35 / 56
第四章 新生活は足りないものが多すぎる
06 テレビとパソコン
しおりを挟む
ある程度の説明を終えて、リリと金髪がテレビに興味を示している間に、俺は部屋の隅でパソコンの入っていた箱を開梱すると、床にそれぞれ並べていく。
とりあえずは机もなにもなく直置きになるが、落ち着くまではこれでいいだろう。
すると、俺が何やら準備している様子が気になったのか、リリがこちらに目を向けると傍に寄ってきた。
「それ何? ひょっとして、それが出かける前に言ってたパソコン?」
「そうだ。もっとも、今はネットにも繋がらないし余計なソフトも何も入っていない状態だから、そんな面白いものでもないけどな」
俺は一番重量があり、壊れやすい本体をゆっくり床に置くと、別にしてあった配線を繋げ始める。
そんな俺の様子を「へー」と眺めながら、リリはバラバラになっている配線のいくつかを手に取って眺めている。
俺は、その様子を見て以前飼っていた猫がよく配線を齧って引っこ抜いていた事を思い出し、横目で見ながら注意する。
「最初に言っておくけど、今はいいけど本体に繋げた後に配線を引っ張るんじゃないぞ? 壊れるかも知れないし、何より危ない」
「言われなくてもそんな事しないよ? 姫様じゃあるまいし」
リリの言葉に俺は何故か妙に納得しながら金髪に目を向けると、さっきのリリの発言は聞こえなかったのか、テレビにかぶりつくようにして見ている所だった。
というか、本当に食い入るように見ている。それこそ、顔と画面が5cmも離れていないのではないだろうか?
俺は呆れると金髪を指差してリリの顔を見る。
「悪いけどあれ引き剥がしといてくれる? あんな近くで画面見てたら目が悪くなるぞ」
「あ、ホントだ。何やってるの姫様」
俺の指摘にリリも金髪の行動に気がついたのだろう。
呆れたような声を出すと金髪の腕を掴んで後ろに引っ張った。
だが、その間も金髪は画面から目を離さず、口をポケーっと開けたままされるがままになっていた。
「……ったく。ホントガキだなあいつは」
アホ丸出しの金髪の事は取り敢えず放っておいて、俺は自分の作業を進める。
もっとも、昔と違って今のPCの取り付けや設定なんて素人でも出来る簡単なものだ。
俺は全ての配線を繋げ終わったのを確認すると主電源をONにする。
しばらくすると、OSが立ち上がり初期画面が表示された。
「へー。こっちのてれびは変な絵が出たね」
金髪の移動が終わったのだろう。
後ろからかかった声に振り向きながら、興味深そうに画面を見ていたリリに目を向ける。
「これはテレビとは別もんだ。一応、これ単体でも使うことは出来るんだが、本当に最低限の定番ソフトも入ってない安いやつを買ったからな。今の状態だと特に面白くもなんともない箱だな。これは」
俺はHDD内のファイルをざっと流し見したあとにウィンドウを閉じると、マウスとキーボードをリリに見せる。
「基本的に使うのが多いのはこれだな。『マウス』って言って、これを動かすと画面の中の矢印が動く。で、ここに付いているボタンを二回連続で押すと開くようになってるわけだ。で、こっちがキーボードで文字を画面の中に書き込みたい時に使う。……あれ? そう言えば」
そこまで説明して、俺は今のリリの様子と、今朝のリリの様子を思い出して当然の疑問を口にした。
「今唐突に思ったんだけど、お前らって普通に文字が読めるよな? 言葉に関しては俺には理解できない魔術だかなんだかでどうにかしてるんだろうと思ってスルーしてたけど、実際どうなってんだ?」
俺の疑問にリリは「ああ」と言って頷く。多分、今まで説明していなかった事を思い出したのだろう。
「私に関しては言葉と文字がわかるようになったのは旦那様と精神的に繋がったからだよ。旦那様が私達の言葉を理解できるようになった理由も同じ。旦那様だって最初に私に会った時は私の言葉がわからなかったのに、その後にカリスに会った時には理解できるようになってたでしょ?」
「よーするにそーいう事」と簡単に説明してきたリリに目を向けた後に、次に金髪の方に目を向ける。
今の話が本当なら、俺が金髪と会話が出来るのは俺が金髪と同じ言葉を喋っているという事か?
