ピアノはまだ悲しみを弾いている

夢窓(ゆめまど)

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第2章:音と魔法の出会い

第8話 剣の誓いと、片想いの終わり

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 騎士団主催の剣術試合――
 その会場には貴族や士族の若者たちが集い、春の空の下、白熱した戦いが繰り広げられていた。

「……始まったわ」

 観客席の片隅で、セリアは両手を膝の上で組み、真剣な眼差しで闘技場を見つめていた。

 ノア・フェルディナンド。
 公爵家の次期当主にして、学園でも成績・剣術ともにトップの青年。
 そして、姉の婚約者。

(ずるいわ、姉さま……)

 セリアの胸には、何度も諦めようとした気持ちが、まだほんの少しだけ残っていた。

◇ ◇ ◇

 ノアの剣の動きは、美しかった。
 流れるような所作と、確実な一太刀。
 静かで、冷徹で――でも、どこか温かい。

「……やっぱり、あの人は……姉さましか見ていないのね」

 決勝戦を前に、ほんの数分だけ設けられた休憩。
 その間、ノアが手にしたカモミールの小袋を、セリアは遠くから見ていた。

 そして気づいた。
 ――彼がずっと心に抱いていたのは、自分じゃない、と。

 決勝戦が始まり、剣と剣がぶつかる音が空気を震わせる。
 観客の歓声。緊張。高鳴る心音。

 そして――勝者の名がコールされた。

「優勝者、ノア・フェルディナンド!」

 剣を収めたノアの背中は、ひときわ大きく見えた。
 その手には、勝者に捧げられるはずの、白と青の小さな花冠。

(どうせ、姉さまに渡すんでしょう?)

 そう思っていたはずなのに、なぜか涙は出なかった。
 むしろ、清々しさすら感じていた。

(あの人の心は、姉さまにある。――それなら、いい)

 セリアは立ち上がり、拍手を送った。
 美しく凛とした姉に。
 そして、姉の隣にふさわしい男に。

 これで、やっと。

「……私の片想いは、今日でおしまいよ」

 そう口に出してみると、不思議と心が軽くなった。
 苦しかったはずの気持ちが、風に乗って遠くへ流れていくようだった。

◇ ◇ ◇

「セリア嬢、お帰りになりますか?」

 迎えの馬車の前で声をかけたのは、家庭教師のエリオットだった。
 優しい目をしていて、勉強になる話ばかりする人。

(この人となら、少しずつ……未来のことを考えてもいいのかもしれない)

「……はい、帰りましょう。
 ……でもまずは、お祝いを言わなきゃ。ノア様に、“優勝おめでとう”って」
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