白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?

夢窓(ゆめまど)

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再婚はない!……たぶん!

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午後のティールーム。
いつもの紅茶仲間が、テーブルを囲んでいる。
お菓子の香りと、女子トークの熱気で満たされた空間。

マルグリットは、湯気の向こうでため息をついた。

「……だから言ってるじゃない、再婚なんてないのよ」

「でも、あんた、屋敷の将軍とヨリ戻したんでしょ?」

「戻してない! 戻ってない!」

「え? 毎晩一緒にいるって聞いたけど?」

「っっ!! な、なんでそれ知ってるのよ!?」

「市場の人、全員見てたわよ。
 “あの夫婦、やっとくっついた”って、すっかり名物よ」

「ちがぁぁう! ただの酒の事故よ!」



友人たちはニヤニヤ笑う。

「へぇ~。酒の事故であんな顔して歩くんだ?」

「なによ、その“あんな顔”って」

「ほら、幸せそうってやつ」

「ちがうって言ってるでしょ!」

「マルグリット、もうお腹膨らんでるから、諦めろ!」

「膨らんでないわ!!」

店中が一瞬、静まり返った。

「……あら、そうなの?」

「そうよ! ちょっと食べすぎただけ!」

「そういうのを“幸せ太り”って言うのよ」

「幸せじゃないーーっ!!」



友人の一人がティーカップを傾けて、
しみじみと言った。

「でもねぇ、あの将軍さん、
 この前市場で見たけど、
 ほんと優しい顔してたわよ。
 奥様のこと大切にしてる人の目だった」

マルグリットは反射的に紅茶をすすり、
むせた。

「ぶっ! だ、誰が奥様よ!」

「あなた以外に誰がいるの」

「……」

頬が、ぽっと赤くなる。

「そ、そんなこと言って……
 またバカにしてるんでしょ」

「いいえ。
 見てるこっちが、ちょっと羨ましいだけ」



帰り道。
夕暮れの通りを歩きながら、
マルグリットはひとりごとのように呟いた。

「再婚は、ない。
 ないから……ね?」

風が優しく髪を揺らす。
そして、思わず笑ってしまう。

「……でも、もし、もう一回選べるなら――
 たぶん、また同じ人を選ぶわ」


<プロポーズ作戦、バレバレです>

スザンヌ邸・午前十時。
静かな応接間に、テオドールが緊張した面持ちで座っていた。

「……スザンヌ叔母上、
 相談があるんです」

「また“作戦”かしら?」

「ええ、その……もう一度、きちんとプロポーズをと思いまして」

「ふむ」

スザンヌは紅茶をひと口。
優雅に笑った。

「ようやく素直になったのね。
 で、どんな段取り?」

「花束を用意して、
 庭にいる時に、訪ねて……
 あとは、気持ちを伝えます」

「花束ねぇ」

彼女の目が細くなる。



マシュウが新聞から顔を上げた。

「おい、花束の前に“覚悟”のほうは大丈夫か?」

「覚悟、ですか?」

「言葉を間違えたら、
 お前また腫れるぞ」

「……十分学習しました」

「ほんとぉ?」

スザンヌがにやり。

「経産婦の私には、もうわかるのよ。
 あの子、もうお腹ふくらんでるわ」

「えっ!?」

テオドールが盛大に紅茶を吹いた。

「な、なにを言って――!?」

「顔が変わったもの。
 あれは“女の顔”よ。
 しかも、すでに“やらかした後”のね」

マシュウが肩を揺らして笑う。

「おいスザンヌ、言い方!」

「事実でしょ?
 ねぇ、テオドール」

「ち、違います! 俺は! ……その……!」

「図星ね」

「いえ、その……“やらかした”のは否定できませんが!」

「ほら見なさい!」



スザンヌは机を軽く叩いた。

「いい? あの子はね、
 “再婚はない”って言いながら、
 頬がゆるんでるの。
 そういう時の女は、もう答え出てるのよ」

テオドールは耳まで真っ赤になり、
おとなしくうつむいた。

「……じゃあ、俺はどうすれば」

「簡単よ。
 もうプロポーズなんていらないわ」

「いらない!?」

「だって、あの子、
 “もう一度選ぶなら同じ人”って言ってたもの」

「……言ってたんですか!?」

「友人たちにバラしてたわ」

マシュウが新聞で顔を隠しながら笑う。

「もう完全にバレてるな」



スザンヌは立ち上がり、
鏡越しに自分の髪を整えながら言った。

「だから、段取りなんて要らないの。
 ただ、
