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最終章 ふたりで選ぶ、これからの未来
第18話 音楽祭のステージへ――“ふたりで奏でる”ということ
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音楽祭のステージへ――“ふたりで奏でる”ということ
初夏の風がそよぐ、城下町の中央広場。
年に一度の音楽祭――各家の子女たちが集い、演奏や合唱を披露する貴族主催の祭典だ。
ただの娯楽ではない。
この場は、家の名誉と、将来を左右する社交界デビューのような意味も持つ。
「公爵令嬢リゼル・アルセリオ嬢、そして公爵令息、ノア・レインズ殿による、演奏です――」
司会の声が響くと、会場にどよめきが広がった。
「えっ、あの公爵令嬢と、ノア様が?」
「普段はあまり社交の場に出ないはずなのに……」
リゼルは静かに息を整えた。
舞台袖で、彼女の手をぎゅっと握ったのは、隣に立つノアだった。
「震えないか?」
「……ちょっと。でも、大丈夫。あなたと一緒なら」
ピアノの前にリゼルが座ると、周囲の喧騒がすうっと遠ざかる。
始まりの音はリゼルのピアノ――
それはかつて、悲しみを弾いていた旋律。
でも今は、新しい希望の予感をまとった旋律だった。
ノアのバイオリンが重なる。
正確でありながら、どこか震えるような、あたたかい音。
ふたりの音が重なり、ひとつの旋律になるとき、
広場のざわめきは止み、風さえも演奏に耳を傾けているようだった。
――ああ、今、確かに。
悲しみだけだったはずの音が、
こんなにもあたたかく、力強く響いている。
ノアの音がリゼルを支え、リゼルの音がノアを導く。
終わりの和音が鳴り響いたとき、
会場は、しばらくの静寂のあと、嵐のような拍手に包まれた。
リゼルは震える指先をそっと重ねながら、ノアの横顔を見た。
「……ありがとう。あなたとだから、ここまで来られた」
ノアは少し照れたように目を伏せ、それでも真っ直ぐに返す。
「こっちこそ。お前の音があったから、俺は……」
その続きは言葉にならず、けれど視線だけがすべてを伝えていた。
初夏の風がそよぐ、城下町の中央広場。
年に一度の音楽祭――各家の子女たちが集い、演奏や合唱を披露する貴族主催の祭典だ。
ただの娯楽ではない。
この場は、家の名誉と、将来を左右する社交界デビューのような意味も持つ。
「公爵令嬢リゼル・アルセリオ嬢、そして公爵令息、ノア・レインズ殿による、演奏です――」
司会の声が響くと、会場にどよめきが広がった。
「えっ、あの公爵令嬢と、ノア様が?」
「普段はあまり社交の場に出ないはずなのに……」
リゼルは静かに息を整えた。
舞台袖で、彼女の手をぎゅっと握ったのは、隣に立つノアだった。
「震えないか?」
「……ちょっと。でも、大丈夫。あなたと一緒なら」
ピアノの前にリゼルが座ると、周囲の喧騒がすうっと遠ざかる。
始まりの音はリゼルのピアノ――
それはかつて、悲しみを弾いていた旋律。
でも今は、新しい希望の予感をまとった旋律だった。
ノアのバイオリンが重なる。
正確でありながら、どこか震えるような、あたたかい音。
ふたりの音が重なり、ひとつの旋律になるとき、
広場のざわめきは止み、風さえも演奏に耳を傾けているようだった。
――ああ、今、確かに。
悲しみだけだったはずの音が、
こんなにもあたたかく、力強く響いている。
ノアの音がリゼルを支え、リゼルの音がノアを導く。
終わりの和音が鳴り響いたとき、
会場は、しばらくの静寂のあと、嵐のような拍手に包まれた。
リゼルは震える指先をそっと重ねながら、ノアの横顔を見た。
「……ありがとう。あなたとだから、ここまで来られた」
ノアは少し照れたように目を伏せ、それでも真っ直ぐに返す。
「こっちこそ。お前の音があったから、俺は……」
その続きは言葉にならず、けれど視線だけがすべてを伝えていた。
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