『白い結婚のはずでしたが、夫の“愛”が黒い。 限界突破はお手柔らかに!』

夢窓(ゆめまど)

文字の大きさ
6 / 25

朝食時のばたばた

しおりを挟む
翌朝の別宅の食堂。
朝日が入り、広いテーブルにはパンとスープ、サラダが並ぶ。

カレン(3歳)はすでに絶好調。
サリー(乳母)が後ろで「今日も元気ねぇ…」とため息をついている。

ジュディは優雅にパンを切りながら、ちらっとカレンを見る。

「カレン、口に食べ物を入れたまま喋らないのよ?」

「はーい! あむっ!」

その瞬間——

ポーン!

カレンのフォークから跳ねたウインナーが、
綺麗な放物線を描いて……

ぽちゃん。
タイロンのスープに着水。

タイロン「……」

ジュディ「……ぷっ」

サリー「カ、カレンちゃあああん!!」

カレン「……あ、ごめんなさい……?」

タイロンはスプーンを握ったまま固まっている。

(俺の……朝の……スープ……)

だが、怒れない。
カレンは兄ルデルの子であり、
自分が“責任を取れ”と押しつけられた大切な姪だ。

タイロン「……へーき。新しいスープもらうから」

サリー「申し訳ございません旦那さま!すぐお下げします!」

ジュディはウインナーの落ちたスープ皿を見て、
こっそり笑いを噛み殺す。

「タイロン、ウインナースープも悪くないわよ?」

「笑うな……!」


カレンは元気を取り戻し、パンをかじる。

「ジュディ、昨日のドレスきれいだった!
 きらきらして、妖精みたいだった!」

ジュディ「ありがとう」

タイロン(妖精って…ダナー公爵の晩餐会のことか?
      あの後もピンピンしてたし……妖精どころか魔物だろ……)

その時、またカレンがパンをもぐもぐしながら手を振る。

「ジュディ、ねぇ聞い——」

パンくずがタイロンの顔にぱらぱら。

タイロン「ッ……!」

サリー「カレンちゃん!!パンは振るのではないよ!!」

ジュディは涼しげに言う。

「タイロン、顔にパンくずついてるわよ。ほら」

ティッシュを渡す。

タイロン「……ああ。ありがとう……」

(くそ……なんで俺だけ集中攻撃なんだ……?
 この家、俺の味方いねぇ……)

ジュディは、また出かける支度を始める

朝食後、ジュディは立ち上がりながら言う。

「今日は昼から会食があるの。また帰りは遅くなると思うわ」

タイロン「……また?
誰と?」

思わず聞く。

ジュディ「言わないわよ。契約で」

タイロン「……っ」

カレン「タイロンおじちゃん、やきもち?」

タイロン「焼いてない!!」

サリー(焼いてるな……)

ジュディは小さく笑って、
カレンの頭を撫でて出かける支度へ。



その日の夕食後。
カレンが寝て、サリーも部屋に戻り——
居間には、タイロンとジュディだけが残っていた。

タイロンは、ずっと気になっていた疑問を、
ついに口にしてしまう。



▪️タイロン(我慢の限界)

「……なぁ、ジュディ。
 その……さ」

ジュディ「なに?」

「お前さ……夜にまた出かけてただろ。
 あの……男と」

ジュディ「…………?」

タイロンは妙にムキになって言った。

「毎日違う男と出歩いて……
 派手にやってんじゃないかって噂だよ。
 とっかえひっかえ、お盛んだってね?」

部屋の空気が一瞬で凍りつく。

ジュディはゆっくりと椅子から立ち上がり、
軽蔑のこもった目でタイロンを見下ろした。

そして、一発、見事に!

