やってらんないので、聖女も悪役もヒロインも王太子から逃げました。あとは王家で頑張って

夢窓(ゆめまど)

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『焼肉モリモリと討伐記録と聖女バレ』

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煙もうもうの焼肉屋。
炭火の上で、ジュージューと音を立てるカルビ。
香ばしい脂の香りが、鼻孔を刺激する。

「うっまっっ! 野菜スープオンリー生活、あれマジなんだったの!?」

ぐいっとあおるのは、ビール風の麦ジュース(※微発泡ハーブ入り)。
頬を染めるフィーネ。
元・聖女、現・脱走中。

今この瞬間、彼女は“信仰”すら焼き尽くそうとしていた。

……が、そのとき。

「──何をなさっているんですか?」

「………………げっ」

背後から現れたのは、深緑のローブを翻す長身の男。
切れ長の瞳。真顔。静かな圧。髪は茶色目も琥珀色の美丈夫さんだ。

アデル。

神殿直属の魔法使い。
討伐記録をいくつも持つ、超・実力派。
そして、聖女の祈りに心酔していた……と噂される真面目男。

「ア、アデル……さん!? こ、これはですね、そのっ」

「あの、焼いてらっしゃるのは……肉?」

「ほ、ほら。街の浄化の祈りっていうか、炭火で、禊の──」

「脂身ですね」

「……う、うん……?」

「脂は供物として不適切です。火を用いすぎると祈りが乱れ──」

(うわあああ、理屈が止まらないぃぃぃ! めんどくさッ!)

しかし次の瞬間──

「……けれど。うまそうですね」

「は?」

「私も……上カルビ、塩でお願いします」

「えぇぇぇ!?」

すっと腰を下ろすアデル。
真顔でメニューを見つめる。

「実はですね、ずっと煙が気になってたんです。香ばしい香りが、こう、こう、……こう!」

「語彙失ってる!? さっきまで脂身がどうとか言ってたじゃん!!」

「いや、ぶっちゃけ僕も神殿飯に飽きてました。黙っててください」

「同志かよ!!!」

麦ジュースで、カチンと乾杯。

──元・聖女と、神殿の切れ者魔法使い。
焼肉という名の聖域で、謎の“脱信仰革命”が今、始まる。

 

***

『聖女と魔法使い、焼肉で目覚める自由の味』
 

「……で、塔はどうするんです?」

「知らん! そもそも閉じ込めるとか意味不明だし!!」

「実は私もそう思ってました。
“聖女は座って祈ってろ”って、もう祈りマシーンじゃないですか……」

「そうそう! 人間性どこ行った!」

「……あ、ホルモンうま」

「話そらすなっ!」

「それと、変身魔法、素敵ですね」

「えっ」

「おさげ髪に焼肉の煙。そこにちょっとした背徳の香り──ギャップ萌えです」

「……ギャップ萌え?」

「好みです。すごく。あと魔法の気配で、すぐバレてました」

「うっわ……魔法使い怖っ!」

「もう一軒、いい店知ってます。行きます?」

 

***

 

翌朝。

森の小屋。
畳に似た敷物の上で、ふたりそろって二日酔いのポーズ。

「……で。どうすんのよ。
私は王家にも神殿にも戻る気、ないし」

「……僕も辞めます」

「は?」

「もういいです。聖女が塔にいる意味、考えたら、心が……焼肉に傾きました」

「焼肉関係ある!?」

「いや、正確には……“あなた”が肉を頬張ってた笑顔ですかね」

「ちょ、ちょっと、口がうまいぞコイツ」

 

──こうして。

聖女フィーネ(脱走済)と、魔法使いアデル(脱職希望)は、
祈りの塔を後にして。

森でのスローライフを始めた。

 

囲炉裏の火は、今日もぽかぽか。
新鮮なキノコと、野菜と、時々お肉。

「信仰も大事だけど、まずは“いただきます”からだよね!」

そう笑うフィーネの隣で、アデルが優しく頷いた。

──この二人が、やがて伝説の“森の聖女と伴侶”と呼ばれることになるのは、
もう少し、後の話である。
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