 “迎えに来た”って言えばいいのよ」

テオドールはしばらく黙り、
静かに頷いた。

「……はい。
 じゃあ今度こそ、真正面から行きます」

「そうしなさい。
 ついでにおむつも準備しておきなさいね」

「えええ!?」

「女の勘は鋭いのよ」

マシュウが爆笑しながら立ち上がった。

「スザンヌ、予言者みたいになってるぞ!」

「いいのよ。
 どうせ当たるんだから」



その頃、
コテージでは――
マルグリットが鏡の前でお腹を見つめながら、
小さく呟いていた。

「……膨らんでない。
 ……ちょっと食べすぎただけよね?」

けれど、顔は確かに、
どこか幸せそうにゆるんでいた。


迎えに来た

春の午後。
風がやわらかく、庭の花が小さく揺れていた。

マルグリットは、紅茶を飲みながら、
ため息をついた。

「……お腹、膨らんでるの、気のせいよね?」

鏡の前で横を向く。
(食べすぎ? ワイン? ストレス?)

「うん、きっと飲みすぎ」
そう言い聞かせた瞬間――

トントン、とドアがノックされた。



扉を開けると、
そこにテオドールが立っていた。

花束も、指輪も、なし。
ただまっすぐに、彼女を見つめて言った。

「迎えに来た」

その一言に、
マルグリットの呼吸が止まった。

「……え?」

「もう、あなたをひとりにしたくない。
 俺には家族がいなかったけど、
 あなたがいれば、それで充分です。
 だから――一緒に帰ろう」

風が、静かに二人の間を通り抜ける。



マルグリットは腕を組み、
少し俯きながら言った。

「……あのね」

「はい」

「お腹、膨らんでるのよ」

「えっ……!?」

「飲みすぎかしら?」

テオドールは一瞬で真顔になり、
真剣な声で答えた。

「お酒は、生まれるまで禁止です」

「……生まれるまで?」

「はい。母体に悪影響が出ますから」

「……ちがあーーうっ!!!」

バシィィィィン!!

「な、何が!?」

「誰が妊婦よ!!」

「えっ!? 違うんですか!?」

「当たり前でしょーーーっ!!」



一瞬の沈黙。
次の瞬間、二人とも吹き出した。

「……ほんと、あんたって、どうしようもないわね」

「すみません」

「でも……迎えに来たって、言葉は、悪くなかったわ」

「よかった……」

テオドールの声が小さくなり、
照れくさそうに目を逸らした。

「ねぇ」

「はい?」

「再婚しても、ぶつわよ?」

「はい。
 でも、もう逃げません」



マルグリットは小さく笑い、
差し出された手を取った。

「じゃあ……帰りましょうか、将軍」

「はい、奥様」

外では、春の花びらが風に舞っていた。
そして二人の笑い声が、
新しい始まりを祝福するように響いた。

氷の上に春が来た

スザンヌ邸の庭。
午後の紅茶タイム。
マシュウが大きな望遠鏡をのぞきこみながら、声をあげた。

「見ろよスザンヌ、手ぇつないで歩いてるぞ!」

「ほんと? あらまぁ、やっと迎えに来たのね」

「“氷上救出作戦”、成功だな」

「違うわ、“春到来作戦”よ」

スザンヌは満足げにカップを置き、
小さく肩を揺らして笑った。



「ほらね、女の勘は当たるって言ったでしょ?」

「うん……でも、
 当たってたの“お腹”のほうじゃないか?」

「なにそれ?」

「だって、ほら、あの子。
 幸せで、心の中がふっくらしてるじゃないか。
 お腹も、心も」

スザンヌは吹き出して、
ティーカップを掲げた。

「じゃあ、乾杯ね。
 “心が膨らんだ奥様”に」

マシュウもグラスを掲げた。

「“ぶたれても笑ってる将軍”に」

二人の笑い声が春風に溶ける。



遠くの丘の上、
テオドールとマルグリットが寄り添って歩いていた。

マルグリットが言う。
「ねぇ、今日の晩ごはん、何がいい?」

「なんでも。……できれば、手加減してくれる料理で」

「手加減って何よ」

「包丁、振りかぶる角度の話です」

「あんたが作れば?」

「いっ!料理長雇います」

笑いながら、ふたりは歩き出す。
春の光が彼らの影をやさしく伸ばした。



スザンヌはその光景を見届けながら、
静かに微笑んだ。

「――氷は溶けたわね」

「そうだな」

マシュウが頷き、
二人は手を取り合った。

その日、街には新しい噂が流れる。

“侯爵夫人と将軍、ふたりそろって笑ってる”

それは、
怒りと涙と笑いでつながった、
世界でいちばん不器用で、
あたたかい愛の証だった。
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