『婚約破棄はおいくら?』 ──婚約破棄はまず、精算からお願いしてもいいですか?

夢窓(ゆめまど)

文字の大きさ
4 / 18

王家に請求書が届く

──翌朝。
王城の執務室。分厚い封蝋つきの書状が届けられ、執事が王子カナタの前に差し出した。



執事
「殿下、商人ギルドから正式な請求が届いております」

カナタ
「……請求? たかが婚約破棄に、何を大げさに──」

しかし、封を切った瞬間、彼の顔色がみるみる蒼白に変わる。

カナタ
「き、金貨三百万枚!? 馬鹿な、こんな額……!」



隣でルビーが覗き込み、叫んだ。

ルビー
「三百万!? た、ただの本好き女に、そんな値打ちがあるわけないわ!」

しかし執務室に控える文官が一歩前に出て、冷ややかに告げた。

文官
「ギルド査定の結果は正当です。
しかも──影の調査報告によれば、殿下から“婚約者キャスリン嬢への贈答”はすべて、なぜかルビー嬢に流れていたとのこと」



一同が凍りつく。
カナタはしどろもどろに弁解を口にした。

カナタ
「そ、それは……ルビーに似合うと思っただけで──」

文官
「つまり、正当な婚約者をないがしろにし、他の女性に資産を横流ししていた、という事実ですね」



ルビー
「そ、そんな言い方やめて! わたくしは殿下に求められただけで……!」

しかし周囲の貴族や官僚は冷ややかに見ている。
請求書の金額よりも、“王子の婚約者軽視”という事実が、国中に広まることを恐れていた。



別の官僚
「これでは裁判となった場合、王家の面目は丸潰れですな」

文官
「殿下、支払えないのであれば、名誉の失墜は避けられません」



カナタは頭を抱え、ルビーは泣き崩れる。
その惨めな姿が、窓越しに差し込む朝日に照らされていた。


(国王の激怒とルビー排除)

──王城、謁見の間。
請求書を受け取った国王が玉座に座り、怒声を轟かせていた。



国王
「愚か者がッ!
婚約者を軽んじ、賠償金を背負い、王家の名誉を地に落とすとは!」

その声に、大理石の床が震えるほど。
廷臣たちは皆、息を呑み、誰一人として口を開けない。



カナタ
「ち、父上……! ですが、私はルビーを──」

国王
「黙れ! その女こそ諸悪の根源だ!」

鋭い視線がルビーに突き刺さる。
ルビーは顔を真っ青にし、必死に縋りついた。

ルビー
「お、王よ……! わ、私は殿下に求められて……!」

国王
「誰がそのような言い訳を信じるか!
貴様が甘言を弄して王子を惑わせたせいで、王家は笑い者だ!」



国王は手を振り下ろし、近衛兵に命じた。

国王
「ルビーを捕えよ! 公爵令嬢を愚弄し、王家を揺るがした罪──重く裁かねばならん」

近衛兵が動き出すと、ルビーは悲鳴をあげて引きずられていった。
カナタは声も出せず、ただ震えていた。



その場に居合わせた宰相が一歩進み出て、低く進言した。

宰相
「陛下……さらに厄介なことに。
キャスリン嬢にはすでに、他国の貴族や王弟殿下から“結婚申し込み”の打診が舞い込んでいるとの噂が……」



国王の眉間が深く刻まれる。

国王
「なに……!?
つまり我らが愚息は、公爵令嬢を切り捨て、敵国に与えるとでも言うのか!」

廷臣たちの間に戦慄が走った。
キャスリンの評価は国内よりもむしろ国外で高まりつつある──その噂はもはや抑えきれなかった。



国王
「……カナタ。お前はもう“王太子”としての資格を失ったも同然だ」

低く冷たい宣告に、王太子の顔から血の気が失せる。


宰相
「……公爵令嬢。何も、ここまで事を大きくなさらずとも。
王家としても、適切な補償を──」

キャスリン
「補償?」
涼やかに微笑んで、カップを置く。

「愛情なんてないのが政略結婚。
だからこそ、お互いに契約を交わすんじゃありませんの?」

宰相の表情が引きつる。

「それを破って“なんとかなる”と思っていたのなら、
あなた方は──公爵家を、みくびりましたわね」



一瞬、部屋の温度が下がったように感じた。
宰相は言葉を失い、ただ背筋を伸ばして頭を下げるしかなかった。

宰相(心の声)
(……この女こそ、王国で最も恐ろしい存在かもしれぬ)


