御伽噺の片隅で

黒い乙さん

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第六章 俺は魔女の能力を侮っていたのかもしれない

03 施錠が出来る唯一の部屋で

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 もしも、朝目を覚ましたら目の前に普段と違う状況になっていたら人間はどんな反応をするのだろう。
 そんな事を考える事など一生ないと思っていた俺だったが、まさかそれを自ら体験するとは思わなかった。

「…………」
「…………。……! ぬわぁ!!」

 いつもであれば、目が覚めた時に最初に飛び込むのは自室の天井かリリの体の一部である。
 基本的にリリは朝に弱いので、先に俺が起きてからリリを起こす……という段取りを踏むのだが、いかんせん俺自身も朝に弱いので二人してボケーとしながら着替えて部屋を移動するのが何時ものパターンなのだが、目が覚めたらいきなり目の前に金色の髪と真っ赤な瞳が覗き込んでいたら俺でなくても悲鳴をあげたに違いない。

 俺は一瞬で頭の芯まで覚醒すると、布団を這い出て上半身を起こした状態で振り返る。
 すると、そこには俺の顔を覗き込んでいたからだろう。布団の傍で正座して、覗き込むように首を曲げた状態の金髪がいた。
 
「…………朝からビビらすな。何をやってんだよお前……」

 まだ騒がしい心臓の位置に右手を当てながら訊ねた俺の声に反応したのか、金髪が「ギギギ」と音がしそうな程ゆっくりとした動作でこちらを向く。
 当然、紅い瞳が俺に向けられることになるのだが、何やらその焦点が合っていないように感じた。

「……その声は……ユウトか」

 だが、しばらく視線を泳がせた後にそう呟くと、グリンと視線がこちらを向く。
 正直少し怖かったが、金髪は何やら何度か強めに瞬きをすると、眠そうに大きな口を開けてアクビをした。
 相変わらず高貴とかそういうのとは無縁な奴だ。

「ふあぁ……。……? 何じゃ。主はそんな所で何をしておる? もう朝だというに」
「……そりゃこっちのセリフだ。朝起きたら目の前にお前の顔とか、何のホラーかと思ったぞ。しかもその様子だと寝てたのか? すごい寝相だな」

 俺は部屋を見渡しそう告げる。
 部屋に敷かれている布団は3つ。
 一つはさっきまで俺が寝ていた布団で、真ん中にリリ。リリを挟んで俺とは反対側に金髪の布団が敷かれてた。
 
 だが、何時もの如くリリは俺の布団に潜り込んで丸くなっているようで、俺の布団の中心が丸く膨らんでいた。
 そして、金髪がいるのはリリの布団の反対側。
 ようするに、フローリングの床に直接座って俺を覗き込んだ状態で寝ていたようだ。
 自分の布団から一番遠い場所でそんな格好で眠る理由を俺は知りたい。

「ん? ああ? おお」

 そんな俺の視線を受けて、金髪は胡乱な様子で首を周りに回していたが、やがて納得したのかこちらに顔を向けてもう一度大きなアクビをした。

「んん。どうやら夜中に一度起きた後にここで寝てしまったようだの。夜は暗い故一番強い灯りの傍に近づいてしまったのであろう。驚かせたならすまんの」
「灯り?」

 俺は周りを見渡した後に視線を天井に向ける。
 この部屋の光源というと天井の蛍光灯だけの筈だが、どうして俺の横が一番強い明かりなのか。

「何じゃその顔は? 妾が“灯り”と言うたら“魔力”の事であろうが。妾の瞳では夜は魔力以外殆ど見えんでな…………。ん?」

 魔力?
 いよいよ持って金髪が何を言っているのかわからない俺だったが、どうやら金髪の方も何か思う所があったらしい。
 考え込むように腕を組んだ後に膨らんだ布団に目を向けた後、不思議そうに俺に向き直った。

「……一番強い光に誘われたはずの妾が、何故主の傍に寄ったのじゃ?」
「俺が知るか。何だよ光とか魔力とか。それに、夜は魔力以外殆ど見えないだと?」

 「どういう事だ?」と、続けた俺に、金髪は思い出したように手を打つと、自分の紅い瞳を指さした。

「そう言えば言うておらんかったか。妾の体質での。生まれながらに魔力を見通す“眼”を授かったのじゃが、どうにもこいつは闇に弱くてのぉ。しかも、本来ならばこのような特異体質は片方の目のみ現れるものなのじゃが、どうにも妾は両目に現れてしまった故瞳に魔力を通さねば一人では暗闇もあるけんのよ。この瞳の色はその証のようなものじゃな」

 何だそれは。
 ひょっとしてあれか。漫画とかでよくある何とか眼みたいなやつか。

「お前って魔術師なの?」
「いんや。妾は魔法は使えん。魔力は持っとるがこの眼の制御の為にやむ無く身につけたに過ぎん。ほんにこのような忌々しい目のおかげで妾は小さな頃から────。いや、主には関係ないの。忘れるがいい」

 そう言うと金髪は立ち上がり、部屋の隅に向かって歩く。
 そして、振り向くと俺の布団に目を向けて顔を顰めた。

「……いつまでそんな場所で惚けておるつもりじゃ? 妾はこれから着替える故、そこの魔女を起こして部屋から出るがいい。それとも、また妾の肌を見るつもりか?」
「冗談抜かすな。お前の貧相な裸見た所で嬉しくもなんともないわ。それよりも、ここは俺とリリの部屋だって事理解してるか?」

 言いながらも俺は布団を捲くりあげ、布団の中央で丸くなっていたリリの体を揺する。
 その動きで半分目が覚めたのか、何時ものように俺の体にまとわりついてきたリリを抱き抱えている俺に向かって、金髪は更に険しい瞳を向けてくる。

「妾の部屋が現在使えないのじゃから仕方なかろうが。それとも、主は妾に外から覗かれる可能性があるリビングで着替えさせるつもりか? 相変わらずデリカシーがない男じゃの」
「それを言ったら、お前はそのリビングでリリを着替えさせようとしているわけだが?」
「どうせいつもその魔女は主の前で平然と着替えておるのじゃろ? どこでも大差ないわ」

 それだけ言うと後はもう言う事は無いとでも言うようにシッシッと追い払うような仕草を見せた金髪に背を向けると、俺はリリを抱き上げて部屋を出る。
 後ろ手に扉を占めると、何やらリリが俺の首筋をペロペロと舐めだしたが、何時もの事なので特に気にせずリビングに向かう。
 それよりも気になる事があるからだ。

「それにしてもあいつ。本当に何事もなかったように振舞ってきたなぁ」

 俺達の部屋で金髪が過ごすようになった理由は、昨日から工事のための準備が始まったからだが、あの不貞腐れた日の次の日の朝には既に何時もの金髪だった。
 
「嫌なことはすぐに忘れる質なのか? だとしたら羨ましい性格だな」

 ちなみに金髪の部屋のリフォームだが、平日のうちに工事の準備と段取りを済ませてしまい、土曜日に一気に終わらせる計画らしい。
 そうなると、今週一杯はいやでも金髪と顔を合わせ続けなければいけないという事で、険悪な雰囲気で接するよりはずっといいだろう。
 
 俺はそう考えるとリリを抱いたままリビングに向かった。
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