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『身投げしたはずが、森の宴会で合流ってどういうこと!?』
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月が静かに夜空をわたるころ。
鏡のような泉に、その銀の姿がゆらめいていた。
しんとした森にただ、さざ波が小さく音を立て──
──ドボンッ!!
「ぶはっ!? つ、つめっ……な、なにごと!?」
水面を割って飛び出したのは、ずぶ濡れの女。
王都で“氷の花”と讃えられる美貌の公爵令嬢──マルグリット・ド・ロジェその人だった。
裾まで浸かったドレスは水を吸って重く、髪は顔に貼りつき、寒さで肩が震えている。
「ここ……泉? 焚き火……の匂い……?」
濡れたまま立ちすくんだ彼女の鼻先に、どこか懐かしく優しい香りが届く。
焼きたてのパン。炙った肉。香草の混じるスープの湯気──
そして、笑い声。
◆
木立を抜けた先に、ほんのり光る焚き火の輪があった。
誰もいないと思っていた森の奥に、誰かがいた。
「アデル、このイノシシ肉、火の入りちょうどいいわ。ワインが進んじゃう~!」
「街の裏路地で買ったやつだ。怪しかったが、案外当たりだったな」
焚き火を囲んでいたのは、元・神殿の聖女マロンと、元・神殿魔法使いのアデルだった。
串焼き、シチュー、こんがり焼けたパン──
月明かりに照らされ、森の宴はあまりに楽しそうで、現実味がなかった。
マルグリットは目を瞬かせ、唖然とする。
「え……えっ? ど、どういう……え、宴?」
マロンがワインのグラスをくるりと掲げる。
「あら、身投げさん? ようこそ、森の湯あがり宴会へ」
「……は?」
アデルも視線を上げ、目を細めた。
「おや……王都の……マルグリット嬢?」
「え、えええ!? フィーネ様!? アデル様!? な、なぜ森に!?」
マロンがふっと笑い、ワインをひとくち。
「王子から逃げてきたの。もう定住してます♪」
アデルは肉をくるくる回しながら呟く。
「塔がクソだったので」
マルグリットは、ばしゃっと水音を立ててその場にへたり込んだ。
濡れたドレスの裾が、冷たくて、やけに重たい。
「……さすがに、王妃候補、身バレしましたわ……」
◆
焚き火のそば。
マルグリットはアデルの魔法で服を乾かされ、マロンにタオルとふかふかのローブを渡されていた。
ローブに包まりながら、ようやく落ち着いた彼女は、小さな声でぽつぽつと話し始める。
「……王子に言われたんです。“お飾りでいい、愛は求めるな”って……
“子ども産むまでは抱いてやる”って……“その後は育てとけ”って……」
ぱちん、と焚き火が弾ける音がした。
その音とともに、マロンの表情が静かに変わる。
「──ああ、やっぱ最低だわ、王子」
アデルは無言で肉の串を持ち上げ、一言だけ、
「……肉以下だな、あれは」
マルグリットの肩が、小さく揺れた。
息を呑むようにして、彼女は絞り出す。
「……もう、死のうと、泉に……飛び込んで……」
その言葉に、アデルが無言でスプーンを差し出す。
「ほら、まずは温かいもんを食え。星、見ながらが一番うまい」
マロンが笑って言った。
「あとさ、あんたには“幸せな反撃”の方が似合うと思うのよ」
マルグリットは驚いたように、マロンを見た。
「フィーネ様……」
「今はマロン。改名済みだから」
「……マロン様……」
「だからどう? 一緒に森で生きるっていう選択肢」
「……え……?」
「風呂もあるし、料理もうまいし、神さまの結界で追っ手も来ないし」
アデルが肉を掲げながら付け加える。
「泉から飛び込んだ人しか来れない。神さまチョイスだ。ある意味、運命」
マルグリットの瞳に、かすかな光が宿る。
「……人生、やり直せますか?」
マロンは満面の笑みで答える。
「いくらでも。ここ、“人生リスタートブートキャンプ”だから!」
◆
その夜──
マルグリットは焚き火のそばで、マロンが淹れたスープの湯気をすする。
その隣でアデルが、黙って薪をくべる。
パチ、パチと火が爆ぜて、炎がまた明るく燃え上がった。
「……あったかい……」
「でしょ? 王家の玉座より、森の焚き火の方が温かいのよ」
マロンが微笑む。
マルグリットはそっと空を見上げる。
そこには、穏やかにほほえむ月がいた。
──この森は、すべてを拒んだ者たちが、“生き直す”場所。
そして今日、新たに一人。
“日焼けしたら王妃失格”な令嬢が、“焚き火の仲間”として加わったのだった。
鏡のような泉に、その銀の姿がゆらめいていた。
しんとした森にただ、さざ波が小さく音を立て──
──ドボンッ!!
