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召使い達への聞き取り
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翌日の午前。
侯爵邸の玄関扉が勢いよく開く音が響き渡った。
レディ・スザンヌが、紫の羽をあしらった帽子を片手に堂々と入ってくる。
「執事! いますか!」
慌てて姿を現した執事が深々と頭を下げた。
執事
「れ、レディ・スザンヌ……お戻りとは伺っておりますが……何かご用で?」
スザンヌ
「使用人全員を“今すぐ”集めなさい。
ひとり残らず。いいわね?」
その場にいた侍女たちまで息を飲む。
執事
「……はっ!」
屋敷に緊張が走った。
いつもは静かな廊下を、召使い達が走り回る。
ほどなくして、居間には使用人たちが整列させられた。
⸻
◆居間――尋問の場
スザンヌは姿勢よく椅子に座り、扇子をテーブルに置いた。
彼女の後ろには堂々と立つマシュウ卿の姿もある。
スザンヌ
「では――
マルグリット侯爵夫人が、この屋敷でどのように扱われていたのか。
一から、順番に答えてもらいます」
使用人全員が硬直した。
目線が泳ぎ、誰も口を開かない。
スザンヌ
「まあ……誰かが先に話せるはずよね?」
重い沈黙。その沈黙を破ったのは、侍女頭だった。
侍女頭
「……奥様は、お部屋におこもりで……」
スザンヌ
「理由を聞いているのよ」
侍女頭
「ご主人様が戦地にいらしたので……
その……私どもも奥様のお顔を見たことがなく……」
スザンヌ
「それで?」
侍女頭はしどろもどろになりながら続ける。
侍女頭
「ですので……奥様に特別お仕えすることも……
お食事は、廊下に……運んで……」
スザンヌ
「廊下に?」
侍女頭
「……お返事がない日もありましたので……」
スザンヌ
「返事がなければ、床に置いて戻った、と?」
侍女頭は顔を青ざめさせ、うなずくしかなかった。
⸻
スザンヌは、扇子を“ぱちん”と閉じた。
スザンヌ
「あなたたち、それで“お仕えしていた”つもりなの?」
誰も顔を上げない。
スザンヌ
「洗濯は? 掃除は? 衣服の世話は?」
侍女のひとりが弱々しく答える。
若い侍女
「……たまに……」
スザンヌ
「“たまに”!?」
部屋の空気が震えた。
執事までも冷や汗を拭う。
執事
「れ、レディ・スザンヌ……まことに申し訳ございません……」
スザンヌ
「申し訳、とは誰に? 私に? この家に?
違うでしょう――“いなくなった奥様に”よ」
沈黙。
誰も反論できない。
した途端、全てがバレる。
⸻
スザンヌは鋭い視線で、ひとりひとりを見据えた。
スザンヌ
「あなたたち。
この家に仕えていたつもりで――
本当は“権力”にしか仕えていなかったのね」
老執事が震える声で言う。
執事
「……それは……」
スザンヌ
「侯爵が不在の間、
“奥様はただの飾り”“いなくても困らない”と思ったのでしょう」
侍女たちの肩がびくりと揺れる。
スザンヌ
「だから、見なかった。聞かなかった。
“あの子がどんな気持ちで三年を過ごしたか”
一度も考えなかった」
誰も言葉を返せなかった。
スザンヌ
「……これは、ただの怠慢じゃありません。
“いじめ”です。
薄い、曖昧な、誰も責任を取らない形の……
一番残酷な種類のね」
その言葉に、侍女のひとりが泣き出した。
スザンヌ
「泣くのは勝手。でも責任からは逃げられないわ。
あの子は、誰にも見つけてもらえず、
誰にも気づかれず、
この家でひとりで消えていったのよ」
静寂が屋敷を締めつけた。
その場にいた全員が、
“自分たちが何をしたか”を
初めて理解し始めていた。
⸻
スザンヌは静かに息を吐いた。
「首を切るのはテオドールの判断に任せます。
でも――覚えておきなさい。
