八百屋王女、なんの冗談ですか?ーー行方不明のパパが国王でした!?

夢窓(ゆめまど)

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学園長、めちゃくちゃ分かってる人

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留学して一年経ったら、
次の年をどうするかは、まだ決めていない。

国に帰るか。
もう一年、この学園に残るか。
あるいは、別の国へ行くか。

次の留学先の話も、いくつか届いてはいる。
けれど――決断には、まだ早い。

そんな折、学園長から茶会の招待があった。



「ビクトリア様のご機嫌は、いかがですかな?」

にこやかに微笑む学園長に、私はカップを置いて答える。

「ありがとうございます。大変有意義な日々を過ごさせていただいております」

社交辞令ではない。
この学園での生活は、本当に充実していた。

「それは何より。――来年も、よろしくお願いしますな」

さらりと言われ、私は小さく微笑む。

「まだ、決めておりませんのよ」

学園長は目を細めた。

「ほほー!」

そして、何かを思い出したように言う。

「来年は、サンディ・ハーツ教授が、我が校に教えに来られますよ」

「サンディ・ハーツ教授?」

聞き覚えのある名に、思わず聞き返す。

「ええ。それから――」

学園長は少し声を落とし、楽しげに続けた。

「学食に、玉ねぎソテーを取り入れようかと考えておりまして」

「玉ねぎソテー?」

「はい。サイドメニューには、焼き芋も」

「焼き芋……?」

思わず声が上がる。

「学食のメニュー改革をしたくてですね。そちらを、少し頑張ろうかと」

「それは……素晴らしいですね」

純粋に、そう思った。

学園長は満足そうにうなずいた。



(来年のことは、まだ分からない。
けれど――玉ねぎソテーと焼き芋の学食は、正直、捨てがたい)

そんなことを考えながら、私は紅茶を一口飲む。

――もし、私がこの学園を去れば。
生徒の数が減るのではないか。

そんな危機感を、学園長が密かに抱いていることなど、
このときの私は、まだ知らなかった。

サンディ・ハーツ教授。
経済学者であり、ビクトリアがこれまで知りたかったことが、
てんこ盛りに詰まった人物である。

資料を調べれば調べるほど、
――この人から直接、教わりたい。
そう思わずにはいられなかった。

そして、学食メニューの改革。
これもまた、非常に魅力的である。

学園長は、大人だった。
どこをどう動かせば、人が集まり、場が活気づくのか。
それを、きちんと分かっている。

――策士である。

来年は学園行事として、
剣術大会を開催する計画もあるらしい。

ランディとエドウィン。
二人の剣が披露されれば、
それを目当てに生徒が増えるかもしれない。

そして何より、
今の学園は学力面でも、非常に良い状態にある。

学びがあり、
生活があり、
人が集う。

(来年のことは、まだ決めていない。
けれど――)

この学園に、
もう少し腰を据える理由は、
確実に増えていた。

そんなことを考えていると、
隣からランディが、何気ない調子で言った。

「そういえば。
 来週から、キャロット・ラペが出るそうですよ。
 食堂、ベジタリアン風のメニューを増やすとか」

「……そ、そう」

思わず間が空いた。

「それは……楽しみ、だね」

(だめだわ。
 学問に、剣術大会に、経済学者――
 それだけでも十分なのに)

(キャロット・ラペまで来るなんて)

来年の進路は、
まだ未定のはずだった。

――はず、なのだけれど。

食堂にて、

「ランディ、野菜、ちゃんと食べなきゃだめだよ」

「腹が膨れたら、それでいいじゃないか?」

「違うよ。野菜を食べないと、倒れるし、病気になるよ。
 美食っていうのはね、野菜なんだよ」

「……お前、本当に野菜好きだな」

「好きだよ。ピーナッツも好きだし。
 最近、学食が野菜多くておいしいんだよ」

「へえ」

「この前の野菜のテリーヌ、すごくおいしかった」

「野菜って、がっつりじゃないから、正直めんどくさい」

「でも野菜食べないと、肌荒れるよ」

「……そうなのか?」

「うん。大切、なんだけどね」

ランディは少し考えるような顔をしてから、
黙って自分の皿を見下ろした。

(まったく。
 剣は強いのに、食生活は子どもなんだから)

そんなことを思いながら、
私は自分の野菜を、きちんと味わって食べる。


「じゃあ、お菓子はどうなんだ?」

ランディが、少しだけ真剣な顔で聞いてくる。

「頭を使うときは、糖分が必要だからね。
 勉強前に、ちょっと食べるのはいいんだよ」

「ちょっと、か」

「うん。多すぎるのは良くないから。
 だから、あまり食べない」

「……それで、勉強前に角砂糖をかじってるのか」

「へへっ」

思わず笑うと、ランディは一瞬あきれたような顔をしてから、

「俺も、真似してみようかな」

と言った。

(え、本気?)

そう思いながらも、
なぜか少しだけ――悪くない気がした。

なんだこの、こなれた夫婦感?

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