御伽噺の片隅で

黒い乙さん

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第六章 俺は魔女の能力を侮っていたのかもしれない

01 金髪

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 ここ最近、会社が終わって家に直帰したのは殆どなかったのでは無いだろうか?
 その理由はやはり同居人がいるかいないかで大きく変わるのだと思う。
 特に、その同居人が喰い盛りの2人ならなおさらである。

 そんなまだ明るい内に帰宅した俺はリリを引き連れてリビングに足を踏み入れる。
 するとそこには、テレビの前に陣取ってあぐらをかいてバカ笑いしている金髪の姿が。
 俺は無言でテーブルを回って金髪に少し振りかぶったチョップを振り下ろすと何時もの場所に腰を降ろす。
 当然、リリも何事もなかったかのように俺の隣に腰を降ろした。

「で、早速朝の話の続きなんだが……」
「待てぃ! 今何故妾は叩かれたのじゃ!? 帰ってきて早々いきなり殴りつけるとは何たる無礼な! 謝罪を要求する!!」
「っせーな。人がこれから大事な話をしようって時に完全に寛いだ状態でバカ笑いされてたらイラっとくるんだよ。そもそも、何だよその格好は。上下ジャージにあぐらかいてバカ笑いとかお前はおっさんか? お姫様っていう設定はどうした」

 そもそも、土曜日に注文した服は昨日の夕方に届いているから金髪の服ももうあるはずである。
 にもかかわらず相変わらず俺のお古のジャージとか、やはりこいつ自ら積極的にチョイスしてやがる。

「何が設定じゃ! 設定も何も、妾がガルマール王国の第一王女であった事に偽りなどない! ……偽りなどないが、現在はその身分を捨て、こうして一人の男に養われておるのもまた事実。であるからして、こうして自分の屋敷・・・・・であるこの家で寛いでいただけではないか。それが何か悪いのか?」

 腕を組み、ムッとした様子でそう口にした金髪の目を見るにマジで言っているようだった。
 どうもこの金髪、口調や態度は偉そうだが、一応自分の立ち場というものは理解しているようだった。
 が、理解していてこれでは目も当てられないのは事実だが。

「ああそう。まあ、お前のいう事も間違っちゃあいないよ。合ってもいないけど。けど、これから俺達は今後のこの家にとっての大切な話をしたいんだよ。そこをお前の甲高い笑い声を聞きながらじゃシリアスな空気も壊れちまうだろう? 今日はいいけど、今後こういう時は席を外してもらえると助かるね。もしもテレビが見たいってんなら、今度お前の部屋に小さいテレビを買って──」
「旦那様?」
「──はやれないけど、何かしら暇つぶしの手段を考えてやるから、取り敢えず静かにしててくれ」

 俺はぞんざいにそう言い捨てると、リリに向かって話し合う体勢を整えようとした所でテーブルに手を叩きつけた金髪の行動で動きを止める。

「……妾は家を捨てた。その魔女と同じように」
「……らしいな。今初めて実感したが、そう言えば最初の説明の時に似たような事をリリが言ってたのを思い出したわ」

 最も、あの時はリリの話が衝撃的すぎたのと、金髪の態度に腹が立ちすぎて話が途中ですげ変わってしまったんだった。

「妾はあくまで主に世話になっている立場だからの。これまで妾に対する主の扱いに関しては極力口にはせなんだ。が、流石にここまで長いあいだぞんざいに扱われれば如何に妾とて我慢も限界に来るというもの」
「あ? 我慢? お前が? めっちゃ文句言ってたと思うけど」
「根本的な扱いの違いと、直接的な被害に関する苦言に関しては別物であろうが。なら聞くが、主は妾の名前を知っておるのか? 知っておるのなら答えてみよ」
「…………」

 金髪の問いに俺は頭をフル回転して過去をさかのぼって考える。
 確か、2人の事情を聞いた時は途中で話が変わって金髪の話になる前に終わってしまったから聞いていない。
 その後もその話題は出なかったから、金髪から直接名前を聞いた事は無いはずだ。
 そして、リリが金髪を呼ぶ時は基本的に「姫様」呼びだし、リリからも金髪の名前を聞いた事もない。
 つまり、俺は金髪の名前は知らないという事になる。
 
 なるんだけど。
 
 何となくどこかで聞いたような気がするんだよな。
 どこだったか……。
 ガルマール王国、第一王女、プリンセスガード……と、続いて、唐突に俺の頭にひとつの単語が閃いた。

「ああ。思い出した。ソニアだろ。ファーストネームしか知らねぇけど、確かそんな名前だった筈だ」

 俺の答えに金髪は少しだけ驚いたように目を見開いたが、直ぐに眉を寄せると首を振る。

「別にソニアだけで構わんよ。先程も申したが既に妾は家を捨てた身である故な。じゃが、不思議な事よ。妾の記憶が正しければ、主に名を名乗った事はなかったはずじゃ。そこの魔女から聞いたのか?」

 リリを指差し聞いてきた金髪に、俺は首を横に振ると答える。

「いや、リリからは聞いていない。ただ、前にカリスが来た時にお前の名前を口にした事があったのを思い出しただけだ」
「…………そのような事だと思ったわ」

 俺の答えが金髪にとってはひどく不本意なものだったらしい。
 リモコンを手に取ってテレビの電源を切ると、テーブルの上に乱暴に投げ捨て立ち上がると、俺を睨みつけるように見下ろす。

「ここまで寝食を共にし、主の性格についてもある程度把握し、己の興味を引かないものに関してはとことん無関心で無頓着であることは理解した。そして、ここまでそれなりの時間を共有してきたにもかかわらず、未だに妾に対して一切の関心を持っておらん事もな。そのような者の話など、聞きとうないし訊けと言われてもお断りじゃ。そんなに妾が邪魔ならば、言われずとも席など外してやるわ。せいぜいそこの魔女と仲良くするが良かろう」

 一方的にそこまで口にするとリビングから飛び出し、階段を駆け上る金髪の後ろ姿をしばらく眺める。

「……で、部屋に戻る……と。あそこまで啖呵を切ったならそのまま家を飛び出すくらいなら覚悟も見られて格好良かったが……」

 まあ、実際に家を飛び出されても困ったのは俺なのだから、助かったといえば助かったのだが。
 取り敢えず自室に引っ込んだ金髪の事が気にならないというのは流石にないので、俺はそのままリリに顔を向ける。

「やっぱり、この場合悪いのって俺になるのか?」
「うーん。今までの行動を見る限り姫様に悪い所が無いかって言えばないわけじゃないけど、今回に関しては旦那様が悪いかな」
「ああそう。お前が言うんならそうなんだろうな」

 少なくとも、第三者の視点に立った時のリリの判断は大抵正しい。
 そして、そこまでリリの事は理解しているのに、金髪の事はこれまで全く知ろうとしなかった自分自身の生き方に関しても。

「全く。困った性格だ」

 それは俺自身の性格と。
 
 そして、金髪──ソニアの性格も。

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