御伽噺の片隅で

黒い乙さん

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第六章 俺は魔女の能力を侮っていたのかもしれない

プロローグ

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「旦那様。これ持っていって?」

 休み明けの月曜日。
 未だ覚め切らない頭を左右に揺らしながら玄関に向かっていた俺の後ろから、何時ものように見送りについて来ていたリリが声をかけて来たので振り返る。

 すると、そこにいたリリは何やら可愛らしい巾着袋を両手に抱えてこちらに差し出していた。

「……随分かわいいい巾着袋が出てきたな。こんなのうちにあったっけ?」

 少なくとも俺の記憶にはないのだが。

「ううん。前に近所のお姉さんから貰った服を一着だけ切って作ったの。作り方はネットで調べたら出てきたから簡単に出来たよ。可愛いでしょ?」
 
 寧ろ、少女趣味過ぎて俺が持つと犯罪臭いのが問題だと思うが。
 特に、結び口に付けられた白いフリルがそれを強調していた。
 とはいえ、翠からもらった服は4着程だったと思うが、どうやら最低一着はバラバラにしてしまった模様。いくら着ていないとはいえあんまりではないだろうか? 壊すくらいなら金髪にでもあげればいいのに。

「いや、まあいいや。で、これ何だ? 持って行って何に使うんだ?」

 俺はいつまでも見つめ合っていてもしょうがないので巾着を受け取る。
 何やらずしりと重く、ほんのり暖かかった。

「おべんとだよ。おべんと箱が無かったからおにぎりだけどね。今度からはお外じゃなくてそれを食べて欲しくて。それからお財布出して?」
「そうか。ありがとう。だが、敢えて聞こう。何故財布?」

 俺は何となく理由を理解しつつもリリに聞く。
 すると、リリは手のひらを上に向けてフリフリと揺らすと、何やら楽しそうに微笑んだ。

「だって、お金持ってたら旦那様絶対に使っちゃうでしょ? だから、これからは買い物に行くときは私に声をかけて欲しくて。あ、クレジットカードもだからね?」
「まて。ちょっと待ってくれ。それはいくらなんでもやりすぎではなかろうか?」

 俺はその言葉で瞬時に頭がはっきりと覚醒した事を自覚すると、抗議する。
 が、リリはそんな俺の横をスルリと抜けると、俺のズボンのポケットから財布を抜き取ってしまった。

「だって、ふつーにしてたら会社に行くだけなのにお金なんて使わないよね? ご飯の材料だってしばらくは持つし、必要だったら私の方から頼むし。はい。これだけあれば足りるでしょ?」

 俺はリリから差し出された財布を慌てて取り戻すと、中を見る。
 札入れの中身は……ゼロ。
 カード入れの中には保険証と運転免許証のみ。
 小銭入れの中は……300円!!

「飲み物が2本しか買えねぇじゃねぇか!!」

 小銭入れの中身を見せつけながら迫る俺。
 300円じゃ150円のペットボトル2本分の金額である。
 しかし、そんな俺の顔を眺めた後、リリはフリフリと首を降る。

「2本じゃないよ。5本。旦那様の会社の食堂にあるカップの自販機だったら一番安い飲み物で60円でしょう? それで5本。それだけあれば一週間持つでしょ?」
「しかも、一日じゃなくて一週間分の小遣い!!」

 地味に“眼”を通して俺の会社の内情を理解している事もともかくとして、一週間で300円とか一ヶ月で1200円の小遣いという事になる。
 今時小学生でもこの金額の小遣いはないのではないだろうか?

「待て待て待て待て待て待て。ちょっと待ってよ。リリ様。確かに君にはお金の管理を任せたよ? でも、いくらなんでもこれはやりすぎだって。いくらなんでも家はそこまでお金に困ってないから」

 一体俺が前職でどれほど稼いだか知らないのか? 
 いや、俺の口座を見られるようになったリリならばそこまでちゃんと理解しているはずだ。
 にもかかわらずこの仕打ち。まさか、一昨日の事を未だ根に持っているのだろうか?
 しかし、俺の必死の懇願にもリリは「はあ~~」と長い長い溜息を吐いた後、俺を可哀想な人でも見るような目で見上げてくる。

「あのね旦那様。本当は私だってこんな事したくないよ? でも、昨日と一昨日に色々と旦那様のお金の事を調べていたら、すんごい事がわかったの」

 リリはそう言うと未だリリの顔の前に開いていた財布を閉じると、財布ごと俺の両手を包み込む。

「旦那様の使ってるクレジットカードの来月と再来月の請求額把握してた? 確かに半年前までは貯金も一杯あったみたいだけど、半年前から4ヶ月前まで収入が全くなかったよね? そこからは収入入るようになったけど、直後にものすごい額のお金が無くなって、その後もすごい勢いでお金がなくなってるんだよ。このままのペースで使ってたら、今の収入じゃ直ぐにお金が無くなるよ?」

 …………。
 でかい買い物はこの家だろう。
 そして、その後の出費に関しては、最初は仕方がないと半ば無視していたのも否定できない。
 しかし、いくらなんでも貯金を食いつぶす程カードを使いまくっただろうか?
 少なくともそんな感覚はなかったのだが。

「とにかく、今は出かけた方がいいんじゃない? 帰ってきたら色々相談したい事もあるけど、遅刻しちゃうから」
「……ああ。そうだな。わかった。この件は帰ってからじっくり話し合おう」

 俺はリリから財布を受け取ると少し急ぎ足で玄関を出る。
 俺はポケットに入れた財布のあまりの軽さに軽く絶望しながらも、ここ数日で完全にネットを使いこなしているリリの適応能力の高さに脱帽していた。
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