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14 存在確認
しおりを挟む「もう良い加減にしてください! 殿下は私とアリス嬢、どちらの方が大事なのですか!?」
ヒステリックな叫びが、法廷に響く。
声の主は左の席——検挙側にいるスカーレット嬢だ。
前回とは違い、彼女は大人しい格好をしていた。肩が膨らんだ袖のシャツに薄茶色のロングスカート。一つに纏めている金髪に丸縁のメガネをかけたスカーレット嬢は、まるで学校の教師のようだった。
スカーレット嬢はわんわんと泣きながら、扇とハンカチを片手に話し始めた。
「私が何度も何度も『王族としての立場』を進言しても、殿下は耳を貸してくださらない。改めるどころか、ついにはあの非常識な娘を庇う始末。幼き頃はいつか私の気持ちをわかってくださるはずだと耐え忍んできましたが、もう我慢の限界でございます!」
泣き顔から一転、キッと目を鋭くしたスカーレット嬢が、証言台に立っている被告人に扇を突きつけた。
「レオナルド殿下! 私とアリス、どちらを取るのかご決断ください!」
スカーレット嬢の言葉に、被告人であるレオナルド殿下は顔を青ざめた。
無言で俯いている彼に、スカーレット嬢はあからさまに苛ついている。そんな彼女を見て、右の席——弁護側にいるアリスが大声で笑った。
「いやだわ、スカーレット様。貴方、ほんと彼に興味がないのね。こんなときでも自分のお気持ちを表明するばかり。『私の気持ちをわかってくれるはず』? あはは、笑っちゃうわ! どうしてレオが自分勝手な婚約者を労らないといけないのかしら」
アリスは大きなフリルの付いたシャツに黒のジャケット、そして脚の曲線に沿ったズボンという服装だった。
女性としては珍しい——貴族にとってはふしだらな格好に、スカーレットが顔を真っ赤にして罵る。
「なんて……なんて、はしたない。仮にも淑女が殿方の真似事など! 非常識にもほどがあります。貴族としての自覚がないのですか貴女には!」
「お生憎さま。私は元平民ですから、スカーレット様のような高潔すぎる精神は持ち合わせていませんの。時代錯誤のお考えで他人の成すこと全て否定する人になんか、私はなりたくありませんけどね」
「時代錯誤……!? 貴族の常識や伝統を古い考えだと、そう仰せになりたいの? なんて無礼な! 身の程を弁えなさい!」
「あら、申し訳ありません。時代錯誤よりも、固定観念に縛られた思考だと言い直したほうがよろしかったですか?」
「この……!」
白熱していく口論は終わりが見えない。二人の間にいるレオナルド殿下は左右を交互に見ておろおろしていた。
——ああ、いつもの悪夢だ。
どうして二人が言い争っているのかわからない。
なぜレオナルド殿下がいつも煮え切らない態度なのかわからない。
いつも悪夢は突然で、わからないことだらけの場面を面白おかしく伝えようとしてくる。
わからない? 誰が?
伝える? 誰に?
ああ、うん、そうだ。私にだ。
——その私はいま、どこにいるのだろう?
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