「ぶはっ!? つ、つめっ……な、なにごと!?」
水面を割って飛び出したのは、ずぶ濡れの女。
王都で“氷の花”と讃えられる美貌の公爵令嬢──マルグリット・ド・ロジェその人だった。
裾まで浸かったドレスは水を吸って重く、髪は顔に貼りつき、寒さで肩が震えている。
「ここ……泉? 焚き火……の匂い……?」
濡れたまま立ちすくんだ彼女の鼻先に、どこか懐かしく優しい香りが届く。
焼きたてのパン。炙った肉。香草の混じるスープの湯気──
そして、笑い声。
◆
木立を抜けた先に、ほんのり光る焚き火の輪があった。
誰もいないと思っていた森の奥に、誰かがいた。
「アデル、このイノシシ肉、火の入りちょうどいいわ。ワインが進んじゃう~!」
「街の裏路地で買ったやつだ。怪しかったが、案外当たりだったな」
焚き火を囲んでいたのは、元・神殿の聖女マロンと、元・神殿魔法使いのアデルだった。
串焼き、シチュー、こんがり焼けたパン──
月明かりに照らされ、森の宴はあまりに楽しそうで、現実味がなかった。
マルグリットは目を瞬かせ、唖然とする。
「え……えっ? ど、どういう……え、宴?」
マロンがワインのグラスをくるりと掲げる。
「あら、身投げさん? ようこそ、森の湯あがり宴会へ」
「……は?」
アデルも視線を上げ、目を細めた。
「おや……王都の……マルグリット嬢?」
「え、えええ!? フィーネ様!? アデル様!? な、なぜ森に!?」
マロンがふっと笑い、ワインをひとくち。
「王子から逃げてきたの。もう定住してます♪」
アデルは肉をくるくる回しながら呟く。
「塔がクソだったので」
マルグリットは、ばしゃっと水音を立ててその場にへたり込んだ。
濡れたドレスの裾が、冷たくて、やけに重たい。
「……さすがに、王妃候補、身バレしましたわ……」
◆
焚き火のそば。
マルグリットはアデルの魔法で服を乾かされ、マロンにタオルとふかふかのローブを渡されていた。
ローブに包まりながら、ようやく落ち着いた彼女は、小さな声でぽつぽつと話し始める。
「……王子に言われたんです。“お飾りでいい、愛は求めるな”って……
“子ども産むまでは抱いてやる”って……“その後は育てとけ”って……」
ぱちん、と焚き火が弾ける音がした。
その音とともに、マロンの表情が静かに変わる。
「──ああ、やっぱ最低だわ、王子」
アデルは無言で肉の串を持ち上げ、一言だけ、
「……肉以下だな、あれは」
マルグリットの肩が、小さく揺れた。
息を呑むようにして、彼女は絞り出す。
「……もう、死のうと、泉に……飛び込んで……」
その言葉に、アデルが無言でスプーンを差し出す。
「ほら、まずは温かいもんを食え。星、見ながらが一番うまい」
マロンが笑って言った。
「あとさ、あんたには“幸せな反撃”の方が似合うと思うのよ」
マルグリットは驚いたように、マロンを見た。
「フィーネ様……」
「今はマロン。改名済みだから」
「……マロン様……」
「だからどう? 一緒に森で生きるっていう選択肢」
「……え……?」
「風呂もあるし、料理もうまいし、神さまの結界で追っ手も来ないし」
アデルが肉を掲げながら付け加える。
「泉から飛び込んだ人しか来れない。神さまチョイスだ。ある意味、運命」
マルグリットの瞳に、かすかな光が宿る。
「……人生、やり直せますか?」
マロンは満面の笑みで答える。
「いくらでも。ここ、“人生リスタートブートキャンプ”だから!」
◆
その夜──
マルグリットは焚き火のそばで、マロンが淹れたスープの湯気をすする。
その隣でアデルが、黙って薪をくべる。
パチ、パチと火が爆ぜて、炎がまた明るく燃え上がった。
「……あったかい……」
「でしょ? 王家の玉座より、森の焚き火の方が温かいのよ」
マロンが微笑む。
マルグリットはそっと空を見上げる。
そこには、穏やかにほほえむ月がいた。
──この森は、すべてを拒んだ者たちが、“生き直す”場所。
そして今日、新たに一人。
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