それならば、金髪はこちらの世界の言葉が理解できないという事になるはずだが、今の金髪はテレビをちゃんと理解して見ているように思えた。
「姫様に関しては私がそういう魔術的処置をしただけだよ。こっちに来るときにもう向こうには戻れないってわかってたからね。でも、姫様は“言葉を聞いて理解”して、“文字を見て理解”する事は出来ても、こっちの人が聞いたら意味のわからない言葉になるだろうし、文字は書いてもこっちの人は読めないよ」
「つまり、俺があいつと話す事が出来るのは、あくまで俺がお前らの言語を理解してるからか……」
「そういう事。もしも姫様がこっちの世界で一人で生きていこうとするなら、言葉と文字の勉強が必要だね」
紅茶を口にしながら語ったリリの言葉に、俺は少し考えてパソコンに目を向ける。
「いや。それは寧ろ都合がいいな」
だが、俺は今後ネットを使って色々しようと考えた場合の問題点の一つが解消した事を理解して思わず口元を緩める。
「実は来週回線工事の予定なんだが、ネットショッピングをする上でどうしようかと迷っていたのが金髪の勝手な買い物なんだ。あいつあっちでは随分と甘やかされて育ったんだろう? 金銭感覚も緩いなら、こっちの懐事情なんか一切考えずに爆買いとかされないか心配だったんだが、文字が書けないなら都合がいい」
俺は腕を組んで笑うとリリを見る。
「本当はパスワードをあいつに絶対わからないように設定しようかと思ってたんだけどな。勿論パスワードも設定はしておくが、その管理はお前に任せることにするよ。俺がいない間の監視は頼むぞ?」
リリの肩に右手を置いて笑いかける俺に、リリは苦笑すると金髪を見る。
その目はなんとも困ったような色合いをたたえていた。
「なんか……。短い間に随分信用なくしちゃったね。姫様」
「あいつの今までの行動に何か信用を得るような行為があったか? 自業自得だよ」
取り敢えず、文句を言わさずに金髪を封じる事が出来そうだと気分が良くなった俺の視線の先では、そんなこちらの話など知る由もない金髪が無邪気に笑い転げていた。
とりあえずは机もなにもなく直置きになるが、落ち着くまではこれでいいだろう。
すると、俺が何やら準備している様子が気になったのか、リリがこちらに目を向けると傍に寄ってきた。
「それ何? ひょっとして、それが出かける前に言ってたパソコン?」
「そうだ。もっとも、今はネットにも繋がらないし余計なソフトも何も入っていない状態だから、そんな面白いものでもないけどな」
俺は一番重量があり、壊れやすい本体をゆっくり床に置くと、別にしてあった配線を繋げ始める。
そんな俺の様子を「へー」と眺めながら、リリはバラバラになっている配線のいくつかを手に取って眺めている。
俺は、その様子を見て以前飼っていた猫がよく配線を齧って引っこ抜いていた事を思い出し、横目で見ながら注意する。
「最初に言っておくけど、今はいいけど本体に繋げた後に配線を引っ張るんじゃないぞ? 壊れるかも知れないし、何より危ない」
「言われなくてもそんな事しないよ? 姫様じゃあるまいし」
リリの言葉に俺は何故か妙に納得しながら金髪に目を向けると、さっきのリリの発言は聞こえなかったのか、テレビにかぶりつくようにして見ている所だった。
というか、本当に食い入るように見ている。それこそ、顔と画面が5cmも離れていないのではないだろうか?
俺は呆れると金髪を指差してリリの顔を見る。
「悪いけどあれ引き剥がしといてくれる? あんな近くで画面見てたら目が悪くなるぞ」
「あ、ホントだ。何やってるの姫様」
俺の指摘にリリも金髪の行動に気がついたのだろう。
呆れたような声を出すと金髪の腕を掴んで後ろに引っ張った。
だが、その間も金髪は画面から目を離さず、口をポケーっと開けたままされるがままになっていた。
「……ったく。ホントガキだなあいつは」
アホ丸出しの金髪の事は取り敢えず放っておいて、俺は自分の作業を進める。
もっとも、昔と違って今のPCの取り付けや設定なんて素人でも出来る簡単なものだ。
俺は全ての配線を繋げ終わったのを確認すると主電源をONにする。
しばらくすると、OSが立ち上がり初期画面が表示された。
「へー。こっちのてれびは変な絵が出たね」
金髪の移動が終わったのだろう。
後ろからかかった声に振り向きながら、興味深そうに画面を見ていたリリに目を向ける。
「これはテレビとは別もんだ。一応、これ単体でも使うことは出来るんだが、本当に最低限の定番ソフトも入ってない安いやつを買ったからな。今の状態だと特に面白くもなんともない箱だな。これは」
俺はHDD内のファイルをざっと流し見したあとにウィンドウを閉じると、マウスとキーボードをリリに見せる。
「基本的に使うのが多いのはこれだな。『マウス』って言って、これを動かすと画面の中の矢印が動く。で、ここに付いているボタンを二回連続で押すと開くようになってるわけだ。で、こっちがキーボードで文字を画面の中に書き込みたい時に使う。……あれ? そう言えば」
そこまで説明して、俺は今のリリの様子と、今朝のリリの様子を思い出して当然の疑問を口にした。
「今唐突に思ったんだけど、お前らって普通に文字が読めるよな? 言葉に関しては俺には理解できない魔術だかなんだかでどうにかしてるんだろうと思ってスルーしてたけど、実際どうなってんだ?」
俺の疑問にリリは「ああ」と言って頷く。多分、今まで説明していなかった事を思い出したのだろう。
「私に関しては言葉と文字がわかるようになったのは旦那様と精神的に繋がったからだよ。旦那様が私達の言葉を理解できるようになった理由も同じ。旦那様だって最初に私に会った時は私の言葉がわからなかったのに、その後にカリスに会った時には理解できるようになってたでしょ?」
「よーするにそーいう事」と簡単に説明してきたリリに目を向けた後に、次に金髪の方に目を向ける。
今の話が本当なら、俺が金髪と会話が出来るのは俺が金髪と同じ言葉を喋っているという事か?