感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢にざまぁされた王子のその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。 その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。 そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。 マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。 人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。

幼馴染が最優先な婚約者など、私の人生には不要です。

たると
恋愛
シュタイン伯爵家の長女エルゼは、公爵子息フィリップに恋をしていた。 彼の婚約者として選ばれた時は涙を流して喜んだが、その喜びもいまは遠い。 『君は一人でも大丈夫だろう。この埋め合わせは必ずする。愛している』 「……『愛している』、ですか」 いつも幼馴染を優先するアルベルトに、恋心はすっかり冷めてしまった。

結婚式の翌朝、夫に「皇太子の愛人だろう」と捨てられました――ですが私は、亡き国王の娘です

柴田はつみ
恋愛
母の遺した薬草店を守りながら、慎ましく暮らしていたアンリ。 そんな彼女に求婚してきたのは、国内でも名高い騎士にして公爵家当主、アルファだった。 真っすぐな想いを向けられ、彼を信じて結婚したアンリ。 けれど幸せなはずの結婚式の翌朝、夫は冷たく言い放つ。 「君を愛していると本気で思っていたのかい? 」 彼はアンリが第一皇太子と深い仲にあり、自分との結婚は身を隠すための偽装だと誤解していたのだ。 アンリは実は、亡き国王の婚外子。 皇太子にとっては、隠して守らなければならない妹だったのである。

【完結】さよなら、馬鹿な王太子殿下

花草青依
恋愛
ビーチェは恋人であるランベルト王太子の傍らで、彼の“婚約破棄宣言”を聞いていた。ランベルトの婚約者であるニナはあっさりと受け入れて去って行った。それを見て、上手く行ったと満足するビーチェ。しかし、彼女の目的はそれだけに留まらず、王宮の平和を大きく乱すものだった。 ■主人公は、いわゆる「悪役令嬢もの」の原作ヒロインのポジションの人です ■画像は生成AI (ChatGPT)

幼馴染み同士で婚約した私達は、何があっても結婚すると思っていた。

喜楽直人
恋愛
領地が隣の田舎貴族同士で爵位も釣り合うからと親が決めた婚約者レオン。 学園を卒業したら幼馴染みでもある彼と結婚するのだとローラは素直に受け入れていた。 しかし、ふたりで王都の学園に通うようになったある日、『王都に居られるのは学生の間だけだ。その間だけでも、お互い自由に、世界を広げておくべきだと思う』と距離を置かれてしまう。 挙句、学園内のパーティの席で、彼の隣にはローラではない令嬢が立ち、エスコートをする始末。 パーティの度に次々とエスコートする令嬢を替え、浮名を流すようになっていく婚約者に、ローラはひとり胸を痛める。 そうしてついに恐れていた事態が起きた。 レオンは、いつも同じ令嬢を連れて歩くようになったのだ。

「では、ごきげんよう」と去った悪役令嬢は破滅すら置き去りにして

東雲れいな
恋愛
「悪役令嬢」と噂される伯爵令嬢・ローズ。王太子殿下の婚約者候補だというのに、ヒロインから王子を奪おうなんて野心はまるでありません。むしろ彼女は、“わたくしはわたくしらしく”と胸を張り、周囲の冷たい視線にも毅然と立ち向かいます。 破滅を甘受する覚悟すらあった彼女が、誇り高く戦い抜くとき、運命は大きく動きだす。

ようやく自由にしてくださって感謝いたします

一ノ瀬和葉
恋愛
華やかな舞踏会の夜、突然告げられた婚約破棄。 誰もが涙と屈辱を予想する中、令嬢の唇からこぼれたのは――思いがけない一言だった。 その瞬間から、運命は静かに、しかし決定的に動き出す。 ※ご都合です、小説家になろう様でも投稿しています。

婚約破棄されてしまいました。別にかまいませんけれども。

ココちゃん
恋愛
よくある婚約破棄モノです。 ざまぁあり、ピンク色のふわふわの髪の男爵令嬢ありなやつです。 短編ですので、サクッと読んでいただけると嬉しいです。 なろうに投稿したものを、少しだけ改稿して再投稿しています。  なろうでのタイトルは、「婚約破棄されました〜本当に宜しいのですね?」です。 どうぞよろしくお願いしますm(._.)m