人生はままならない

野埜乃のの

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人生はままならない

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「おまえと番になることはない」

そんな言葉を浴びせられたのは、結婚式を終えて迎えた初夜。
政略結婚であり、番になる必要がないことは分かっていた。
だが自分にとって彼は初恋で。
少しでも情をかけてもらえたらと願ったが、そんな小さな願いも砕け散った。

ほとんど会話も交わさず半年経った頃、彼は屋敷に帰ってこなくなった。
国境でスタンピードが起き、彼の部隊も出征することになったと執事が言う。
戦に出るのに声を掛けることも許されなかったのだと落ち込み、屋敷に籠もることが増えた。

体調も悪くなる一方で耐えきれず医者を呼ぶと、子が宿っていることがわかる。
義両親は大いに喜び、温かい言葉をかけてくれる。久しぶりに気分は浮上したが、一番喜んでほしい人は傍にいなかった。

戦場にいる彼に手紙を認める。書くのはお腹の中の子供のことだけだ。返事は来ないが、送れるだけでも嬉しかった。
十月十日。義両親に励まされ、生まれたのは彼そっくりの男児。
盛大に祝われ、屋敷の中は赤子の泣き声で一気に賑やかになる。
だが彼が出征してから一年、訃報が届けられた。

スタンピードは終息し、王都では凱旋パレードが行われる。彼の同僚が遺品を届けに訪ねてきて、彼がいなくなったことを実感させられる。
こんなことになるなら嫌がられたとしても、もっと話しておけばよかった。泣いたとしてももう彼は帰ってこないのだと、後悔ばかりが募る。

それでも子供を育てるには前を向かなくてはならなかった。
彼の同僚は世話になったからと休みになると屋敷を訪れ、子供と遊んでは帰っていく。
過酷な戦場を生き抜きながらも笑みを絶やさない同僚に徐々に惹かれていく。
子供を見ると、新しい恋をすることへの罪悪感もあり、自分の感情を押し殺した。

しかし辺境の街で彼らしき人を見かけたという噂が流れる。詳しく聞くと、噂ではなく本当のことで、あるオメガと穏やかに暮らしているという。
そのオメガは彼の幼馴染らしく、愛人という関係を隠すために自分と結婚したのだと納得する。
だが義両親が訪れ、流れている噂は何かの間違いだと言い出した。

義両親が取り出したのは彼から送られた自分宛ての手紙だった。
手紙には彼が何度も人生をループしているという告白が綴られていた。どうやっても戦場で命を落としてしまうこと、愛した相手がその死で狂ってしまうこと。変えられない出来事なのだと。

番にならなかったのも、番を亡くしたオメガがどうなるかを知っていたから。
二人で迎える幸せな未来がないのならば、政略結婚とし恨みながらでもいいから生きて欲しい。
あなたを愛していた、と。

同僚はその話を聞いた上で自分の面倒を見ていて、あなたの気が変わればいつでも受け入れるつもりだったと告げる。だが彼が生きているなら別の話であり、会ってみるべきだと言われ、本心を知りたいと頷く。

幼い子供を抱えながら辺境の街に向かう。幼馴染と住んでいるという家に案内されると、迎えたのは彼だった。
子供を抱えた自分を見て、彼は狼狽えた。
「私の子なのか」
頷くと、能面のように表情のなかった彼の目からぽろぽろとしずくがこぼれた。

彼をどう慰めていいのかもわからない。今までなんの会話もしてこなかったのだ。
戸惑っていると、彼は当然のことだと苦笑する。
「あなたが生きたいように生きるといい。私にはあなたに愛を告げる資格がない」
新しい恋をするのなら子供は家で預かる。罪悪感など抱かなくていい。
そのために辺境の地にとどまっていたのに、義両親が混乱させるようなことをしたと謝る彼。
だがそんな彼に湧いてきたのは怒りだった。
「僕は諦められるような存在だったということですね」
彼は驚き目を見開く。
「生きているのに、戦場で抱いたような想いはもうなくなったとおっしゃるのですね」

違う、と彼は叫んだ。
「今すぐにでも抱き寄せたいに決まっているだろう!」
「ならすればいいではないですか。それともそちらの幼馴染の方と恋人だからできない――」
言い終わる前に子供ごと彼の腕に囲われていた。

「悪かった。一人で堪えさせて悪かった。みっともなくても、あなたに縋りついてでも、許しを請うべきだった」
つぅと頬を何かが伝った。それは彼の涙ではなく、自分のもので……
「はい、僕はあなたが何度も見たという世界を知りません。あなたと愛し合ったことももちろん知りません。僕はここに一人しかいないんです」
「その通りだ。すまなかった、私は愚かなプライドに囚われて、そんなことまで忘れてしまっていた」
涙を拭いながら、彼は痛々しそうに表情を歪める。
「もう心は決まっているということだな」
「はい。離婚しましょう」


離縁したあと彼は辺境から王都へと戻ってきた。
その目的はただ一つ。

「私とお付き合いくださいませんか」
彼は大輪の花束を持って、実家に出戻りした僕の下へとやってくる。そして跪いて愛を乞うのだ。

そして二年後、彼と僕は結婚式を挙げた。
間におしゃべりが達者になった二歳の息子を挟んで。

「とおさまとかあさまは、いわゆるこじらせなんです」

その達観したかのような言葉に、披露宴は笑いの渦に包まれた。

「人生はままならないな」
僕の横で彼はそう言って幸せそうに微笑んだ。


END
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感想 4

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みんなの感想(4件)

ななし
2025.11.29 ななし

幼馴染みと2人暮らしなら何もなかったなんてありえないよね
幼馴染みも関係者なのに言葉もないし
気持ちも分からない

2025.11.30 野埜乃のの

攻めは戦場で死亡扱いになっていたので、戻らないつもりではありました。
ツイノベだったのでいろいろ行き届いてなかったですね。
コメントありがとうございます!
(同じコメントがふたつ来ておりましたので、ひとつは削除させていただきました)

解除
リコ
2025.11.16 リコ
ネタバレ含む
2025.11.16 野埜乃のの

リコさんのおっしゃる通りで、離婚から友人→恋人とやり直すための二年でした。
元々ツイノベということもあって情報をそぎ落としていたので、ここまで読んでもらえるなんてとても光栄です。面白いと思ってもらえたことを嬉しく思います。ありがとうございます。

解除
sakamoto
2025.11.13 sakamoto
ネタバレ含む
2025.11.13 野埜乃のの

そう思われても仕方ないですよね…
同僚は夫に恩を返すだけだったので主人公に対する愛はなくて…難しいところなんです…
コメントありがとうございます!

解除

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