“主を選んだつもりで、主を見失った人間”は、
どんな職でも長くはもたないわ」
彼女はそう言って立ち上がり、
重い扉を押して出て行った。
背後で、召使いたちは動けずに立ち尽くしていた。
屋敷の空気は、まるで裁きを受けた後のように
しんと静まり返っていた。
夜の報告
日が落ち、屋敷の廊下は薄暗く沈んでいた。
燭台の灯がわずかに揺れる。
テオドールは書斎の机に肘をつき、
叔母スザンヌからの報告書を黙って読んでいた。
「奥様はお部屋でおひとり。
食事は廊下に置かれ、洗濯は“たまに”。
話し相手もおらず、世話する者もいない状態。」
手が止まった。
(……これが、三年間の“妻”の暮らし)
一度も会わなかった。
会おうともしなかった。
だが、彼女が――誰の目にも映らない場所で、
ただ“いなかったことにされていた”のだと、
今ようやく理解した。
「孤独、か……」
その言葉を口にした瞬間、
暖炉の火が小さくはぜた。
胸の奥に重いものが沈む。
⸻
しばらくの沈黙ののち、
彼は呼び鈴を鳴らした。
やがて、執事の老ルイスが入ってくる。
「……お呼びでしょうか」
「叔母上に、召使いを紹介してもらおうと思う」
ルイス
「お、お身内からですか?」
テオドール
「今の者たちは全員下がらせろ。明日から誰もうちに、入れるな、手荷物検査の後、解雇だな」
ルイスの顔色が変わった。
「し、しかし旦那様、それでは今まで働いた者が――」
テオドール
「要らん。
“奥様の世話もできない者たち”に、この家を任せておく理由はない」
その言葉が扉の向こうまで届いたのか、
廊下で小さなざわめきが起きた。
⸻
ほどなくして、侍女頭が泣きついてきた。
「旦那様っ、私どもに、もう一度お許しを……!」
テオドール
「許し?」
侍女長
「奥様が“特別な方”だとは思わなかったのです!
ご主人様が戦地におられて、誰も命令をくださらなかったから……」
テオドール
「……命令がなければ侯爵夫人に、仕えられないのか?」
侍女頭は答えられず、ただ泣き伏した。
「出て行け」
テオドールの低い声が、静かに落ちた。
泣き声は扉の向こうで遠ざかり、
やがて屋敷はまた静けさに包まれた。
⸻
テオドールは椅子に戻り、
しばらく目を閉じていた。
思い出せないよりも悪い会った事ない妻の顔。
けれど、誰にも愛されずに過ごした彼女の時間を想像するだけで、
胸の奥が焼けるように痛んだ。
(せめて、誰か――一人でも、彼女に優しくした者がいたら)
そう思いながら、
彼は初めて“自分の家が冷たすぎた”ことを知った。
「叔母上に連絡を。
明朝、信頼できる人を紹介してもらう」
ルイスが静かに頭を下げ、出ていく。
残された部屋に、
テオドールの小さな独り言が落ちた。
「……私の妻だった人は、何を食べて、何を思っていたんだろうな」
暖炉の火が揺れ、
その問いに誰も答えなかった。
新しい朝
夜明けの光が屋敷のカーテン越しに差し込んでいた。
テオドールは一睡もできぬまま、
机の上に広げたままの書類を見つめていた。
そこに扉を叩く音。
「旦那様、レディ・スザンヌがお見えです」
「……もう朝か」
⸻
スザンヌは勢いよく入ってきた。
そして、背後にはひとりの若い女性が控えていた。
背筋の伸びた、明るい栗髪の侍女。
「紹介するわ、テオドール。
この子はアンヌ。うちで十五年仕えていた侍女長の弟子よ。
“貴族の家で一番怖いのは沈黙”だって知ってる子」
アンヌは静かに一礼した。
「侯爵様。レディ・スザンヌより事情を伺いました。
屋敷の整備と、奥様不在の間に生じた不備の確認、すべて私がいたします」
その言葉に、テオドールはわずかに眉を動かした。
「……仕事が早いな」
アンヌ
「家というのは、“放っておくと冷たくなる”ものですから」
スザンヌがにやりと笑う。
「ね? 気骨があるでしょう?」
⸻
