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『神に背いたって、うまいもん食べて笑ってりゃ、いい暮らし。』
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「よし、ここにもガチの結界つくっとくわ」
マロン(※元・聖女フィーネ/現在改名中)は、森の入口に手をかざした。
ぱちん、と指を鳴らすと、空間がゆらりと揺れ、
森の内と外を分かつ“神聖結界”が出現。
「はい、これで変な王子が道に迷って来ても、ぷるんと弾かれます」
「転移魔法も遮断済みです。あと、空飛ぶ監視の鳥──焼き落としときました」
「処理が早ぇ」
アデル、かつての神殿最強魔法使い。現在、脱・真面目路線。
◆
さて、本日のおしごと。
「じゃ、畑やるね。神聖力で、ズッキーニとトマト育てる。万能野菜」
「俺は森の見回りしてくる。ついでに、獣狩って肉確保してくるわ。あ、酒も仕入れてくる」
「ねえ、これ人間界で最強に快適な暮らしじゃない?」
「王家戻る意味、ガチでゼロ」
「神さまって、ほんとに塔が好きなんかな……」
「こっちの方がよっぽど“ありがたい”と思うけどね。野菜に感謝して、畑に祈っとけばいいでしょ」
──信仰は、塔じゃなくて畑の時代へ。
◆
マロンは“祝福の種”で、秒速収穫。
アデルは獣討伐 → 氷魔法で冷凍保存 → 熟成加工まで担当。
風呂は温泉を湧かし、酒は街でこっそり調達。
「今日も祝福ズッキーニうまっ」
「俺の猪ローストも評価してくれ」
「うーん、じゃあ“☆五つ”あげる」
「満点じゃん……惚れるわ」
◆
夕暮れ、森に金と茜のグラデーション。
マロンは早めに畑を切り上げて、焚き火のそばへ。
アデルは、火に薪をくべながら、ちらりと視線を向ける。
「……今日は、なんだか“話がある”顔してますね」
「……うん」
しばし、静けさ。
虫の声と、パチパチとはぜる火の音だけが響く。
「アデルさん。……マロンはね、あなたといると“地に足がつく”気がするの」
「……?」
「聖女って、ずっと空中に浮いてるみたいな存在でしょ。希望とか、象徴とか」
「……わかります」
「でも、あなたは私を“人間”として見てくれる。祈りでも奇跡でもなく、ちゃんと地に足のついた人として」
「……」
アデルは、火を見つめながら、何も言わない。
マロンは、そっと立ち上がって手を差し伸べた。
「ねえ。ここで一緒に暮らしませんか?
朝ごはんは交代制、喧嘩してもすぐ仲直り。ハーブティーはふたり分で」
アデルが顔を上げた。
瞳の奥にきらりと光る何か──それは火の粉か、それとも。
「……はい、喜んで。
できれば、“ずっと”一緒に」
マロンが、ふっと笑って言った。
「じゃあ、明日の朝は私が作るね。あなたの好きな、ハーブパンケーキ」
「……じゃあ、明後日は、僕の“とっておき薬草スープ”をどうぞ」
その夜。
テーブルには、討伐してきたイノシシ肉のシチューと、祝福ズッキーニのサラダ。
ふたりは焚き火を囲んで、笑い合う。
「マジでさ、王都ってなんだったんだろ」
「逃げて正解だったね。マジで」
「神さま、見てたら怒るかな?」
「いや、多分、笑ってると思う。
……“よかったな、お前ら”って」
森の夜は、穏やかに更けていく。
信仰も、使命も、名前すらも置いてきたけれど──
ここには、ふたりの時間がある。
そしてそれは、
神殿の塔では決して得られなかった“人間らしい幸福”だった。
ーーーーーーーーー
塔の中。
朝食のスープは冷えきり、固いパンはさらに石のようになっていた。
巡回の神官がそれを見て、眉をひそめる。
「……手をつけていない?」
部屋を見渡して、さらに顔色が変わる。
寝台はきれいに整えられ、洗面器の水は空っぽ。
衣服も……数着、消えている。
神官(小声)
「……まさか、脱走?」
慌てて廊下へ飛び出し、同僚の神官を呼び寄せる。
「おい、聖女様の姿が見えない!」
「……は? どこかで祈っておられるのでは」
「服も減ってるんだ、しかも昨夜の巡回では姿を見ていない!」
二人は顔を見合わせ、同時に声を潜めた。
「……まずいぞ。王家に知られたら、俺たちの首が飛ぶ」
「だが、探し回れば噂になる。静かに探すしか……」
すぐに三人、四人と仲間を集め、
“森や街を装って見回る班”と“塔に戻った時に備えて待機する班”に分かれる。
神官(決意の声)
「……いいか、王家には一言も言うな。
聖女様が“自主的にお出かけ”しただけだ。そういうことにする」
⸻庭園。
その頃、王子はジニーに向かって得意げに語っていた。
「白百合の花束を抱えて塔を訪ねれば、聖女も喜ぶだろう」
「……ええ、きっと」
(※ちなみに塔は今、空っぽです)