それならば、金髪はこちらの世界の言葉が理解できないという事になるはずだが、今の金髪はテレビをちゃんと理解して見ているように思えた。
「姫様に関しては私がそういう魔術的処置をしただけだよ。こっちに来るときにもう向こうには戻れないってわかってたからね。でも、姫様は“言葉を聞いて理解”して、“文字を見て理解”する事は出来ても、こっちの人が聞いたら意味のわからない言葉になるだろうし、文字は書いてもこっちの人は読めないよ」
「つまり、俺があいつと話す事が出来るのは、あくまで俺がお前らの言語を理解してるからか……」
「そういう事。もしも姫様がこっちの世界で一人で生きていこうとするなら、言葉と文字の勉強が必要だね」
紅茶を口にしながら語ったリリの言葉に、俺は少し考えてパソコンに目を向ける。
「いや。それは寧ろ都合がいいな」
だが、俺は今後ネットを使って色々しようと考えた場合の問題点の一つが解消した事を理解して思わず口元を緩める。
「実は来週回線工事の予定なんだが、ネットショッピングをする上でどうしようかと迷っていたのが金髪の勝手な買い物なんだ。あいつあっちでは随分と甘やかされて育ったんだろう? 金銭感覚も緩いなら、こっちの懐事情なんか一切考えずに爆買いとかされないか心配だったんだが、文字が書けないなら都合がいい」
俺は腕を組んで笑うとリリを見る。
「本当はパスワードをあいつに絶対わからないように設定しようかと思ってたんだけどな。勿論パスワードも設定はしておくが、その管理はお前に任せることにするよ。俺がいない間の監視は頼むぞ?」
リリの肩に右手を置いて笑いかける俺に、リリは苦笑すると金髪を見る。
その目はなんとも困ったような色合いをたたえていた。
「なんか……。短い間に随分信用なくしちゃったね。姫様」
「あいつの今までの行動に何か信用を得るような行為があったか? 自業自得だよ」
取り敢えず、文句を言わさずに金髪を封じる事が出来そうだと気分が良くなった俺の視線の先では、そんなこちらの話など知る由もない金髪が無邪気に笑い転げていた。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
夫の妹に財産を勝手に使われているらしいので、第三王子に全財産を寄付してみた
今川幸乃
恋愛
ローザン公爵家の跡継ぎオリバーの元に嫁いだレイラは若くして父が死んだため、実家の財産をすでにある程度相続していた。
レイラとオリバーは穏やかな新婚生活を送っていたが、なぜかオリバーは妹のエミリーが欲しがるものを何でも買ってあげている。
不審に思ったレイラが調べてみると、何とオリバーはレイラの財産を勝手に売り払ってそのお金でエミリーの欲しいものを買っていた。
レイラは実家を継いだ兄に相談し、自分に敵対する者には容赦しない”冷血王子”と恐れられるクルス第三王子に全財産を寄付することにする。
それでもオリバーはレイラの財産でエミリーに物を買い与え続けたが、自分に寄付された財産を勝手に売り払われたクルスは激怒し……
※短め
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
この度娘が結婚する事になりました。女手一つ、なんとか親としての務めを果たし終えたと思っていたら騎士上がりの年下侯爵様に見初められました。
毒島かすみ
恋愛
真実の愛を見つけたと、夫に離婚を突きつけられた主人公エミリアは娘と共に貧しい生活を強いられながらも、自分達の幸せの為に道を切り開き、幸せを掴んでいく物語です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる