愛される女と利用される女 ~すぐ怪我する義妹と心配する王子、私はお見合いで何を見せられているのでしょうか~

夢窓(ゆめまど)

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愛されなかった過去を思い出した。

王太子妃でありながら、男を連れ込み、享楽的な遊びをする。

そんな噂が流された。
王太子妃に相応しくない女、ハーミヤ。
宮廷中に、その噂は広がった。誰が流したのか、誰も言わなかった。ただ、気づいた時には、もう広まっていた。 

そして。
王太子の義妹を殺そうとした罪で捕らえられ――
殺された、ハーミヤ。

証拠も証人も、すべて揃っていた。

ハーミヤが好きになったのは、ナルナ王子。
宮廷の誰もが振り返る、抜きん出た美貌の持ち主だった。金糸のような髪、切れ長の瞳。笑えば場が華やぐ、そんな男だった。
私は、その笑顔に恋をした。
愚かなことに。

妻になり、愛されていると信じていたから、でも、あんまり愛されてなかったかもしれないけど、妻であることに、満足していた。

ある日、裏切られた。
それが――こんなにも、深く刺さるとは思わなかった。

愛していたから、疑わなかった。疑うことを、知らなかった。いや、正確には――疑いたくなかった。あの笑顔が嘘だと、認めたくなかったのだ。

その恋は――
彼の義妹、ミイティによって踏みにじられた。

ミイティ。

小柄で、華奢で、栗色の髪、黒い瞳、いつも何かに怯えたように目を伏せる娘だった。ナルナ王子の義妹として宮廷に入ってきたその日から、私は彼女が苦手だった。理由はうまく言えない。

ただ――何かが、引っかかった。
その直感は、正しかった。
ただ、気づくのが遅すぎた。

ミイティは泣きながら言った。

「ハーミヤ様が、私を殺そうとしました!」
透き通るような声で、涙を流しながら、彼女は訴えた。震える唇、伏せた睫毛、か細い肩。何もかもが、哀れみを誘うように計算されていた。

証拠も証人も、すべて用意されていた。

見事なものだった、と今なら思う。どれだけの時間をかけて、あの罠を仕込んだのだろう。私が動くたびに、私の言葉のひとつひとつが、すでに彼女の手の中にあったのだ。

仕組まれた罠。

そして私は――
あっけなく処刑された。

ナルナ王子は、ただ黙って見ていた。
あの瞬間を、私は一生忘れない。
処刑台の上から見えた、ナルナの顔。怒りも、悲しみも、迷いも――何もなかった。

ただ、静かだった。まるで他人事を眺めるような、穏やかな目をしていた。
ああ、と思った。
この男は最初から、私を愛していなかった。

私は死んだ。
確かに、あの時――首を落とされた。
冷たい刃の感触を、私はまだ覚えている。
恐怖よりも先に来たのは、怒りだった。悲しみでも、後悔でもなく――ただ、怒り。燃えるような、澄んだ怒りだった。

なのに。
「……え?」
起きたら首が、ある。
私は思わず自分の喉に触れた。

指先に伝わるのは、体温と、脈。ちゃんと、つながっている。血もない。痛みも、ない。
それどころか――
鏡に映る私は、若い。
「髪……長い?」

処刑された時は、髪も切られ、肩までだったはずだ。なのに今、鏡の中の私の髪は、腰まで届いている。処刑される前に、罪人の証として切り落とされた、あの髪が――戻っている。

ここは――
処刑台じゃない。

王都の自分の部屋。
窓の外には、見慣れた中庭の景色。磨かれた床、整えられた調度品。何もかもが、あの頃のままだった。

まさか。
「……逆行?」
胸の奥が、冷たく笑った。
自分の身に起こるとは思ってなかった。
物語の中だけだと、思っていた。

そうか。
私は――
もう一度、やり直せるのね。

今度こそ。
ミイティ。
あなたと王子と関わらないのよ。

私は、悪女だったのだろうか。
部屋の静寂の中で、私は自問した。

宮廷では、そう呼ばれていた。男を手玉に取る女。人を利用する女。媚びを売って成り上がった女。そんな噂が、私の背後にはいつもついて回った。

違う。
ただ――
クズ男を、愛してしまっただけだ。
ナルナ王子。

たいそうな男前で、誰にでも優しく笑う男。初めて会った日、彼は私に微笑みかけた。特別な笑顔だと思った。自分だけに向けられたものだと、信じて疑わなかった。
だから私は、勘違いした。
あの笑顔が、自分に向けられているのだと。

でも違った。
あの男は、誰のものにもならない。ただ都合よく女を使うだけの男だった。愛しているふりをして、利用して、不要になれば切り捨てる。ナルナ王子にとって、私はその程度のものだったのだ。

そして私は――
彼の義妹ミイティに嵌められ、殺された。
「ミイティを殺そうとした罪」
そんな馬鹿げた罪で。

ナルナ王子は何も言わなかった。ただ、黙って見ていただけ。弁護も、疑問も、一言も。まるで、最初からそうなることを知っていたかのように。

――あるいは本当に、知っていたのかもしれない。
処刑台の上で、私は思った。
ああ、この男を愛したのが、私の間違いだった。

――そして今。
私は生きている。
首も、体も、ちゃんとつながっている。鏡の中の私は、若い。怒りも、悲しみも、全部覚えている。あの処刑台の感触も、ナルナの無表情も、ミイティの涙も。
何もかも、忘れていない。 

そうか。
やり直しなのね。
なら、決めた。 

もう二度と――
あの男を愛したりしない。

そしてもう一つ。
私は小さく笑った。
鏡の中の私が、笑い返した。若く、美しく、そして――かつてとは違う目をして。
この人生は、私のものだ。

今度こそ、誰にも奪わせない。


私の名はハーミヤ・スミッシィ。
公爵家令嬢である。
公爵家のひとり娘。莫大な資産と、大きなワイナリー。子供の頃から、ワインの香りの中で育った。
気づけば、テイスティングで飲み分けができるほど、ワインに精通していた。

遠縁のルドックも、ワインに詳しい。よく二人で、グラスを傾けながら、味について語り合っていた。それが当たり前の日常だった。
そんな私が、今度も王子の妃候補になった。
お見合いの打診が届いた時、私は正直、
ワインの話の途中だった。

ハーミヤ・スミッシィ。
公爵令嬢らしく、整った顔立ちと豊かな金の髪。スタイルも申し分ない。傍から見れば、王子妃に相応しい令嬢だろう。
ただ――

ワインの飲みすぎで、朝は少し頬が赤いのが、玉に瑕だった。​​​​​​​​​​​​​​​​
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