『婚約破棄はおいくら?』 ──婚約破棄はまず、精算からお願いしてもいいですか?

夢窓(ゆめまど)

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王家に請求書が届く

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──翌朝。
王城の執務室。分厚い封蝋つきの書状が届けられ、執事が王子カナタの前に差し出した。



執事
「殿下、商人ギルドから正式な請求が届いております」

カナタ
「……請求? たかが婚約破棄に、何を大げさに──」

しかし、封を切った瞬間、彼の顔色がみるみる蒼白に変わる。

カナタ
「き、金貨三百万枚!? 馬鹿な、こんな額……!」



隣でルビーが覗き込み、叫んだ。

ルビー
「三百万!? た、ただの本好き女に、そんな値打ちがあるわけないわ!」

しかし執務室に控える文官が一歩前に出て、冷ややかに告げた。

文官
「ギルド査定の結果は正当です。
しかも──影の調査報告によれば、殿下から“婚約者キャスリン嬢への贈答”はすべて、なぜかルビー嬢に流れていたとのこと」



一同が凍りつく。
カナタはしどろもどろに弁解を口にした。

カナタ
「そ、それは……ルビーに似合うと思っただけで──」

文官
「つまり、正当な婚約者をないがしろにし、他の女性に資産を横流ししていた、という事実ですね」



ルビー
「そ、そんな言い方やめて! わたくしは殿下に求められただけで……!」

しかし周囲の貴族や官僚は冷ややかに見ている。
請求書の金額よりも、“王子の婚約者軽視”という事実が、国中に広まることを恐れていた。



別の官僚
「これでは裁判となった場合、王家の面目は丸潰れですな」

文官
「殿下、支払えないのであれば、名誉の失墜は避けられません」



カナタは頭を抱え、ルビーは泣き崩れる。
その惨めな姿が、窓越しに差し込む朝日に照らされていた。


(国王の激怒とルビー排除)

──王城、謁見の間。
請求書を受け取った国王が玉座に座り、怒声を轟かせていた。



国王
「愚か者がッ!
婚約者を軽んじ、賠償金を背負い、王家の名誉を地に落とすとは!」

その声に、大理石の床が震えるほど。
廷臣たちは皆、息を呑み、誰一人として口を開けない。



カナタ
「ち、父上……! ですが、私はルビーを──」

国王
「黙れ! その女こそ諸悪の根源だ!」

鋭い視線がルビーに突き刺さる。
ルビーは顔を真っ青にし、必死に縋りついた。

ルビー
「お、王よ……! わ、私は殿下に求められて……!」

国王
「誰がそのような言い訳を信じるか!
貴様が甘言を弄して王子を惑わせたせいで、王家は笑い者だ!」



国王は手を振り下ろし、近衛兵に命じた。

国王
「ルビーを捕えよ! 公爵令嬢を愚弄し、王家を揺るがした罪──重く裁かねばならん」

近衛兵が動き出すと、ルビーは悲鳴をあげて引きずられていった。
カナタは声も出せず、ただ震えていた。



その場に居合わせた宰相が一歩進み出て、低く進言した。

宰相
「陛下……さらに厄介なことに。
キャスリン嬢にはすでに、他国の貴族や王弟殿下から“結婚申し込み”の打診が舞い込んでいるとの噂が……」



国王の眉間が深く刻まれる。

国王
「なに……!?
つまり我らが愚息は、公爵令嬢を切り捨て、敵国に与えるとでも言うのか!」

廷臣たちの間に戦慄が走った。
キャスリンの評価は国内よりもむしろ国外で高まりつつある──その噂はもはや抑えきれなかった。



国王
「……カナタ。お前はもう“王太子”としての資格を失ったも同然だ」

低く冷たい宣告に、王太子の顔から血の気が失せる。


宰相
「……公爵令嬢。何も、ここまで事を大きくなさらずとも。
王家としても、適切な補償を──」

キャスリン
「補償?」
涼やかに微笑んで、カップを置く。

「愛情なんてないのが政略結婚。
だからこそ、お互いに契約を交わすんじゃありませんの?」

宰相の表情が引きつる。

「それを破って“なんとかなる”と思っていたのなら、
あなた方は──公爵家を、みくびりましたわね」



一瞬、部屋の温度が下がったように感じた。
宰相は言葉を失い、ただ背筋を伸ばして頭を下げるしかなかった。

宰相(心の声)
(……この女こそ、王国で最も恐ろしい存在かもしれぬ)


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