スザンヌ
「アンヌ、まずは台所と寝室、それから奥様のお部屋を確認してちょうだい」
アンヌ
「承知しました。
――旦那様、奥様が使われていた部屋はどちらでしょうか?」
テオドール
「……南の塔だ。出て行ってから、開けていない」
アンヌは小さく頷くと、
「では、開けさせていただきます」とだけ言って去っていった。
扉が閉まると、部屋にはスザンヌとテオドールだけが残った。
⸻
テオドール
「叔母上、ずいぶん早いご手配を」
スザンヌ
「当然でしょ。
この家の使用人たち、まるで墓守みたいだったもの。
“人の気配が消えた屋敷”なんて、聞くだけで背筋が寒くなるわ」
テオドール
「……放っていたのは俺だ」
スザンヌ
「そうね。だからこそ、ちゃんと変えなさい」
スザンヌは一歩近づいて、息子を見る母のような目で言った。
「アンヌは口が悪いけど、働き者よ。
家を立て直すには、遠慮しない女が一番なの」
テオドール
「……わかっている」
「それと」
スザンヌは扇子を閉じた。
「あなた、まだ“奥様”の部屋を見に行ってないんでしょ?」
テオドールは返事をしなかった。
それが、答えだった。
⸻
「見に行きなさい。
誰もいない部屋ほど、あなたに何かを教える場所はないわ」
スザンヌはそれだけ言って、
軽く扇子を振り、朝の光の中へ出て行った。
残されたテオドールは、
静かな部屋の中でその言葉を反芻した。
(誰もいない部屋ほど、教える場所はない――か)
遠くで扉が開く音。
アンヌが、埃の積もった廊下を進んでいく気配がした。
屋敷に、ようやく“人の足音”が戻ってきた朝だった。
侯爵邸の玄関扉が勢いよく開く音が響き渡った。
レディ・スザンヌが、紫の羽をあしらった帽子を片手に堂々と入ってくる。
「執事! いますか!」
慌てて姿を現した執事が深々と頭を下げた。
執事
「れ、レディ・スザンヌ……お戻りとは伺っておりますが……何かご用で?」
スザンヌ
「使用人全員を“今すぐ”集めなさい。
ひとり残らず。いいわね?」
その場にいた侍女たちまで息を飲む。
執事
「……はっ!」
屋敷に緊張が走った。
いつもは静かな廊下を、召使い達が走り回る。
ほどなくして、居間には使用人たちが整列させられた。
⸻
◆居間――尋問の場
スザンヌは姿勢よく椅子に座り、扇子をテーブルに置いた。
彼女の後ろには堂々と立つマシュウ卿の姿もある。
スザンヌ
「では――
マルグリット侯爵夫人が、この屋敷でどのように扱われていたのか。
一から、順番に答えてもらいます」
使用人全員が硬直した。
目線が泳ぎ、誰も口を開かない。
スザンヌ
「まあ……誰かが先に話せるはずよね?」
重い沈黙。その沈黙を破ったのは、侍女頭だった。
侍女頭
「……奥様は、お部屋におこもりで……」
スザンヌ
「理由を聞いているのよ」
侍女頭
「ご主人様が戦地にいらしたので……
その……私どもも奥様のお顔を見たことがなく……」
スザンヌ
「それで?」
侍女頭はしどろもどろになりながら続ける。
侍女頭
「ですので……奥様に特別お仕えすることも……
お食事は、廊下に……運んで……」
スザンヌ
「廊下に?」
侍女頭
「……お返事がない日もありましたので……」
スザンヌ
「返事がなければ、床に置いて戻った、と?」
侍女頭は顔を青ざめさせ、うなずくしかなかった。
⸻
スザンヌは、扇子を“ぱちん”と閉じた。
スザンヌ
「あなたたち、それで“お仕えしていた”つもりなの?」
誰も顔を上げない。
スザンヌ
「洗濯は? 掃除は? 衣服の世話は?」
侍女のひとりが弱々しく答える。
若い侍女
「……たまに……」
スザンヌ
「“たまに”!?」
部屋の空気が震えた。
執事までも冷や汗を拭う。
執事
「れ、レディ・スザンヌ……まことに申し訳ございません……」
スザンヌ
「申し訳、とは誰に? 私に? この家に?
