『風の魔女がステップをふめば、世界は笑う。』追放令嬢のスローライフ、復讐は、計画的に

夢窓(ゆめまど)

文字の大きさ
21 / 22

楽しいお茶会

しおりを挟む
最終章 ― 春の風のティータイム ―

王都・公爵家のサロン。
陽だまりの中、アンナは母とドバンと並んで紅茶を楽しんでいた。
庭には春の花が咲き、あの日、森から吹いた“温かい風”が、
今もやわらかく流れ込んでいる。

そこへ、ラジーヤが姿を現した。
淡い笑みを浮かべながら。

「殿下、お忙しいのでは?」とドバンが立ち上がる。

「忙しいよ。でも――お礼を言いに来た。」
ラジーヤは椅子に腰を下ろし、静かに言った。
「君が王都に風を送ってくれたからだ。見えないけれど、確かに少しずつ変わっていった。」

アンナは慌てて首を振る。
「そんな、大げさですよ。」

ラジーヤが目を細めて笑う。
「いや、大げさじゃない。……シコダンス、よかったよ。」

「ゴーゴーダンスですっ!」
アンナが真っ赤になって抗議する。

ラジーヤが冗談めかして肩をすくめる。
「右手と右足、いっしょに動かしてただろ?
 あれは、どう見てもシコダンスじゃないのか?」

「してませんっ!」
アンナが顔を真っ赤にして否定。

ロウエルは吹き出した。
「ぶっ……ははっ!」

ドバンと母も笑い出し、
サロンは柔らかな笑い声に包まれた。

ラジーヤは少し真面目な顔に戻り、
紅茶のカップを持ちながら言う。

「アンナ、公爵令嬢に戻ったけれど……これから、どうする?」

アンナは少し考えて、穏やかに微笑んだ。
「私は、森にいます。
 時々、母様とお茶を飲みに帰りますけど。」

ラジーヤは満足そうに頷いた。
「そうか。……それでいい。」

窓の外で、春の風が木々を揺らす。
森の方角から、どこか懐かしいリズムが聞こえた気がした。
ゴーゴーダンスかもしれない。
――いや、きっと、風の音だ。

ラジーヤはその音に耳を傾けながら、
静かに言った。

「この国は、まだ若い。
 若さのある国は、やり直せる。……君が、それを証明した。」

アンナは微笑み、
カップをそっと掲げた。

「それなら、また風を送りますね。」

笑いと紅茶の香りの中、
新しい王国の春が始まっていた。



春のデート ― 色の好みが合わなくても

王都の仕立屋通り。
陽光が降り注ぐショーウィンドウの前で、アンナは目を輝かせていた。

「ねぇロウエル、これ見て!
 春の新作のピンクのドレス、すっごく可愛いの!」

ロウエルは腕を組んで、静かに見つめた。
「……ピンク、ね。」

「なに、その“ね”って?」
アンナが頬を膨らませる。

「いや……君には黒とグリーンが似合うと思ってた。」
ロウエルは真顔で言いながら、ショーウィンドウに映るアンナの姿をちらりと見る。
「森の風の色だからな。落ち着いてて、綺麗だ。」