ジュディ(氷点下の声)

「……いま、なんて言ったの?」

タイロン「……だ、だから……」

「とっかえひっかえ?
 お盛ん?
 私が?」

タイロン「だって事実、男と——」

ジュディは、完璧な貴族の礼儀で、
しかし言葉は刺すように冷たく言った。

「あなたとは、話す価値もないわ」

そのままくるりと背を向ける。

「聞かれなかったから言わなかっただけ。
 あなたが私に何を言おうが、
 私は契約を守るだけよ」

扉に歩きながら、最後に一度だけ振り返る。

「……次に私を侮辱したら、
 “契約不履行”で、あなたの兄のところに返すわ」

タイロンは息を呑む。

(……兄のところに返される?
 それは……まずい。いや、本気でまずい)

ジュディは静かに部屋を出て行く。

扉が閉まる音が、
タイロンの胸にやけに重く響いた。




翌朝の地獄:カレンの純粋ギロチン

翌朝。
別宅の食堂では、いつも通りサリーが朝食を並べている。

ジュディは淡々とパンを切り分け、
昨日の怒りなど微塵も見せない“完璧な無表情”。

タイロンだけが胃痛で死にそうだった。

(……やべぇ……まだ怒ってる……
 っていうか俺、完全に無視されてる……?)

カレン(3歳)は元気いっぱい。

「きょうは~!パンがあったかーい!あむっ!」

ポロリとパンくずがまたタイロンの皿に落ちる。

タイロン「(……もう何でもいい……俺は罰を受けるべきだ……)」

サリー「カレン、パンは落とさないのよ」

カレン「はーい!」

そして、次の瞬間。

カレンはタイロンの顔をじーっと見つめた。



カレン(純粋な破壊力)

「ねぇ、タイロンおじちゃん」

タイロン「……な、なに?」

「ゆうべジュディに……
 おこられたの……?」

ぐふっ。

タイロンのHPがゼロになる音がした。

ジュディは紅茶を口に運びながら、
視線を上げることなく淡々とした口調で言う。



ジュディ(氷点下キープ)

「怒っていないわ。
 ただ、話す価値がないってだけよ」

タイロン「ッ!!」

サリー(わかる……旦那様が悪い……)

カレンはさらに追い打ちをかける。



カレン(純粋すぎる斬撃)

「タイロンおじちゃん、
 ジュディ、泣かせたの?」

タイロン「泣かせてない!!!
 いや泣いてないよね!?泣いてないよねジュディ!!?」

ジュディ「泣いていないわ。
 ……呆れただけよ?」

タイロン「ぐああああああ!!」

カレンはパンをもぐもぐしながら言う。

「じゃあ……ごめんねって言った?」

サリー「言ってませんねぇ旦那さま」

タイロン「サリー!?仲間じゃないの!?」

サリー「私はジュディおくさま側ですから」

ジュディ「サリー、パン追加お願い」

サリー「はいおくさま」

タイロン(完全に俺だけ敵陣……!!)

カレンは最後に小声でタイロンの袖を引っ張る。



カレン(とどめ)

「タイロンおじちゃん……
 ジュディ、きのう、さみしい顔してたよ?」

タイロン「…………ッ!!」

ジュディが紅茶を置く手が一瞬だけ揺れた。

だが何も言わず、
「いただきます」と静かに朝食を続ける。

タイロンは、自分がしたことの重さにようやく気づき始める。

(……俺、本当にとんでもないことを言ったのかもしれない……)



カレン
「あれ? タイロン、ほっぺに
 おててのもよう、ついてるよ?」

タイロン
「……そうか?」

カレン
「うん! ここ。
 どうやったら、そんなのつくの?
 カレンも、してみたいな」

タイロンは一瞬、言葉に詰まってから、視線を外した。

タイロン
「……知らなくていいよ」

カレン
「えー? なんで?」

タイロン
「大人になると、
 勝手につくこともあるんだ」

カレンは少し考えて、首をかしげる。

カレン
「ふーん……じゃあ、
 カレンはまだ、いいや」

その無邪気な一言に、
タイロンの頬に残る“跡”が、
なぜか余計に意識されてしまった。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

