『古本屋眞子、今日もレアものみつけました! ――オークション日記』

夢窓(ゆめまど)

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古本屋の交換会

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日本全国で古本屋が共同で行う古本屋市
市メンバーになると、市に参加できる。
眞子が参加する市は、振り市
いわゆる発声によるというセリ、
厳しい市に参加している。
声出して価格を競り上がるのだ。躊躇しては、ダメなのだ。

振り市は、合図とほぼ同時に始まる。
本の束が次々と専用の台に振られ、
ページの匂いと埃の舞う音だけが、静かに空気を震わせた。
50人ぐらいの古本屋店主が台を囲む。

台の上に、一回多い時は、500冊ぐらいの本が載る。
部屋いっぱいの本やサブカル、
おもちゃなどが、次々と振られる。

私は、目だけで判断する。
触れる前に、状態とジャンルを読み取る。
千冊あれば千冊、
その束が“買い”か“専門外”かを、数秒で決めなければならない。

「今日も来たね。負けるなよ?」

からかうような声が背中越しに飛んでくる。
あおりも、釣り上げも、日常。
でも、動じてはいけない。
この一瞬で迷うと、利益は消える。

私は声を挙げた。
束の中の三冊だけが“光って見えた”からだ。

周囲がざわついた。
「おお、やるなぁ、それ売れるの?」
「やるねぇ」
「じゃ、次回、うちも持ってくるか」

声が飛ぶ。
だが、私は動じない。

これは勝負ではなく、仕事。
この場での判断は、今日の売上を決める。

落札の声が鳴いた。
私の前に積まれた本の山。

一見、ただの紙の塊。
だが、この中には確かに、
“世界のどこかへ届けられる宝”が眠っている。

私はそれだけを信じて、次の束へ目を向けた。

振り市の束が降り台に振られた瞬間、
私は値段を考える。

――いくらなら買う?
――いくらまで追う?
――この量を仕事スケジュールで捌けるか?

頭の中で数字が次々と走る。
欲しい本は、いっぱいあるが、
海外用は、ほぼない。

海外向けに出れば、仕入れの半分は、廃棄だ。
残りは日本で売るか廃棄だ。

「どうする?」


背中で誰かがあおる声がした。
聞こえないふりをする。
乗せられると利益が消える。

私は一度、深く息を吸った。
この判断を誤ると、今日が赤字になる。
でも――ここは勝負どころだ。

「……10000」
「落札!」

私は手を挙げた。
その一秒の決断が、今日の売上を決める。

束の山は、今日もほとんどが売れ残りだ。
日本では動かない本ばかり――
でも、その中に一冊だけ、光って見えるものがあった。

古びた背表紙に“SHAKESPEARE”の文字。
状態は悪くない。再版ではあるけれど、解説者が古い。
日本の市場じゃ値段はつかない。
けれど、私は知っている。

──これは、ヨーロッパなら売れる。

ドイツの演劇大学、
フランスの舞台芸術の学生、
イギリスの地方劇団。

誰かがこれを必要としている未来が、すぐに浮かぶ。

「買いね」

私は小さくつぶやいて声を挙げた。
周りがあおる声も、値を釣り上げる動きも、聞こえないふりをする。
売れる場所を知っている者だけが、この一冊の価値をつかめる。

発声の声が鳴いた。
落札された束が、足元に積まれる。

その中の“たった一冊”が、
今日の仕入れを決めた。


<ヤフオクが始まって、世界が変わった。>

ヤフオクが始まって、世界が少し変わった。

――えっ、この漫画、こんなに高く売れるの?

最初は信じられなかった。
でも毎日ウォッチしていると、だんだん見えてくる。

「この漫画、もう一度読みたい」
「この作家だけは手放したくない」

そんな購入者の“気持ち”が、落札価格にそのまま出るのだ。

人気の漫画は、高値がついても落ちない。
むしろ、どんどん上がっていって、そのまま“上がった定価”みたいに落ち着く。

気づけば、私は完全に理解していた。

――あ、この作家、値段落ちないな。
 ――この巻、次はもっと高値になるな。

そうやって市場を見続けているうちに、
一つの新しいジャンルが生まれた。

<ビンテージ漫画。>

新品より高く売れる本がある世界。
読むだけじゃなく、“価値”としても愛される世界。

そして私は、その世界の片隅で、
今日も静かに本を見つめている。


<眞子が“物の価値”を学んでいく>

この頃からだろうか。
「セドリ」という言葉が急に広まったのは。

本の背表紙を見ただけで──
「あ、これは売れる」
そう判断してカゴに入れていく人たち。

けれど彼らが買うのは、本だけじゃない。
ヤフオクに出すための“高値になる商品”を、
安く仕入れて、高く売る。
そんな新しい稼ぎ方を、みんながこっそり始めていた。

仕事帰りにブックオフへ寄る。
棚をなぞりながら、二、三冊だけ選ぶ。
千円で買って、二千円で売れるかもしれない。

たった千円。
でも、その“千円”が嬉しい。

「よし、明日の弁当はちょっと豪華にしよ」

そんな小さな幸せを支える、お金の流れがそこにあった。

私はそのとき、初めて気づき始めた。

――物には、“値段とは別の価値”があるんだ。
  誰かが欲しいと思う瞬間に、価値は生まれるんだ。

そして、古本屋眞子の“物の目利き”は、
ここから静かに育っていくことになる。

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