『定年聖女ジェシカの第二の人生 〜冒険者はじめました〜』

夢窓(ゆめまど)

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森の奥 ― 秘密の影と新しい依頼

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森の奥 ― 秘密の影と新しい依頼

ふと私は、ヨシュアの横顔を見つめていた。
焚き火に照らされた笑顔は、年相応の子供そのものだ。
けれど――剣を握る指先は大人の戦士のように固く、目の奥には、ときどき不自然なほどの影がよぎる。

「ねぇ、ヨシュア」
「ん? なに?」
「……あんたって、訳ありなの?」

私の問いに、ヨシュアの表情が一瞬だけ凍った。
瞳の奥に鋭い光が走り、心臓が小さく跳ねる。

(……図星、か)

けれど彼はすぐに、無邪気な笑みに戻る。
「えへへ、秘密!」

そのあっけらかんとした口ぶりが、逆に確信を深める。
(やっぱり、この子はただの子供じゃない……。いつかはっきりと聞かなきゃいけない時が来る)
そう思いながら、私は胸の奥に小さな不安を抱え込んだ。

ギルドにて ― 新しい依頼

翌日。ギルドの依頼掲示板の前に立った私たちは、並んだ羊皮紙を食い入るように眺めていた。
その中の一枚に目を留めた私は、思わず声を漏らす。

「……やっと、まともな仕事かしら」

記されていたのは――近郊の森に巣食うオークの群れ討伐。
これまでの薬草採りや荷運びのような下働きではなく、正真正銘の戦闘依頼だった。

「よし、俺たちの腕の見せどころだな!」
グラントがごつい拳を鳴らし、豪快に笑う。

「う、うん……」
エリオは顔を青くしながらも、拳を握り締めていた。
(大丈夫。回路の調整は済んでいる。今度こそ、暴発なんてしないはず……!)

ヨシュアは依頼票を真剣に見つめ、低くつぶやいた。
「……オークか。わかった。僕が守る」

その声音は、年齢に似つかわしくない落ち着きと重さを帯びていた。
(やっぱり……普通じゃない。この子は、何かを隠している)

森の奥 ― オークとの遭遇

森の奥へと進むと、湿った空気の中で不気味な音が響き始める。
木々を押し分けて現れたのは、大きな牙と棍棒を構えたオークだった。
「グルゥアアアッ!!」

巨体が地面を揺らしながら突進してくる。

「ジェシカ、下がれ!」
ヨシュアがすかさず前へ飛び出した。
小柄な身体から繰り出される剣筋は鋭く、突進をいなすように横へ払う。
オークの動きが一瞬止まり、獣の目に驚きが宿る。

「……すごい」
思わず呟いていた。
(本当に、ただの少年剣士じゃない……!)

グラントがその隙を見逃さず、大剣を振り下ろした。
「うおおおおっ!」
唸りを上げて振り下ろされた刃は、オークの腕を斬り飛ばす。

エリオは杖を構え、唇を噛みしめる。
「……いける、俺だって!」
魔力が腕を伝い、今度は暴発せず炎が渦を巻いた。
「ファイア・バースト!」
轟音と共に足元を焼き尽くし、オークが悲鳴を上げて膝をつく。

「ナイス!」
私はすかさず回復の光を仲間に注ぎ、全員の体勢を整えた。
(これだ……これが本当の“冒険”だ!)

やがて、オークは地面に崩れ落ちた。

不穏な影

息をつく間もなく、背筋を撫でるような冷たい気配を感じた。
木立の向こうに、黒い外套をまとった男が立っている。
月明かりの下、その目はただ一人――ヨシュアを射抜いていた。

「……見つけたぞ、坊――」

その言葉を遮るように、ヨシュアの剣が閃き、木の枝を切り落とした。
「来るな!」

その一撃に、大人びた鋭さが宿っていた。
明らかに年齢にそぐわない、研ぎ澄まされた剣筋。

(やっぱり……ヨシュアには“秘密”がある)

けれど彼は何も語らない。
ただ振り返り、無邪気に笑った。

「ねえ、勝ったね! また依頼、成功だ!」

「……そうね」
私も笑い返すしかなかった。
だが胸の奥では、不安と疑問がじわじわと広がっていた。
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