『古本屋眞子、今日もレアものみつけました! ――オークション日記』

夢窓(ゆめまど)

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日本のオークションはすごい!

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『百円ワゴンの中に、未来があった』

ヤフーオークションを始めた頃、
なぜか松本零士の本がよく売れていた。

理由は、よくわからなかった。

ただ出せば売れる。
画集も、全巻も、古いシリーズも。

でも、それだけじゃなかった。

オークションを続けているうちに、
眞子は、ある違和感に気づく。

「あれ?
今まで売れなかったものも売れるけど、
逆に、ぜんぜん反応がないものもある……」

店頭では同じ“古本”。
値段も似たようなもの。

なのに、
オークションでは明確に差が出る。



◆気づいてしまった「百円ワゴンの正体」

ある日、ふらっと入った小さな古本屋。

入口に置かれた 100円ワゴン。

誰も気に留めない。
立ち止まりもしない。

そこに並んでいた本を見て、
眞子は、心の中でつぶやいた。

「……これ、ヤフオクなら売れるやつやん」

状態は悪くない。
タイトルも悪くない。
むしろ、探している人はいるはず。

でも店頭では——
一律100円。

別の店でも、同じ光景を見た。
大きなチェーン店でも、同じ。

“回転しない本”は、
価値があっても、ワゴン行き。

そこに、市場のズレがあった。



◆売り場と、オークションは、別の世界

店の棚は、
「今すぐ売れるもの」を置く場所。

オークションは、
「探している人が現れる場所」。

眞子は、はっきり理解した。

売れない本=価値がない、ではない。
売る場所が違うだけ。

それからは、
自分の店だけでなく、
他店のワゴンも、静かに見るようになった。

安い理由を、ちゃんと考える。

・なぜ売れ残っているのか
・誰なら欲しがるのか
・どこに出せば、値段がつくのか

オークションは、
“値段を決める場所”ではなく、
“価値を見つける場所” だった。



◆そして、声がかかった

ヤフオクで、
少しずつ成果が出始めた頃。

一通の連絡が入る。

「世界最大のオークションサイト
eBay(イーベイ)ですが、
当サイトで出品してみませんか?」

オークションの世界一。
世界中が相手。

眞子は、思った。

「……ああ。
ヤフオクで起きてたことって、
世界でも起きるんや」

それが、
eBayとの出会いだった。

偶然ではない。

百円ワゴンの中にあった
“見過ごされていた価値”が、
ここへ連れてきたのだ。



『終了五分前の世界 —— オークションが一番楽しかった頃』

ヤフオクというオークションサイトは、
当時、固定価格なんてなかった。

あったのは、ただひとつ。

オークション。

いつ終わるかを設定して、
そこにファンが集まる。

欲しい人が、
少しずつ、少しずつ、
値段を積み上げていく。

それが、ヤフオクの基本だった。



◆終了五分前の緊張感

眞子は、よく画面を眺めていた。

終了五分前。

もう入札は入らないだろう、
と思っていたら——

ピン。

誰かが入札する。

すると、終了時間が延びる。

「あ、延長した」

さらに、
ピン。

また延びる。

「おお……来た来た……」

自分が売っている商品なのに、
まるで観客のような気分で見ていた。

誰が競っているのかは、わからない。
でも“本気の人”がいるのは、わかる。

終了を待って、
最後の一瞬で入札する人。

その駆け引きを、
ただ眺めるのが、楽しかった。



◆え、コミック一冊で十万円?

時には、信じられない光景もあった。

コミック一冊。
十万円超え。

「……え?
一冊で?
十万??」

画面を見つめて、
思わず声が出る。

「金持ちや……」

いや、
お金持ちというより、
それだけ“欲しい人”がいる世界なのだ。
うちでは、その本仕入れられへんけどね。レア中のレアだ

日本では、
古本は安いものだった。

でも、ヤフオクでは違った。

欲しい人が集まれば、
値段はどこまでも伸びる。

それを、リアルタイムで見られる。



◆オークションは、エンタメだった

ヤフオクのオークションは、
ただの売買じゃなかった。

見ているだけで楽しい。

・誰が入札するか
・どこで止まるか
・最後にひっくり返るか

まるでスポーツ観戦みたいだった。

「今日はどこまで行くんやろ」

「お、まだ伸びるな」

「あ、ここで止まったか」

売る側なのに、
一緒になってドキドキしていた。



◆今だから言えること

あの頃は、
**“オークションそのものが主役”**だった。

ファンが集まり、
競り合い、
時間を共有する。

それが楽しかった。

効率は悪かったかもしれない。
手間もかかった。

でも——

とても、面白かった。

眞子は、
あの終了五分前の緊張感を、
今でも忘れない。


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