やってらんないので、聖女も悪役もヒロインも王太子から逃げました。あとは王家で頑張って

夢窓(ゆめまど)

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【どさくさ求婚】マルグリットが

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森の誓い

夕暮れの森。
金色の光が差し込み、ハーブ畑に淡い影を落としていた。
マルグリットは花束を束ねていたが、背後から足音が近づくのを感じて振り返った。

そこに立っていたのは、いつもよりもきちんと髪を整えたバロンだった。
粗野さを抑えた仕立ての服に身を包み、姿勢は凛としている。

「……バロン?」
「……申し上げたいことがございます」

普段は寡黙な従者が、まっすぐな瞳で見つめてくる。
その声には、迷いがなかった。



男の告白

バロンは大きく息を吸い、そして絞り出すように言った。

「私……ずっとマルグリット様をお守りしたいと願ってきました。
この命に代えても、その笑顔を守りたいと。
王家が滅びようと、世がひっくり返ろうと……その想いだけは、決して変わりません」

一気に吐き出された言葉。
森の木々がざわめき、風がふたりの間を通り抜けた。

「……え、今? この混乱の中で?」
マルグリットは困惑と驚きに声を震わせる。

「はい、今です!」
バロンは即答した。
「この世の終わりが来るとしても、共にいたい相手はあなただから!」



見守る仲間たち

物陰からひそひそ声。

ジニーが腕を組みながら小声でつぶやく。
「……ほんとに、どさくさに紛れて求婚ってあるんだ」

マロンは感極まったように目を潤ませ、
「尊い……尊すぎる……!」と鼻をすする。

だが、ふたりの声などもう耳に入っていなかった。



受け止める言葉

マルグリットはゆっくりと笑みを浮かべた。
「……知ってたわ。ずっと、目が優しかったもの。
でも、口下手なバロンだから、最後まで言わないと思ってた」

「も、申し訳ありません! もっと早くに伝えるべきでした!」
「いいのよ。いま言ってくれたからこそ、胸に届いたの。……ありがとう」

彼女はほんのりと頬を染めて、柔らかに続けた。
「これからは……よろしくね」



父の涙

その瞬間。
背後から「む、娘よぉぉぉ!!」という号泣が響いた。

ロジェ公爵が両手で顔を覆い、肩を震わせている。
「“この世の終わりに一緒にいたい”だと!? おまえ、それを……神台詞を……!
ああっ、娘を人として愛してくれる男が……こんな近くにいたとは……!」

涙で濡れた声に、マルグリットは顔を赤らめて慌てる。
「お父さま、落ち着いてください。そんなに泣くほどじゃ……」

だが、バロンは静かに言い切った。
「私は、娘さんを飾りではなく、一人の女性として見ておりました。
そしてずっと、彼女に恋をしていたのです」

ロジェ公爵は天を仰ぎ、声を震わせて叫ぶ。
「神よ……感謝いたします! 娘がこんな男に出会えたことを……!」



手を取り合う

焚き火の明かりに照らされ、バロンはひざまずいた。

「……この森での暮らしは、私にとって宝物です。
王家がどうなろうと、世が荒れようと、私はあなたとともに生きたい。
森でも、公爵家でも……どこであろうと。
すべてはマルグリット様のお心のままに」

マルグリットはそっと彼の手を取り、優しく立たせる。
「……私の答えは、あなたと歩むこと。
行く先は──ふたりで決めていきましょう」

その瞬間、焚き火がぱちりと爆ぜた。
森の空気が一層温かく満ち、仲間たちの拍手が響き渡る。

マロンは泣きながら拍手を続け、
「誓いの言葉、百点満点よ!」と叫ぶ。

ジニーは腕を組み、ぶっきらぼうに言い捨てた。
「まあまあね。でも、王家よりずっとマシ」

炎に照らされるふたりの影は、もう揺らがなかった。
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