「森の風って、私は人間ですー!」
アンナは笑いながら、ピンクのドレスを手に取って店内へ入る。

しばらくして、試着室のカーテンが開いた。

淡い桜色のドレスに身を包んだアンナが立っている。
胸元のリボンがひらりと揺れ、髪には小さな花飾り。

「どう?」
少し照れくさそうに、くるりと一回転。

ロウエルは沈黙したまま、視線をそらした。
耳の先が、ほんのり赤い。

「……悪くない。」

「悪くないってなに!?」
アンナがぷくっと頬を膨らませる。

「ピンクも似合う。けど……」
ロウエルが、真剣な声で続けた。
「俺の隣に立つなら、黒とグリーンを着てほしい。」

「どうして?」

「それが、俺の色だから。」

一瞬、店内の空気が止まる。
アンナの頬がほんのり染まった。

「……そんな理由、ずるい。」

ロウエルは小さく笑う。
「ずるくても、言いたいんだよ。」

結局その日、アンナはピンクのリボンを買い、
ロウエルは深いグリーンのストールを彼女に渡した。

帰り道、風に二人の色が交わる。
森の若葉のように、春のピンクのように――。



結婚式の色論争

仕立屋の店を出た帰り道。
春の風が気持ちよく吹き抜ける。

アンナはついに我慢できなくなって言った。

「ねぇロウエル、結婚式はどうするのよ!」

「……は?」
ロウエルが歩みを止める。

「黒とグリーンなんて、嫌よ!
 ドレスは白でしょ、せめて花くらいピンクがいい!」

ロウエルは眉を寄せた。
「だが、白は汚れやすいし――」

「そういう問題じゃないのっ!」
アンナがぷいっとそっぽを向く。

「わかった。私、別の人と結婚する。
 “ピンクが可愛い”って言ってくれる人と!
 “白いドレスでお嫁に来て”って言ってくれる人と!」

その瞬間。

ロウエルは、まるで雷に撃たれたように動きを止めた。
仁王立ち。
完全に固まっている。

風が、二人の間をすり抜ける。

「……」

アンナがちらっと横を見ると、ロウエルの頬がぴくぴく動いた。
その顔は、怒っているのか焦っているのか、よくわからない。

「……別の人……?」

アンナが思わず笑いをこらえる。
「冗談よ。」

「冗談で済むかっ!」
ロウエルがようやく声を出した。

「白でもピンクでもいい!
 ……お前が笑ってるなら、それでいい!」

アンナは目を丸くして、次の瞬間ふっと微笑んだ。

「じゃあ、黒とグリーンは?」

「……ネクタイで我慢する。」

二人は顔を見合わせ、同時に吹き出した。

夕陽の中、笑いながら歩く二人の後ろを、
森からの柔らかな風が追いかけてくる。

その風の色は――
黒とグリーン、そして、ほんの少しピンクだった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

不器量令嬢は、婚約破棄の断罪が面倒くさい

あんど もあ
ファンタジー
不器量なマルグリットは、婚約者の美しい第一王子からずっと容姿を貶められる日々。とうとう王立学園の卒業パーティーで王子に婚約破棄を宣言され、「王子から解放される! それいいかも!」となったが、続く断罪が面倒くさくて他の人に丸投げする事にする。

婚約お断り令嬢ですわ ~奇行で縁談を潰していたら本命騎士に再会しました~

鍛高譚
恋愛
婚約話? 結構ですわ。 私には――子供の頃に命を救ってくれた“黒髪の騎士”がいるのですから。 公爵令嬢アンネローゼ・フォン・グレイシアは、才色兼備の完璧令嬢……だった。 だが、ある日から突如“奇行”に走り始める。正座で舞踏会に参加? スープにストロー? 謎のポエム朗読? そう、それはすべて――望まぬ婚約をぶち壊すため! 王族、貴族、策略家、演技派……次々と舞い込む政略結婚の話。 アンネローゼはあの手この手で縁談をぶった斬り、恋も名誉も自由も手に入れる! すべての婚約破棄は、たった一人の人に出会うため―― 「破談のアンネローゼ様」が貫く、“本当の婚約”とは? 痛快!恋愛ざまぁ×ラブコメディ×ハッピーエンド! 破談上等のお嬢様が、本物の愛を掴むまでの逆転劇が今、始まりますわ!

「偽物の聖女は要らない」と追放された私、隣国で本物の奇跡を起こしたら元の国が滅びかけていた件

歩人
ファンタジー
聖女リーゼロッテは、王太子カールに「お前の加護は偽物だ」と断じられ、 婚約を破棄された。代わりに聖女の座に就いたのは、愛らしく微笑む男爵令嬢エルゼ。 追放されたリーゼロッテが隣国に辿り着いたとき、その地は疫病に苦しんでいた。 彼女が祈ると、枯れた泉が蘇り、病は癒え、荒野に花が咲いた。 ——本物の聖女の力が、ようやく枷を外されて目覚めたのだ。 一方、リーゼロッテを失った王国では結界が綻び始め、魔物が溢れ出す。 カールは今さら「戻ってくれ」と使者を送るが、リーゼロッテの隣には、 彼女の力を最初から信じていた隣国の若き王がいた。 「あの国に戻る理由が、もう一つもないのです」

遺産は一円も渡さない 〜強欲な夫と義実家に捨てられた私、真の相続人と手を組み全てを奪い返す~ (全10話)

スカッと文庫
恋愛
「お前の価値なんて、その遺産くらいしかないんだよ」 唯一の肉親だった祖父を亡くした夜、夫の健一と義母から放たれたのは、あまりにも無慈悲な言葉だった。 四十九日も待たず、祖父が遺した1億2000万円の遺産をアテに贅沢三昧を目論む夫。だが、彼には隠し通している「裏切り」があった――。 絶望の淵に立たされた由美の前に現れたのは、亡き祖父が差し向けた若き凄腕弁護士・蓮。 「おじい様は、すべてお見通しでしたよ」 明かされる衝撃の遺言内容。そして、強欲な夫たちを地獄へ叩き落とすための「相続条件」とは? 虐げられてきた妻による、一発逆転の遺産争奪&復讐劇がいま幕を開ける!

「貧相な小娘」と罵った第一王子へ。番(つがい)は貴方ではなく、国王陛下(お父様)でした

しえろ あい
恋愛
「お父様、わたくし、あの方と目が合った瞬間、分かってしまったのです」 十六歳のデビュタントの夜、ルーセント侯爵令嬢フェリシアを待っていたのは、残酷な罵倒だった。第一王子カシウスは、可憐な白いドレスを纏った彼女を「貧相な小娘」と呼び、己の番(つがい)であることを真っ向から否定する。 会場に響く冷笑と、愛用の刺繍に込めた自信さえ打ち砕くような屈辱。しかし、絶望の淵に立たされた彼女を見つめていたのは、王子ではなく、圧倒的な威厳を放つ「ある男」だった。 魂を焦がすような熱い視線が重なり、静まり返る謁見の間。この出会いが、王室を揺るがす大事件の幕開けになるとは、まだ誰も知らない。自身の価値を否定された少女が、真実の愛によって世界で最も幸福な王妃へと駆け上がる、逆転溺愛ストーリー。 ※小説家になろう様にも投稿しています※

処刑台の皇妃、回帰して復讐を誓う ~冷酷公爵と偽りの婚約者~ おまえたちは許さない!

秦江湖
ファンタジー
皇妃エリアーナは、夫である皇帝アランと、たった一人の親友イザベラの策略により、無実の罪で処刑される。 民衆に罵られ、アランの冷酷な目とイザベラの嘲笑を「始まりの景色」として目に焼き付けながら絶命した彼女は、しかし、処刑の記憶を持ったまま三年前の過去に回帰する。 「おまえたちは許さない」 二度目の人生。 エリアーナの目的はただ一つ、自分を陥れた二人への完璧な復讐。 彼女はまず、アラン(皇太子)からの婚約内示を拒絶。そして、アラン最大の政敵である「北の冷血公爵」ルシアン・ヴァレリウスに接触する。 1周目で得た「未来の知識」を対価に、エリアーナはルシアンに持ちかける。 「貴方様には帝国の覇権を。わたくしには復讐の舞台を。そのための『契約婚約』を――」 憎悪を糧に生きる皇妃と、氷の瞳を持つ公爵。 二人の偽りの婚約の行く末は……

【完結】婚約者?勘違いも程々にして下さいませ

リリス
恋愛
公爵令嬢ヤスミーンには侯爵家三男のエグモントと言う婚約者がいた。 先日不慮の事故によりヤスミーンの両親が他界し女公爵として相続を前にエグモントと結婚式を三ヶ月後に控え前倒しで共に住む事となる。 エグモントが公爵家へ引越しした当日何故か彼の隣で、彼の腕に絡みつく様に引っ付いている女が一匹? 「僕の幼馴染で従妹なんだ。身体も弱くて余り外にも出られないんだ。今度僕が公爵になるって言えばね、是が非とも住んでいる所を見てみたいって言うから連れてきたんだよ。いいよねヤスミーンは僕の妻で公爵夫人なのだもん。公爵夫人ともなれば心は海の様に広い人でなければいけないよ」 はて、そこでヤスミーンは思案する。 何時から私が公爵夫人でエグモンドが公爵なのだろうかと。 また病気がちと言う従妹はヤスミーンの許可も取らず堂々と公爵邸で好き勝手に暮らし始める。 最初の間ヤスミーンは静かにその様子を見守っていた。 するとある変化が……。 ゆるふわ設定ざまああり?です。

婚約破棄された伯爵令嬢ですが、辺境で有能すぎて若き領主に求婚されました

おりあ
恋愛
 アーデルベルト伯爵家の令嬢セリナは、王太子レオニスの婚約者として静かに、慎ましく、その務めを果たそうとしていた。 だが、感情を上手に伝えられない性格は誤解を生み、社交界で人気の令嬢リーナに心を奪われた王太子は、ある日一方的に婚約を破棄する。  失意のなかでも感情をあらわにすることなく、セリナは婚約を受け入れ、王都を離れ故郷へ戻る。そこで彼女は、自身の分析力や実務能力を買われ、辺境の行政視察に加わる機会を得る。  赴任先の北方の地で、若き領主アレイスターと出会ったセリナ。言葉で丁寧に思いを伝え、誠実に接する彼に少しずつ心を開いていく。 そして静かに、しかし確かに才能を発揮するセリナの姿は、やがて辺境を支える柱となっていく。  一方、王太子レオニスとリーナの婚約生活には次第に綻びが生じ、セリナの名は再び王都でも囁かれるようになる。  静かで無表情だと思われた令嬢は、実は誰よりも他者に寄り添う力を持っていた。 これは、「声なき優しさ」が、真に理解され、尊ばれていく物語。

処理中です...