『白い結婚のはずでしたが、夫の“愛”が黒い。 限界突破はお手柔らかに!』

夢窓(ゆめまど)

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タイロン、ルデルに初キレる

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仕事終わりの夕方。
タイロンとジュディが並んで帰宅し、玄関をくぐった直後。

執事
「タイロン様、奥の応接室に“お兄様”がお待ちです」

タイロン
(……なんでここに……?)

ジュディは空気を察し、軽く会釈して距離を取ろうとした。

だが、応接室の扉を開けた瞬間——
ルデルが、最悪のタイミングで口を開いた。



◆ルデル、あからさまにジュディを見下す

ルデル
「……お前、本当に“こんなの”と暮らしているのか?」

ジュディ「…………」

タイロン
「ルデル。今のは——酔ってるのか?」

ルデルは、ジュディの服装から髪型まで、
一瞬で値踏みするように見て鼻で笑う。

「平民の教育係上がりだろ?
 そんな女を“シーラン家の奥方”の仮面を被せるとは。
 侯爵家よく恥を忍べたものだ」

ジュディは、微かに呼吸を止めた。
だが表情は保つ。
彼女は“侮辱に慣れている顔”をした。

その無言が、逆にタイロンの胸を刺す。



◆タイロン、静かにキレる

声は低いのに、空気が変わる。

タイロン
「……ルデル。
 今すぐ、その口を閉じろ」

ルデル
「は? 俺は事実を——」

タイロン
「事実だと?
 “俺の妻に”向かって侮辱したことが事実だ」

その瞬間、ルデルが固まる。

普段のタイロンは、兄に逆らうタイプではない。
無表情で淡々と従う男だ。

だからこそ、今の怒りは異常だった。

ジュディ
「タイロンさん、大丈夫よ、私は——」

タイロン
「ジュディ、黙っていなくていい。
 “傷つく権利”は君にある」

瞬間、ルデルの表情が引きつる。



◆ルデル、さらに暴言

兄は引かない。悪手を打った。

ルデル
「はぁ?
 そんな女、正式な妻でもないのに?
 ただの偽装夫婦のくせに——」

バンッ!!!

タイロンがテーブルを叩いた。
衝撃で茶器が跳ねる。

タイロン
「——黙れと言った!!」

ジュディ(……え……)

ルデル(……タイロンが……声を荒げた……?)

部屋の空気が凍る。



◆タイロンの“守る本能”が爆発

タイロンはジュディの手首をそっと掴んだ。
強く引くのではなく、
“触れただけで守ろうとする”ように。

タイロン
「彼女はな。
 俺の屋敷を、仕事を、カレンを——
 全部、救ってくれた人だ」

ジュディ
「……タイロンさん……」

タイロン
「お前の言葉で傷つけていい人じゃない」

ルデル
「タイロン……お前……」

タイロン
「兄さん。
 俺は生涯で、初めて言うぞ。
 “出ていけ”」

執事までも目を見開いた。



◆ルデル、去る

手に汗を握りながら立ち上がり、
最後の一言を吐いた。

ルデル
「……わかったよ。
 お前がそこまで言うなら、今日は退く。
 だが……」

タイロン
「——帰れ」

完全拒否。

ルデルは押し黙り、扉を閉めて去っていった。



◆静まり返る室内

二人きりになる。

ジュディ
「……驚いたわ」

タイロンは息を整えながら言った。

「俺は……人のために怒るなんて……
 自分がすると思わなかった」

ジュディ
「どうして……?」

タイロンは目を伏せ、
答えにならない答えを落とす。

「……理由なんて、俺にもわからない。
 ただ……
 ルデルの言葉が、どうしても……
 許せなかった」

ジュディ(……あ……これ……)

胸が熱くなる。
頭が混乱する。

タイロンにとってこれは
“好き”の自覚ではない。
誰でもジュディでもわかる。

——もう、惚れている。


タイロン、男爵位を継ぐ決意

(侯爵家との決別/静かだけど強い宣言)

ルデルが去った後の夜。
屋敷は静かで、ジュディはカレンを寝かせている。

タイロンは応接室に一人残り、
拳をぎゅっと握っていた。

執事サミュエルが、静かにお茶を置く。

サミュエル
「……旦那さま。
 本日は、大変でしたね」

タイロン
「……俺は、何をしてきたんだろうな」

サミュエル
「?」

タイロン
「兄に逆らわず、侯爵家の名に寄りかかって……
 “家に置いてもらうために”
 仕事を全部引き受けて……
 都合のいい、便利な弟でいた」

サミュエルは静かに聞く。

タイロン
「その先に、俺の人生はあったのか?」

サミュエル
「タイロン様……」

タイロン
「今日、初めて思ったんだ。
 この家にいる資格が欲しいのは、侯爵家の下じゃない。
 “ジュディとカレンの家”のためだと」

サミュエルが息を呑む。



◆タイロン、決意を口にする

声は低いが、揺らぎがなかった。

タイロン
「……男爵位を継ぐ。
 侯爵家からは手を引く」

サミュエル
「しかし……それは……身分が……」

タイロン
「わかっている。
 身分が下がれば、王宮の晩餐会にも呼ばれない。
 だが、兄の手伝いをする必要もなくなる。
 “使い潰される便利な弟”から外れる」

サミュエル
「ですが……タイロン家は侯爵家の庇護下で——」

タイロン
「庇護なんて、もう要らない」

静かな怒りがあった。

タイロン
「侮辱されても、利用されても黙って従うぐらいなら、
 男爵でいい。いや、男爵がいい。
 自分の家を、自分で守るために」

サミュエルの目が優しく細くなる。

サミュエル
「……奥様が聞いたら、さぞ喜びましょう」

タイロン
「ジュディは……喜ばないだろうな。
 “そんな義理はない”と言うはずだ」

サミュエル
「それでも、心のどこかで……救われますよ」

タイロンは照れたように視線を逸らした。



◆その夜、ジュディが戻る

寝かしつけを終えて戻ってきたジュディが、
応接室の灯りに気づく。

ジュディ
「まだ起きていたの?」

タイロン
「少しだけ……考えごとを」

ジュディ
「……兄上のこと?」

タイロン
「……いや。
 “俺の生き方”のことだ」

ジュディが小さく目を見開く。

タイロン
「俺は、男爵位を継ぐ。
 侯爵家の仕事からも降りる。
 ……それが、ここで生きるために必要だからだ」

ジュディ
「……え?」

タイロン
「ここは、“俺たちの家”だ。
 侯爵家の付属物じゃない」

ジュディは言葉を失う。

そして、数秒後。

——目が、ほんの少しだけ潤む。

ジュディ
「……そう。
 ……いい決断ね」

タイロン
「ありがとう。
 君に……笑われたくなかった」

ジュディ
「笑わないわよ。
 むしろ——」

ジュディは、彼の横に座り、小さく微笑む。

「はじめてあなたを“自分の夫”だと思えたわ」

タイロン
「…………っ」

その一言に、
タイロンの耳まで真っ赤になる。


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