違うでしょう――“いなくなった奥様に”よ」
沈黙。
誰も反論できない。
した途端、全てがバレる。
⸻
スザンヌは鋭い視線で、ひとりひとりを見据えた。
スザンヌ
「あなたたち。
この家に仕えていたつもりで――
本当は“権力”にしか仕えていなかったのね」
老執事が震える声で言う。
執事
「……それは……」
スザンヌ
「侯爵が不在の間、
“奥様はただの飾り”“いなくても困らない”と思ったのでしょう」
侍女たちの肩がびくりと揺れる。
スザンヌ
「だから、見なかった。聞かなかった。
“あの子がどんな気持ちで三年を過ごしたか”
一度も考えなかった」
誰も言葉を返せなかった。
スザンヌ
「……これは、ただの怠慢じゃありません。
“いじめ”です。
薄い、曖昧な、誰も責任を取らない形の……
一番残酷な種類のね」
その言葉に、侍女のひとりが泣き出した。
スザンヌ
「泣くのは勝手。でも責任からは逃げられないわ。
あの子は、誰にも見つけてもらえず、
誰にも気づかれず、
この家でひとりで消えていったのよ」
静寂が屋敷を締めつけた。
その場にいた全員が、
“自分たちが何をしたか”を
初めて理解し始めていた。
⸻
スザンヌは静かに息を吐いた。
「首を切るのはテオドールの判断に任せます。
でも――覚えておきなさい。
“主を選んだつもりで、主を見失った人間”は、
どんな職でも長くはもたないわ」
彼女はそう言って立ち上がり、
重い扉を押して出て行った。
背後で、召使いたちは動けずに立ち尽くしていた。
屋敷の空気は、まるで裁きを受けた後のように
しんと静まり返っていた。
夜の報告
日が落ち、屋敷の廊下は薄暗く沈んでいた。
燭台の灯がわずかに揺れる。
テオドールは書斎の机に肘をつき、
叔母スザンヌからの報告書を黙って読んでいた。
「奥様はお部屋でおひとり。
食事は廊下に置かれ、洗濯は“たまに”。
話し相手もおらず、世話する者もいない状態。」
手が止まった。
(……これが、三年間の“妻”の暮らし)
一度も会わなかった。
会おうともしなかった。
だが、彼女が――誰の目にも映らない場所で、
ただ“いなかったことにされていた”のだと、
今ようやく理解した。
「孤独、か……」
その言葉を口にした瞬間、
暖炉の火が小さくはぜた。
胸の奥に重いものが沈む。
⸻
しばらくの沈黙ののち、
彼は呼び鈴を鳴らした。
やがて、執事の老ルイスが入ってくる。
「……お呼びでしょうか」
「叔母上に、召使いを紹介してもらおうと思う」
ルイス
「お、お身内からですか?」
テオドール
「今の者たちは全員下がらせろ。明日から誰もうちに、入れるな、手荷物検査の後、解雇だな」
ルイスの顔色が変わった。
「し、しかし旦那様、それでは今まで働いた者が――」
テオドール
「要らん。
“奥様の世話もできない者たち”に、この家を任せておく理由はない」
その言葉が扉の向こうまで届いたのか、
廊下で小さなざわめきが起きた。
⸻
ほどなくして、侍女頭が泣きついてきた。
「旦那様っ、私どもに、もう一度お許しを……!」
テオドール
「許し?」
侍女長
「奥様が“特別な方”だとは思わなかったのです!
