御伽噺の片隅で

黒い乙さん

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第四章 新生活は足りないものが多すぎる

06 テレビとパソコン

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 ある程度の説明を終えて、リリと金髪がテレビに興味を示している間に、俺は部屋の隅でパソコンの入っていた箱を開梱すると、床にそれぞれ並べていく。
 とりあえずは机もなにもなく直置きになるが、落ち着くまではこれでいいだろう。
 すると、俺が何やら準備している様子が気になったのか、リリがこちらに目を向けると傍に寄ってきた。

「それ何? ひょっとして、それが出かける前に言ってたパソコン?」
「そうだ。もっとも、今はネットにも繋がらないし余計なソフトも何も入っていない状態だから、そんな面白いものでもないけどな」

 俺は一番重量があり、壊れやすい本体をゆっくり床に置くと、別にしてあった配線を繋げ始める。
 そんな俺の様子を「へー」と眺めながら、リリはバラバラになっている配線のいくつかを手に取って眺めている。
 俺は、その様子を見て以前飼っていた猫がよく配線を齧って引っこ抜いていた事を思い出し、横目で見ながら注意する。

「最初に言っておくけど、今はいいけど本体に繋げた後に配線を引っ張るんじゃないぞ? 壊れるかも知れないし、何より危ない」
「言われなくてもそんな事しないよ? 姫様じゃあるまいし」

 リリの言葉に俺は何故か妙に納得しながら金髪に目を向けると、さっきのリリの発言は聞こえなかったのか、テレビにかぶりつくようにして見ている所だった。
 というか、本当に食い入るように見ている。それこそ、顔と画面が5cmも離れていないのではないだろうか?
 俺は呆れると金髪を指差してリリの顔を見る。

「悪いけどあれ引き剥がしといてくれる? あんな近くで画面見てたら目が悪くなるぞ」
「あ、ホントだ。何やってるの姫様」

 俺の指摘にリリも金髪の行動に気がついたのだろう。
 呆れたような声を出すと金髪の腕を掴んで後ろに引っ張った。
 だが、その間も金髪は画面から目を離さず、口をポケーっと開けたままされるがままになっていた。

「……ったく。ホントガキだなあいつは」

 アホ丸出しの金髪の事は取り敢えず放っておいて、俺は自分の作業を進める。
 もっとも、昔と違って今のPCの取り付けや設定なんて素人でも出来る簡単なものだ。
 俺は全ての配線を繋げ終わったのを確認すると主電源をONにする。
 しばらくすると、OSが立ち上がり初期画面が表示された。

「へー。こっちのてれびは変な絵が出たね」

 金髪の移動が終わったのだろう。
 後ろからかかった声に振り向きながら、興味深そうに画面を見ていたリリに目を向ける。

「これはテレビとは別もんだ。一応、これ単体でも使うことは出来るんだが、本当に最低限の定番ソフトも入ってない安いやつを買ったからな。今の状態だと特に面白くもなんともない箱だな。これは」

 俺はHDD内のファイルをざっと流し見したあとにウィンドウを閉じると、マウスとキーボードをリリに見せる。

「基本的に使うのが多いのはこれだな。『マウス』って言って、これを動かすと画面の中の矢印が動く。で、ここに付いているボタンを二回連続で押すと開くようになってるわけだ。で、こっちがキーボードで文字を画面の中に書き込みたい時に使う。……あれ? そう言えば」

 そこまで説明して、俺は今のリリの様子と、今朝のリリの様子を思い出して当然の疑問を口にした。

「今唐突に思ったんだけど、お前らって普通に文字が読めるよな? 言葉に関しては俺には理解できない魔術だかなんだかでどうにかしてるんだろうと思ってスルーしてたけど、実際どうなってんだ?」

 俺の疑問にリリは「ああ」と言って頷く。多分、今まで説明していなかった事を思い出したのだろう。

「私に関しては言葉と文字がわかるようになったのは旦那様と精神的に繋がったからだよ。旦那様が私達の言葉を理解できるようになった理由も同じ。旦那様だって最初に私に会った時は私の言葉がわからなかったのに、その後にカリスに会った時には理解できるようになってたでしょ?」

 「よーするにそーいう事」と簡単に説明してきたリリに目を向けた後に、次に金髪の方に目を向ける。
 今の話が本当なら、俺が金髪と会話が出来るのは俺が金髪と同じ言葉を喋っているという事か?
 それならば、金髪はこちらの世界の言葉が理解できないという事になるはずだが、今の金髪はテレビをちゃんと理解して見ているように思えた。

「姫様に関しては私がそういう魔術的処置をしただけだよ。こっちに来るときにもう向こうには戻れないってわかってたからね。でも、姫様は“言葉を聞いて理解”して、“文字を見て理解”する事は出来ても、こっちの人が聞いたら意味のわからない言葉になるだろうし、文字は書いてもこっちの人は読めないよ」
「つまり、俺があいつと話す事が出来るのは、あくまで俺がお前らの言語を理解してるからか……」
「そういう事。もしも姫様がこっちの世界で一人で生きていこうとするなら、言葉と文字の勉強が必要だね」

 紅茶を口にしながら語ったリリの言葉に、俺は少し考えてパソコンに目を向ける。

「いや。それは寧ろ都合がいいな」

 だが、俺は今後ネットを使って色々しようと考えた場合の問題点の一つが解消した事を理解して思わず口元を緩める。

「実は来週回線工事の予定なんだが、ネットショッピングをする上でどうしようかと迷っていたのが金髪の勝手な買い物なんだ。あいつあっちでは随分と甘やかされて育ったんだろう? 金銭感覚も緩いなら、こっちの懐事情なんか一切考えずに爆買いとかされないか心配だったんだが、文字が書けないなら都合がいい」

 俺は腕を組んで笑うとリリを見る。

「本当はパスワードをあいつに絶対わからないように設定しようかと思ってたんだけどな。勿論パスワードも設定はしておくが、その管理はお前に任せることにするよ。俺がいない間の監視は頼むぞ?」

 リリの肩に右手を置いて笑いかける俺に、リリは苦笑すると金髪を見る。
 その目はなんとも困ったような色合いをたたえていた。

「なんか……。短い間に随分信用なくしちゃったね。姫様」
「あいつの今までの行動に何か信用を得るような行為があったか? 自業自得だよ」

 取り敢えず、文句を言わさずに金髪を封じる事が出来そうだと気分が良くなった俺の視線の先では、そんなこちらの話など知る由もない金髪が無邪気に笑い転げていた。
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