出している金髪だが、40インチの薄型テレビの入った箱をリリと二人で運び込んだだけである。
 当然、それ以上の仕事をしたリリの方が肉体的な負担は大きかった筈だが、リリがケロリとしている状況から考えて普段どれだけ体を動かしていないかわかろうというものだった。

「何故も何もタダ飯ぐらいが文句言ってんじゃねぇ。元の国でお前さんがどれだけ偉い人間だったかは知らねえが、ここに来た以上はただの居候。穀潰しだ。そこん所理解しないで我が儘ばかり言ってるようならすぐにでも叩き出すぞ」

 アンテナ線を繋ぎ、チャンネル周波数の設定をはじめる俺の後ろで、金髪がムクリと上体を起こす。
 まだ設定が終わらずブラックアウトしたテレビ画面を通して、こちらに顔を向けて苦渋の表情を見せる金髪と目があった。

「……そんな事。お主に言われんでも分かっておるわ」
「そら良かった。なら、ちったあリリを見習って家事の一つでもしてみせるんだな。よし、大丈夫だ」

 設定を終えて箱の中からリモコンを探す。
 そんな俺の事を何やら金髪はジッと見ているようで視線を感じる。
 どうにもやりにくいが、今はテレビを付ける方が先決だ。

「……お主はいつもリリ、リリじゃの。妾だって家事くらい出来るならばとっくにやっておる。じゃが、出来ないのだから仕方ないではないか。それに、お主はリリの事は名前で呼ぶくせに未だに妾の事は金髪となんじゃそれは!?」

 何やら何時もの如く俺に対しての不平不満が口から流され始めた金髪の口上が、映し出されたテレビ画面を目にして驚愕した。
 目をまん丸にして四つん這いでこちらに寄ってくる姿が物を知らない子供そのもので少々しゃくにさわったが、子供なのは間違いないので仕方ないと諦めた。

「これは【ヴィジョン】か?」
「ヴィジョン? 何だそれは。これはテレビって言って、こことは違う場所の映像を映す機械だよ」

 あぐらをかいていた俺の左足の太ももに右手を置いて、左手で画面を指差す金髪に俺は説明する。
 すると、紅茶とお茶菓子の準備をしていたのだろう。テーブルに人数分のカップを置いていたリリが笑いながら補足する。

「その旦那様の説明の仕方って、まんま【ヴィジョン】の説明だよ? それじゃ、姫様も勘違いしちゃうと思う」

 リリの言葉に俺は視線を下に向けると、クリッとした赤い瞳が向けられた。
 その瞳の持ち主は、ムカつくほどに唇を尖らせた不満顔で、「妾間違ってないもん」とでも言っているようだった。

「……まず、その【ヴィジョン】ってのが俺にわからないから何とも言えないのだが」
「ヴィジョンはこことは違う場所の映像を映す魔術なの。そのキカイ? が、同じ効果を持っているなら、そのキカイにはヴィジョンの魔術効果がある道具でも使ってるのかな?」

 リリの疑問に俺は首を横に振る。

「いや、魔術は全く関係ないな。そもそも、そのヴィジョンって魔術は魔術である以上魔力を使って映像を移しているんだろう? だが、このテレビは使っているのは魔力じゃなくて電力だ」
「デンリョク?」
「電気って言うんだけど、まあ、お前らにもわかるように言えば雷みたいなもんだ」
「へー……。あんなもので発動するんだ……」

 リリは納得したのかしていないのかわからない表情で俺に近づくと、金髪を俺から引き剥がして自分の前に座らせる。
 その際両肩に両手を置いてがっちり押さえ込んでいたのでウロチョロと動き回るのを防ぐ意味合いもあるのだろう。
 その行為に当の金髪は眉を顰めてリリを睨むが、直ぐにテレビの方に視線を戻してしまった。
 どうやら、不快感よりも興味の方がかったらしい。

「まあ、とりあえずは説明がてらテレビでも見てみるとするか。せっかくリリがお茶を用意してくれたようだしな」

 俺の言葉にリリは頷いてテーブルの上に置いたカップに紅茶を順に注いでいく。
 当然、そうする事で金髪の肩に置かれていた両手は離れてしまったが、金髪は特に動く事なく画面に視線を釘付けにしてテレビを見る事にしたようだ。

 俺はその後テレビ画面を見ている二人にリモコンを見せながら使い方の説明をしつつ、3人でしばしのテレビ鑑賞を続けるのだった。
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