ご主人様が戦地におられて、誰も命令をくださらなかったから……」
テオドール
「……命令がなければ侯爵夫人に、仕えられないのか?」
侍女頭は答えられず、ただ泣き伏した。
「出て行け」
テオドールの低い声が、静かに落ちた。
泣き声は扉の向こうで遠ざかり、
やがて屋敷はまた静けさに包まれた。
⸻
テオドールは椅子に戻り、
しばらく目を閉じていた。
思い出せないよりも悪い会った事ない妻の顔。
けれど、誰にも愛されずに過ごした彼女の時間を想像するだけで、
胸の奥が焼けるように痛んだ。
(せめて、誰か――一人でも、彼女に優しくした者がいたら)
そう思いながら、
彼は初めて“自分の家が冷たすぎた”ことを知った。
「叔母上に連絡を。
明朝、信頼できる人を紹介してもらう」
ルイスが静かに頭を下げ、出ていく。
残された部屋に、
テオドールの小さな独り言が落ちた。
「……私の妻だった人は、何を食べて、何を思っていたんだろうな」
暖炉の火が揺れ、
その問いに誰も答えなかった。
新しい朝
夜明けの光が屋敷のカーテン越しに差し込んでいた。
テオドールは一睡もできぬまま、
机の上に広げたままの書類を見つめていた。
そこに扉を叩く音。
「旦那様、レディ・スザンヌがお見えです」
「……もう朝か」
⸻
スザンヌは勢いよく入ってきた。
そして、背後にはひとりの若い女性が控えていた。
背筋の伸びた、明るい栗髪の侍女。
「紹介するわ、テオドール。
この子はアンヌ。うちで十五年仕えていた侍女長の弟子よ。
“貴族の家で一番怖いのは沈黙”だって知ってる子」
アンヌは静かに一礼した。
「侯爵様。レディ・スザンヌより事情を伺いました。
屋敷の整備と、奥様不在の間に生じた不備の確認、すべて私がいたします」
その言葉に、テオドールはわずかに眉を動かした。
「……仕事が早いな」
アンヌ
「家というのは、“放っておくと冷たくなる”ものですから」
スザンヌがにやりと笑う。
「ね? 気骨があるでしょう?」
⸻
スザンヌ
「アンヌ、まずは台所と寝室、それから奥様のお部屋を確認してちょうだい」
アンヌ
「承知しました。
――旦那様、奥様が使われていた部屋はどちらでしょうか?」
テオドール
「……南の塔だ。出て行ってから、開けていない」
アンヌは小さく頷くと、
「では、開けさせていただきます」とだけ言って去っていった。
扉が閉まると、部屋にはスザンヌとテオドールだけが残った。
⸻
テオドール
「叔母上、ずいぶん早いご手配を」
スザンヌ
「当然でしょ。
この家の使用人たち、まるで墓守みたいだったもの。
“人の気配が消えた屋敷”なんて、聞くだけで背筋が寒くなるわ」
テオドール
「……放っていたのは俺だ」
スザンヌ
「そうね。だからこそ、ちゃんと変えなさい」
スザンヌは一歩近づいて、息子を見る母のような目で言った。
「アンヌは口が悪いけど、働き者よ。
家を立て直すには、遠慮しない女が一番なの」
テオドール
「……わかっている」
「それと」
スザンヌは扇子を閉じた。
「あなた、まだ“奥様”の部屋を見に行ってないんでしょ?」
テオドールは返事をしなかった。
それが、答えだった。
⸻
「見に行きなさい。
誰もいない部屋ほど、あなたに何かを教える場所はないわ」
スザンヌはそれだけ言って、
軽く扇子を振り、朝の光の中へ出て行った。
残されたテオドールは、
静かな部屋の中でその言葉を反芻した。
(誰もいない部屋ほど、教える場所はない――か)
遠くで扉が開く音。
アンヌが、埃の積もった廊下を進んでいく気配がした。
屋敷に、ようやく“人の足音”が戻ってきた朝だった。
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