こうして、神殿の裏側では静かな大騒ぎが始まっていたが、
王家には一切報告されないまま──
フィーネは、自由を満喫していた。
マロン(※元・聖女フィーネ/現在改名中)は、森の入口に手をかざした。
ぱちん、と指を鳴らすと、空間がゆらりと揺れ、
森の内と外を分かつ“神聖結界”が出現。
「はい、これで変な王子が道に迷って来ても、ぷるんと弾かれます」
「転移魔法も遮断済みです。あと、空飛ぶ監視の鳥──焼き落としときました」
「処理が早ぇ」
アデル、かつての神殿最強魔法使い。現在、脱・真面目路線。
◆
さて、本日のおしごと。
「じゃ、畑やるね。神聖力で、ズッキーニとトマト育てる。万能野菜」
「俺は森の見回りしてくる。ついでに、獣狩って肉確保してくるわ。あ、酒も仕入れてくる」
「ねえ、これ人間界で最強に快適な暮らしじゃない?」
「王家戻る意味、ガチでゼロ」
「神さまって、ほんとに塔が好きなんかな……」
「こっちの方がよっぽど“ありがたい”と思うけどね。野菜に感謝して、畑に祈っとけばいいでしょ」
──信仰は、塔じゃなくて畑の時代へ。
◆
マロンは“祝福の種”で、秒速収穫。
アデルは獣討伐 → 氷魔法で冷凍保存 → 熟成加工まで担当。
風呂は温泉を湧かし、酒は街でこっそり調達。
「今日も祝福ズッキーニうまっ」
「俺の猪ローストも評価してくれ」
「うーん、じゃあ“☆五つ”あげる」
「満点じゃん……惚れるわ」
◆
夕暮れ、森に金と茜のグラデーション。
マロンは早めに畑を切り上げて、焚き火のそばへ。
アデルは、火に薪をくべながら、ちらりと視線を向ける。
「……今日は、なんだか“話がある”顔してますね」
「……うん」
しばし、静けさ。
虫の声と、パチパチとはぜる火の音だけが響く。
「アデルさん。……マロンはね、あなたといると“地に足がつく”気がするの」
「……?」
「聖女って、ずっと空中に浮いてるみたいな存在でしょ。希望とか、象徴とか」
「……わかります」
「でも、あなたは私を“人間”として見てくれる。祈りでも奇跡でもなく、ちゃんと地に足のついた人として」
「……」
アデルは、火を見つめながら、何も言わない。
マロンは、そっと立ち上がって手を差し伸べた。
「ねえ。ここで一緒に暮らしませんか?
朝ごはんは交代制、喧嘩してもすぐ仲直り。ハーブティーはふたり分で」
アデルが顔を上げた。
瞳の奥にきらりと光る何か──それは火の粉か、それとも。
「……はい、喜んで。
できれば、“ずっと”一緒に」
マロンが、ふっと笑って言った。
「じゃあ、明日の朝は私が作るね。あなたの好きな、ハーブパンケーキ」
「……じゃあ、明後日は、僕の“とっておき薬草スープ”をどうぞ」
その夜。
テーブルには、討伐してきたイノシシ肉のシチューと、祝福ズッキーニのサラダ。
ふたりは焚き火を囲んで、笑い合う。
「マジでさ、王都ってなんだったんだろ」
「逃げて正解だったね。マジで」
「神さま、見てたら怒るかな?」
「いや、多分、笑ってると思う。
……“よかったな、お前ら”って」
森の夜は、穏やかに更けていく。
信仰も、使命も、名前すらも置いてきたけれど──
ここには、ふたりの時間がある。
そしてそれは、
神殿の塔では決して得られなかった“人間らしい幸福”だった。
ーーーーーーーーー
塔の中。
朝食のスープは冷えきり、固いパンはさらに石のようになっていた。
巡回の神官がそれを見て、眉をひそめる。
「……手をつけていない?」
部屋を見渡して、さらに顔色が変わる。
寝台はきれいに整えられ、洗面器の水は空っぽ。
衣服も……数着、消えている。
神官(小声)
「……まさか、脱走?」
慌てて廊下へ飛び出し、同僚の神官を呼び寄せる。
「おい、聖女様の姿が見えない!」
「……は? どこかで祈っておられるのでは」
「服も減ってるんだ、しかも昨夜の巡回では姿を見ていない!」
二人は顔を見合わせ、同時に声を潜めた。
「……まずいぞ。王家に知られたら、俺たちの首が飛ぶ」
「だが、探し回れば噂になる。静かに探すしか……」
すぐに三人、四人と仲間を集め、
“森や街を装って見回る班”と“塔に戻った時に備えて待機する班”に分かれる。
神官(決意の声)
「……いいか、王家には一言も言うな。
聖女様が“自主的にお出かけ”しただけだ。そういうことにする」
⸻庭園。
その頃、王子はジニーに向かって得意げに語っていた。
「白百合の花束を抱えて塔を訪ねれば、聖女も喜ぶだろう」
「……ええ、きっと」
(※ちなみに塔は今、空っぽです)
こうして、神殿の裏側では静かな大騒ぎが始まっていたが、
王家には一切報告されないまま──
フィーネは、自由を満喫していた。
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