君が幸せになりたくなくても

あんど もあ
ファンタジー
来年には王立学園を卒業する伯爵家嫡男のライアンは、いい加減に婚約者を見つけないといけない。そんなライアンが新入生のクリスティナを好きになって婚約するのだが、実はクリスティナは過去の罪の贖罪のために生きていた。決して喜びや楽しさを求めず、後ろ向きに全力疾走しているクリスティナにライアンは……。

どんなあなたでも愛してる。

piyo
恋愛
遠征から戻った夫の姿が変わっていたーー 騎士である夫ディーノが、半年以上の遠征を終えて帰宅した。心躍らせて迎えたシエラだったが、そのあまりの外見の変わりように失神してしまう。 どうやら魔女の呪いでこうなったらしく、努力しなければ元には戻らないらしい。果たして、シエラはそんな夫を再び愛することができるのか? ※全四話+後日談一話。 ※毎日夜9時頃更新(予約投稿済)&日曜日完結です。 ※なろうにも投稿しています。

精霊姫の追放

あんど もあ
ファンタジー
栄華を極める国の国王が亡くなり、国王が溺愛していた幼い少女の姿の精霊姫を離宮から追放する事に。だが、その精霊姫の正体は……。 「優しい世界」と「ざまあ」の2バージョン。

結婚初夜、「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と夫に言われました

ましゅぺちーの
恋愛
侯爵令嬢のアリサは婚約者だった王太子テオドールと結婚した。 ちょうどその半年前、アリサの腹違いの妹のシアは不慮の事故で帰らぬ人となっていた。 王太子が婚約者の妹のシアを愛していたのは周知の事実だった。 そんな彼は、結婚初夜、アリサに冷たく言い放った。 「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と。

『白い結婚』が好条件だったから即断即決するしかないよね!

三谷朱花
恋愛
私、エヴァはずっともう親がいないものだと思っていた。亡くなった母方の祖父母に育てられていたからだ。だけど、年頃になった私を迎えに来たのは、ピョルリング伯爵だった。どうやら私はピョルリング伯爵の庶子らしい。そしてどうやら、政治の道具になるために、王都に連れていかれるらしい。そして、連れていかれた先には、年若いタッペル公爵がいた。どうやら、タッペル公爵は結婚したい理由があるらしい。タッペル公爵の出した条件に、私はすぐに飛びついた。だって、とてもいい条件だったから!

あなたの片想いを聞いてしまった夜

柴田はつみ
恋愛
「『好きな人がいる』——その一言で、私の世界は音を失った。」 公爵令嬢リリアーヌの初恋は、隣家の若き公爵アレクシスだった。 政務や領地行事で顔を合わせるたび、言葉少なな彼の沈黙さえ、彼女には優しさに聞こえた。——毎日会える。それだけで十分幸せだと信じていた。 しかしある日、回廊の陰で聞いてしまう。 「好きな人がいる。……片想いなんだ」 名前は出ない。だから、リリアーヌの胸は残酷に結論を作る。自分ではないのだ、と。

真実の愛は水晶の中に

立木
恋愛
学園の卒業を祝うパーティーの最中、レイシア・マレーニ侯爵令嬢は第三王子とピンク髪の女、その取り巻きたちによって断罪されようとしていた。 しかし断罪劇は思わぬ方向へ進んでいく。 ※「なろう」にも重複投稿しています。

悪女の最後の手紙

新川 さとし
恋愛
王国を揺るがす地震が続く中、王子の隣に立っていたのは、婚約者ではなかった。 人々から「悪女」と呼ばれた、ひとりの少女。 彼女は笑い、奪い、好き勝手に振る舞っているように見えた。 婚約者である令嬢は、ただ黙って、その光景を見つめるしかなかった。 理由も知らされないまま、少しずつ立場を奪われ、周囲の視線と噂に耐えながら。 やがて地震は収まり、王国には安堵が訪れる。 ――その直後、一通の手紙が届く。 それは、世界の見え方を、静かに反転させる手紙だった。 悪女と呼ばれた少女が、誰にも知られぬまま選び取った「最後の選択」を描いた物語。 表紙の作成と、文章の校正にAIを利用しています。

処理中です...