『定年聖女ジェシカの第二の人生 〜冒険者はじめました〜』

夢窓(ゆめまど)

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襲撃の夜 ーーヨシュア誘拐される。

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オーク討伐の依頼を終え、ギルドに戻ると大いに盛り上がった。
「おーい、見ろよ! 期限切れ聖女のパーティーが依頼を成功させたぞ!」
「マジかよ、落ちこぼれ魔術師が役に立ったって!?」
「子供が剣でオークを倒したんだと!」

……ギルドはちょっとした祭りのような騒ぎだった。

「ふふ、やっと“まともな冒険者”として見てもらえたかもね」
私は胸を張る。

けれど、その喧騒の裏。
黒いフードを被った人物が、静かにこちらを見つめていた。
視線の先は、ヨシュア。



夜の宿で

宴会を終え、宿の一室。
「ふわぁ……お母さん、おやすみ!」
「お母さんじゃない!」と反射で叫ぶのも、もう慣れた。
ヨシュアは笑いながら布団に潜り込み、すぐに寝息を立てる。

(……やっぱり普通の子供みたいに見えるのに)
戦闘中の剣筋や、あの黒衣の男の視線を思い出すと、胸の奥がざわついた。



刺客の接近

翌日。
市場で買い物をしていると、不意に人混みの中で誰かの手が私の腕を掴んだ。
「……っ!」
振り返ると、昨夜森で見た黒衣の男だった。

「……あの子を、差し出せ」
低く冷たい声。
「ヨシュアを狙ってるのね」

「あれは……あの家の血を引く者だ。生かしておけば、国が揺らぐ」

(やっぱり……ヨシュアには訳がある)

「嫌よ。あの子はうちのパーティーの仲間なんだから」
私が突っぱねると、男の口元が歪んだ。
「……ならば全員、消すまでだ」

その瞬間、背後からグラントが現れて拳を叩き込む。
「仲間を狙う奴は、ぶっ飛ばす!」

しかし黒衣の男は驚くほどしなやかに受け身を取り、すぐに人混みに消えていった。
残されたのは、ざわめきと私の心臓の高鳴りだけ。



影の気配

夜。
ヨシュアは布団の中で眠っている。
けれどその寝顔を見ながら、私は思う。
(“あの家”って……どこのこと? そして、どうして国が揺らぐの?)

刺客は確かに言った。
――「生かしておけば国が揺らぐ」

期限切れ聖女の私が、こんな大きな陰謀に巻き込まれるなんて……。
でも、もう決めてる。
ヨシュアは仲間。守る。


その夜。
宿の窓を破って、闇の気配が一気に流れ込んだ。
「っ!?」
私が飛び起きたときには、黒衣の刺客たちが部屋を包囲していた。

「標的を確保しろ」
「離せっ!」
ヨシュアの叫び。小柄な身体がもがくが、屈強な男たちに押さえつけられる。

「ヨシュア!」
駆け寄ろうとした瞬間、刃が私の前に突き付けられた。
「下がれ、期限切れ聖女」
(くっ……!)



連れ去り

「坊……いや、ヨシュア様。おとなしくしていただこう」
男の言葉に、場が一瞬凍った。
「ヨシュア“様”…?」
私の胸に不穏な響きが残る。

次の瞬間、窓から飛び去る影と共に、ヨシュアの姿は消えていた。

「連れていかれた……!」
グラントが拳を握り、歯ぎしりする。
エリオは真っ青な顔で呟いた。
「……“様”って……どういうことだよ……」



秘密の露見

追跡の途中、刺客の一人を捕らえたグラントが喉元に剣を突き付けた。
「吐け! ヨシュアをどこへ連れていった!」

男は苦笑いを浮かべる。
「……我らは任を果たすのみ。あの子を生かしておけば……王家の継承が揺らぐ」

「王家……!?」
私の背筋が凍る。

(やっぱり……ヨシュアはただの剣士じゃない。あの子は……王族の血を引く者だったのね)



決意

「……期限切れでも、関係ない」
私は深く息を吸い込んだ。
「ヨシュアは仲間。家族よ。絶対に取り戻す!」

エリオとグラントが力強く頷く。
「当たり前だ!」
「……俺だって、もう逃げない」

期限切れ聖女、落ちこぼれ魔術師、ならず者戦士。
余り物パーティーは今、王家を揺るがす陰謀に真っ向から挑むことを決意した。





山奥の廃砦 ― ヨシュアの脱出

辺境の山中に残る、朽ち果てた廃砦。
石壁には蔦が這い、空気は湿って重い。
その奥の一室に、ヨシュアは鎖で繋がれていた。

「……僕を殺そうとするなんて。兄上……やっぱりそういうことか」

鎖を睨みつけ、彼はそっと息を整える。
剣は奪われたまま。だが、小柄な体を活かして壁際に体をねじ込み、錆びついた環を蹴り外す。
金具がガチャンと砕け、自由になる。

「仲間のところに……戻らなくちゃ」



仲間との合流

その頃、私たちは廃砦に突入していた。
「気をつけろ! 罠もあるぞ!」
グラントが大剣で扉を吹き飛ばし、エリオが怯えながらも魔法で松明を灯す。

「ジェシカ!」
廊下の奥から飛び出してきたのは、泥だらけのヨシュアだった。
「よく無事で……!」

私は腰に差した剣を抜き、彼に差し出す。
「ヨシュア、これ!」
「ありがとう!」
剣を握った瞬間、彼の瞳が鋭く輝く。



廃砦での戦闘

すぐに刺客たちが雪崩れ込む。
「逃がすな!」

「上等だぁ!」
グラントが吠えて突撃、鉄の扉ごと敵を押し潰す。
「フレイム・アロー!」
エリオの魔法が狭い廊下を炎で照らし、敵を怯ませる。

そしてヨシュア──
「……そこをどけ!」
剣が閃き、黒衣の刺客たちを次々に薙ぎ払う。
その姿は、もはや子供ではなく、戦場を駆ける王家の血筋そのものだった。

「行くわよ、みんな!」
私は回復の光を放ち、パーティーは廃砦を突破した。



脱出後の告白

崩れかけた山道を抜け、ようやく息を整えた。
ヨシュアは剣を杖のように突き、肩で息をしていた。

「……ごめん。隠してたことがあるんだ」

私とエリオ、グラントは黙って彼を見つめる。

「僕は、王家につながる家の跡継ぎなんだ。
でも、兄上の……愛人の息子が僕を殺そうとしてる。
だから、逃げなきゃいけないんだ」

「逃げるって……どこに?」

ヨシュアの瞳が揺れる。
「母の兄のところに……行かなきゃならない。
正規のルートは全部封じられてる。だから……裏道を探さないと、必ず殺される」

彼の声は子供のそれではなく、背負うものを知った若者の声だった。

(……やっぱり。あの無邪気さの奥に隠していたのは、重すぎる運命)

私は拳を握りしめた。
「……いいわ。一緒に行く。期限切れでも、聖女でも、関係ない。あなたは仲間よ」

エリオが頷き、グラントがニカッと笑った。
「守るのは当たり前だろ!」

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